がんと生きる・在宅療養コラム

直腸がん末期の治療・療養

骨盤という狭い場所で起こることを知り、家で過ごすための備えを整える。ふくろう訪問クリニック(福岡市早良区)がご家族向けにまとめました。

「大腸がん」とひとくくりに説明されることが多いのですが、直腸がんは、末期になったときの困りごとが結腸がんとかなり違います。直腸は骨盤という狭い部屋の奥にあり、膀胱・前立腺(女性では子宮と膣)・尿管・仙骨の神経とすぐ隣り合っているからです。

そのため直腸がんの末期では、全身の問題(食べられない・だるい)に加えて、骨盤の中で起こる症状——強い痛み、出血、しぶり腹、便や尿が出にくい——が生活を左右します。逆にいえば、その場所を狙った手当てをすると、楽になる部分が確かにあります。

このコラムでは、直腸がん末期に何が起こるのか、どんな治療の選択肢があるのか、そして家で過ごすときに何ができるのかを、できるだけやさしい言葉で、しかし具体的に整理します。在宅の部分はとくに詳しく書きました。

このページの内容

  1. 直腸がんはどのくらいの病気か(数字で見る)
  2. 「ステージⅣ」と「末期」は同じではない
  3. 直腸がん末期に起こること — 骨盤という狭い部屋
  4. 薬物療法と、その「切り替えどき」
  5. 骨盤の症状を狙って和らげる治療(放射線・ステント・ストーマ)
  6. 【在宅】家で過ごすという選択肢と、使える制度
  7. 【在宅】直腸がんの症状を家で手当てする
  8. 【在宅】急変・看取り・介護者の休息・話し合い
  9. ご家族ができること
  10. 受診・相談の目安

SECTION 01直腸がんはどのくらいの病気か

まず数字を押さえておきます。国立がん研究センターの最新の統計では、次のとおりです。

 直腸がん大腸がん全体(結腸+直腸)
1年に診断される数
(2023年)
51,603例
(男性32,214例/女性19,389例)
154,039例
(男性85,208例/女性68,830例)
1年に亡くなる数
(2024年)
16,119人
(男性9,995人/女性6,124人)
54,416人
(男性28,826人/女性25,590人)
5年相対生存率
(2018年診断例)
70.6%69.9%

出典:国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」直腸/大腸(2026年7月22日更新)。生存率は2018年に診断された方のデータです。

数字を読むときの注意

ニュースや冊子では、直腸がんは「大腸がん」に合算されて発表されるのがふつうです。大腸がん15万4千例のうち、約3分の1(5万1千例)が直腸がんと考えてください。残りの約10万例が結腸がんです。「大腸がんの生存率」と「直腸がんの生存率」の数字が資料によって違って見えるのは、この集計単位の違いが原因であることがほとんどです。

5年相対生存率が約7割というのは、消化器のがんの中では比較的良い数字です。早期に見つかれば治ることも多い。ただし進行して見つかった場合や、再発した場合には話が変わります。とくに直腸がんには、骨盤の中で再発しやすいという固有の性質があります。

SECTION 02「ステージⅣ」と「末期」は同じではない

ここは誤解がとても多いところです。「ステージⅣと言われた=末期」ではありません。

ステージⅣ 「どこまで広がっているか」の分類 ・肝臓や肺などに転移がある状態 ・診断された時点で決まる「地図」 ・薬物療法や手術で数年単位の 経過をたどる方も多い ・大腸がんは転移を切除して  治ることもあるがん種 末期(終末期) 「今どういう時期か」の判断 ・薬で進行を抑えることが 難しくなってきた ・体力の低下で治療に耐えられない ・治療の軸足を「病気を叩く」から 「生活を支える」へ移す時期 ※ 数か月〜1年前後を想定した言葉

図1 ステージは「広がりの地図」、末期は「今の時期の判断」。別々のものさしです。

とくに大腸がん(直腸がんを含む)は、肝臓や肺への転移があっても、それを手術で取りきれば治る方がいる、めずらしいがん種です。ですから「ステージⅣ」と告げられても、まだ治療で長く付き合っていける段階のことは少なくありません。

一方で「末期」というのは、薬でがんの勢いを抑えることが難しくなり、生活の質を守ることに医療の重心を移す時期を指します。医学的な正式な定義があるわけではありませんが、在宅医療や介護保険の制度では、おおむね「余命が半年〜1年以内と見込まれる状態」を目安として扱います。この線引きが、あとで説明する保険の使い方に直結します。

SECTION 03直腸がん末期に起こること — 骨盤という狭い部屋

直腸は、肛門から約15cmまでの腸のことです。この部分は骨盤という骨の器の中に、ぎゅうぎゅうに詰まっています。まず、その位置関係を見てください。

直腸のまわりには、大事なものが密集している 骨盤 仙骨 (+神経の束) 直腸 肛門 0cm 5cm 10cm 15cm 膀胱 尿管 前立腺 /子宮・膣 だから直腸がんは 大きくなると 「隣に食い込む」 症状が出ます

図2 直腸は肛門から約15cm。前に膀胱・前立腺(子宮・膣)、後ろに仙骨と神経の束、横に尿管。逃げ場のない場所です。

直腸がんは骨盤内で再発しやすい

大腸癌研究会の全国登録データ(2014年の症例)では、手術後に最初に再発した場所の割合は、結腸がんでは局所再発0.7%・吻合部再発0.7%にとどまるのに対し、直腸がんでは局所再発3.0%・吻合部再発1.5%と、明らかに高くなっています。手術後の局所再発の割合は1991〜1996年の症例で9.6%、2007年で5.4%、2014年で4.5%と年々下がってきましたが、それでも肺(7.4%)・肝臓(5.8%)に次いで多い再発の形です。

理由は単純で、骨盤の奥は視野が狭く、手術で余裕をもって取りきるのが難しいからです。しかも周囲の神経を傷つけると排尿や性機能に影響が出るため、切除範囲にも限界があります。

末期に出てくる7つの症状

骨盤の中で「押す・詰まる・つながる」ことで起きる症状 骨盤内の 腫瘍 ① 骨盤・おしりの痛み 仙骨の神経に届くと、しびれ・ 電気が走る痛み。座れなくなる ② 出血・粘液が出る じわじわ続くと貧血に。 下着の汚れ・においも負担 ③ しぶり腹(テネスムス) 出ないのに何度も便意。 夜も眠れない、最もつらい症状 ④ 便が出ない(狭窄・閉塞) 細い便・腹満・吐き気。 進むと腸閉塞になる ⑤ 尿が出にくい・水腎症 尿管が押されると腎臓が腫れ、 腎機能が落ちる(痛みは軽い) ⑥ 瘻孔(ろうこう) 腸と膣・膀胱に穴が通じ、 便やガスがそちらから出る ⑦ 足のむくみ・足の痛み リンパ・静脈が圧迫される。 血栓ができることもある + 全身の症状 食欲低下・体重減少・だるさ・ 腹水・肝転移による黄疸など ※ すべてが起こるわけではありません。どれが出ているかで、打つ手が変わります

図3 直腸がん末期の症状マップ。①〜④は腸そのもの、⑤〜⑦は「隣の臓器を押した結果」の症状です。

いちばん見落とされやすいのは③

しぶり腹(テネスムス)は、直腸の中に腫瘍という「便のかたまり」がずっとあるために、体が「まだ出す物がある」と勘違いして便意を出し続ける状態です。トイレに行っても何も出ない。それが1日に何十回も続き、夜も眠れない。数字に表れにくいので軽く見られがちですが、直腸がんの方がいちばん「つらい」と訴える症状のひとつです。痛み止めだけでは取れないので、後述する放射線治療やステロイド、局所の薬を組み合わせて対応します。

SECTION 04薬物療法と、その「切り替えどき」

切除できない進行・再発の大腸がん(直腸がんを含む)の薬物療法は、『大腸癌治療ガイドライン 医師用 2026年版』(大腸癌研究会編、2026年7月8日発行・第9版)にまとめられています。2024年版から2年ぶりの改訂で、免疫チェックポイント阻害薬と後方治療のエビデンスが更新されました。

いまの治療は、「がんの遺伝子の特徴(バイオマーカー)」と「がんのできた場所(左側か右側か)」で決まります。直腸は左側に分類されます。

まず組織で遺伝子を調べる MSI-H / dMMR (大腸がんの約5%) 一次治療から免疫療法 ニボルマブ+イピリムマブ またはペムブロリズマブ BRAF V600E 変異 (約5%・進行が速い) 分子標的薬を組み合わせる エンコラフェニブ+ セツキシマブ(+化学療法) RAS の状態で分かれる (直腸は「左側」に該当) RAS野生型+左側 → 抗EGFR抗体+化学療法 RAS変異型 → 抗VEGF抗体 効かなくなったら(後方治療) レゴラフェニブ/トリフルリジン・チピラシル+ベバシズマブ/フルキンチニブ など どの段階でも、症状をやわらげるケアは並行して受けられます

図4 薬物療法の大枠。実際のレジメン選択は主治医が全身状態も含めて判断します。

「もう薬をやめましょう」はどう決まるのか

ご家族から「まだ治療してほしいのに、病院に打ち切られた」というご相談をよくいただきます。抗がん剤をやめる判断は、多くの場合、次のようなサインが重なったときに行われます。

見ている点切り替えを考える目安
体力(PS)日中の半分以上を横になって過ごすようになった。身の回りのことに介助が必要になった
体重・食事食べられない状態が続き、体重がひと月単位で落ち続けている
副作用減量しても副作用で寝込む時間のほうが長い(治療の害が利益を上回る)
効果2〜3種類の治療をひととおり使い、画像で明らかに大きくなっている
本人の希望通院そのものが負担で、残された時間を家で過ごしたいという意思がある

大事なのは、「抗がん剤をやめる」は「医療をやめる」ではないということです。むしろここからは、痛み・便通・栄養・眠りといった生活を直接支える医療の比重が増えます。次のセクションで説明する骨盤の症状への手当ては、抗がん剤をやめたあとにこそ力を発揮します。

SECTION 05骨盤の症状を狙って和らげる治療

直腸がんの末期でいちばん知られていないのが、この分野です。全身に効く薬とは別に、「困っている場所だけを狙う」治療があります。代表が放射線治療、ステント、ストーマ、そして神経ブロックです。

① 緩和的放射線治療 — 出血としぶり腹によく効く

「放射線治療=治すための治療」と思われがちですが、症状をやわらげるためだけに、短期間・少ない回数で当てる使い方があります。これを緩和照射といいます。効果は数字でも確かめられています。

骨盤への緩和照射で、症状はどれくらい良くなるか 系統的レビューA(27研究・1,084例) 系統的レビューB(13研究・2024年) 0% 50% 100% 痛み 78% 90% 出血・分泌物 81% 85% しこり・骨盤症状 71% 84% 全体の症状改善 75% 71% 効果が続く期間は中央値でおよそ6〜9か月。よく使われる線量は「25グレイを5回」

図5 緩和照射の症状改善率(2つの系統的レビューより)。研究によって対象や線量が異なるため数値に幅がありますが、いずれも7〜9割の方で症状がやわらいでいます。

回数が少なくて済むのが利点

緩和照射でよく使われるのは「5回(1週間)」や「10回(2週間)」といった短い日程です。根治目的の30回近い治療とは負担がまったく違います。前向きの多施設研究では、10〜13回の照射で85%の方に症状の改善がみられ、とくに出血はほぼ全例で止まりました。在宅療養に切り替えたあとでも、この期間だけ通院して受けることは十分可能です。介護タクシーや訪問看護と組み合わせて通われる方もいます。「もう病院の治療は終わり」と言われた方でも、症状が強いなら放射線治療科への相談を検討する価値があります。

② 便の通り道を確保する — ステントとストーマ

腫瘍で腸が細くなり便が出なくなったとき、通り道を作る方法が2つあります。

方法どんなもの直腸がんでの注意点
大腸ステント内視鏡で金属の網状の筒を入れ、内側から腸を押し広げる。おなかを切らずに済む肛門から5cm以内の低い位置には原則として使いません。筒が肛門括約筋を刺激して、強いしぶり腹・肛門の痛み・便もれの原因になるためです
人工肛門(ストーマ)おなかに腸の出口を作り、便を袋に受ける。腫瘍より手前で便を迂回させる低い位置の閉塞ではこちらが現実的。全身麻酔の手術ですが、末期でも腹満・嘔吐から解放されて食べられるようになることがあります

「末期なのに手術?」と驚かれるかもしれません。しかし、吐き気で何も食べられず点滴だけの日々と、便が出て食事を楽しめる日々とでは、残された時間の中身が変わります。体力が残っているうちに決めておくことが大切で、これはご本人と主治医、そして在宅チームで前もって話し合っておくべきテーマです。

③ 尿の通り道を確保する — 尿管ステント・腎瘻

腫瘍が尿管を押しつぶすと、腎臓に尿がたまり(水腎症)、腎臓の働きが落ちます。痛みが出にくく、採血で腎機能の悪化として気づかれることが多い症状です。腎機能が落ちると、モルヒネなどの薬が効きすぎたり副作用が出やすくなったりするため、痛みの管理にも影響します。

対応としては、尿管の中に細い管を通す「尿管ステント」か、背中から腎臓に直接管を入れる「腎瘻」があります。ただし、これらは体に管を持つ生活を意味します。「腎機能を守ることで得られる時間」と「管の負担」を天秤にかける場面であり、正解はひとつではありません。ご本人が何を大事にしたいかが判断の軸になります。

④ 神経ブロック

骨盤の奥の内臓の痛みには「上下腹神経叢ブロック」、肛門・会陰部の痛みには「サドルブロック(くも膜下フェノールブロック)」といった方法があります。麻薬の量を増やしても取れない痛みに対して、麻酔科(ペインクリニック)と相談する選択肢です。眠気を増やさずに痛みだけを減らせる可能性があります。

ここから在宅医療の話

家で過ごすと決めたとき、
実際には何ができるのか

制度・症状の手当て・急変時の備えを、順番に説明します

SECTION 06家で過ごすという選択肢と、使える制度

「訪問診療」と「往診」は別のものです

まずここを整理しておくと、話が通じやすくなります。

 訪問診療往診
いつ来るかあらかじめ決めた日に、定期的に(多くは月2回〜週1回)具合が悪くなったときに、連絡を受けて臨時に
目的計画的な診察・薬の調整・状態の見通しを立てる急な症状への対応
関係この2つはセットです。定期の訪問診療で主治医として関わっているからこそ、夜間・休日の往診ができます

「末期のがん」には、特別な保険のルールがある

ここは知っているかどうかで、受けられるケアの量が大きく変わります。

「末期の悪性腫瘍」に該当すると、訪問看護の枠が広がります ふつうの訪問看護(介護保険) ・回数は週3日まで ・1日1回まで ・事業所は原則1か所 ・介護保険の支給限度額の中で やりくりする =ヘルパーや福祉用具と枠を 奪い合うことになる 末期がん(別表第七に該当) ・医療保険での訪問看護になる ・週4日以上、毎日でも訪問可 ・1日に複数回の訪問も可 ・事業所を2〜3か所併用できる ・介護保険の限度額を消費しない =ヘルパー・入浴・福祉用具に 介護保険の枠を回せる さらに状態が悪いときは「特別訪問看護指示書」(14日間)で一時的にもっと手厚くできます

図6 「末期の悪性腫瘍」は厚生労働大臣が定める疾病等(別表第七)に含まれます。該当すると訪問看護は医療保険扱いとなり、日数制限がなくなります。

  • 40〜64歳の方も介護保険が使えます。介護保険は原則65歳以上ですが、「がん(末期)」は16の特定疾病のひとつなので、40歳以上であれば要介護認定を申請できます。介護ベッド・車いす・ヘルパーが使えるかどうかが変わるので、必ず確認してください。
  • 要介護認定は急いで申請を。末期がんの場合、市区町村によっては暫定的にサービスを先行して開始できます。福岡市でもケアマネジャーが調整してくれますので、「認定が下りるまで待つ」必要はありません。
  • 特別訪問看護指示書は、状態が急に悪くなったときに主治医が交付する書類で、交付日から14日間、訪問看護を週4日以上・毎日でも入れられるようにします。看取りが近づいた時期や、点滴が必要になったときに使います。

SECTION 07直腸がんの症状を家で手当てする

ここからが本題です。SECTION 03で挙げた症状に、家でどう対応するかを順に見ていきます。

痛み — 3つの種類を分けて考える

直腸がんの骨盤の痛みは、性質の違う痛みが混ざっています。混ざったまま「痛み止めを増やす」だけでは、眠気ばかり増えて痛みが取れません。

痛みの種類どんな感じ方か家での対応
内臓の痛みおなかの奥がぼんやり重い、場所がはっきりしないオピオイド(医療用麻薬)がよく効く
骨・組織の痛みお尻や腰の一点が刺すように痛い。動くと響くオピオイド+消炎鎮痛薬。動く前に頓用を先回りで使う
神経の痛み電気が走る、焼ける、しびれる。太ももや会陰部に走るオピオイドだけでは取れにくい。鎮痛補助薬(プレガバリン、デュロキセチン、抗けいれん薬など)やステロイドを足す

持続皮下注(PCA)という方法

飲み薬が飲めなくなったり、痛みの波が大きくなったりしたときは、細い針をおなかや胸の皮膚の下に留置して、小型ポンプで少しずつ薬を入れ続ける方法に切り替えます。点滴の針を血管に入れる必要がなく、ご家族がボタンを押して追加投与(レスキュー)できるのが利点です。針の交換は数日に1回、訪問看護師が行います。在宅で最も頼りになる道具のひとつです。

しぶり腹(テネスムス)

先ほど述べたとおり、痛み止めだけでは取れません。家では次の組み合わせで対応します。

  • ステロイド:腫瘍まわりのむくみを減らし、便意の信号を弱めます。効くときは数日で変わります
  • 直腸に入れる薬:局所麻酔薬入りの軟膏、ステロイド坐薬・注腸など。訪問看護師が使い方を指導します
  • 緩和的放射線治療:根本的にはこれが最も効きます。しぶり腹が強い場合は、在宅療養中でも短期の照射を検討する価値があります
  • 環境の工夫:ポータブルトイレをベッドのすぐ横に置く、夜間の照明を確保する。「間に合わなかった」経験は自尊心を大きく傷つけるので、動線の短縮は立派な治療です

出血への備え — 起きる前に決めておく4つ

直腸がんでは、出血が最も家族を動揺させる出来事です。だからこそ、起きる前に準備しておきます。

  1. 方針を先に決める:出血したら救急車を呼ぶのか、家で対応するのか。ご本人の希望を含めて主治医と共有しておく
  2. 濃い色のタオルを用意する:紺・濃緑・黒などのタオルを枕元に。赤い血の色が見えにくくなるだけで、ご本人とご家族の恐怖はかなり違います
  3. 連絡先を目に見えるところに貼る:クリニックの24時間連絡先、訪問看護ステーションの番号を、電話のそばと冷蔵庫に
  4. 頓用薬を前もって処方してもらう:不安と苦しさをやわらげる薬(ミダゾラムなど)を、必要になってから取りに行くのでは間に合いません

じわじわ続く出血で貧血が進む場合は、在宅で赤血球輸血を行うことも可能です。事前の血液型検査や交差適合試験、輸血中の観察体制など決まりごとが多いため、実施できるかどうかは訪問診療のクリニックにご相談ください。

ストーマ(人工肛門)のケア

末期になると、それまで自分でできていたストーマの管理が難しくなります。家で困りやすいのは次の点です。

  • 皮膚のただれ:やせて腹壁がへこむと装具が密着せず、便がもれて皮膚が荒れます。装具のサイズや形(凸型など)の変更、練状皮膚保護剤の使用で改善します
  • 交換ができなくなる:訪問看護で交換を担当できます。ご家族が全部を背負う必要はありません
  • におい・ガス:脱臭フィルター付きの装具、消臭剤の併用。人が集まる時間帯の前に交換するなど、生活時間に合わせた工夫も有効です
  • 装具の入手:日常生活用具給付制度(身体障害者手帳を取得している場合)や、訪問看護からの相談窓口を活用します

瘻孔(膣や膀胱に便が通じてしまったとき)

直腸と膣、直腸と膀胱の間に穴ができると、膣から便やガスが出たり、尿に便が混じって膀胱炎を繰り返したりします。ご本人の尊厳に関わるつらい症状です。家でできる対応は、ストーマを作って便を上流で迂回させる(可能な場合)吸収パッドとスキンケアで皮膚を守る膀胱炎に対する抗菌薬を早めに使うの3本柱になります。においの管理も含め、訪問看護師の専門性が最も生きる領域です。

終末期の点滴 — 「減らす」ことが手当てになる

「食べられないから、せめて点滴を」というお気持ちは自然なものです。しかし亡くなる前の数週間になると、体は水分を血管の中に保っておけなくなります。入れた水分は、むくみ・腹水・痰・肺の水になって、かえって苦しさを増やします

この時期は、点滴を1日500mL前後かそれ以下に抑えるか、思い切って中止するほうが、呼吸も楽で、痰の吸引も減り、穏やかに過ごせることが多いのです。口の渇きに対しては、点滴ではなく口腔ケアと少量の氷片、口を湿らせるスプレーのほうがずっとよく効きます。

在宅でできる処置の一覧

できること内容
医療用麻薬の管理飲み薬・貼り薬・坐薬・持続皮下注(PCA)。量の調整は訪問診療で随時
持続皮下注射痛み止め、吐き気止め、鎮静薬。ポンプ管理は訪問看護師が担当
点滴・皮下輸液血管が細くなっても、皮下から水分を入れる方法が使えます
ストーマ管理装具交換、皮膚トラブルの処置、装具の選び直し
膀胱・腎瘻カテーテル管理交換、閉塞時の対応、尿路感染への抗菌薬投与
浣腸・摘便・坐薬便秘・宿便への対応。オピオイド使用中は便秘対策が必須です
腹水の穿刺腹水でおなかが張って苦しいとき、在宅で抜くことも可能です
創傷・瘻孔のケア皮膚保護、におい対策、被覆材の選択
酸素療法呼吸が苦しいとき。機器は業者が自宅に設置します
採血・尿検査腎機能や貧血のチェック。結果は訪問診療で説明します

SECTION 08急変・看取り・介護者の休息・話し合い

家で亡くなっても「事件」にはなりません

いちばん多いご不安が、「家で息を引き取ったら、警察が来るのではないか」というものです。その心配は要りません。

医師法第20条の「ただし書き」により、診療を継続している患者が、その診ていた病気で亡くなった場合、医師は死亡後あらためて診察をしなくても死亡診断書を書くことができます(最終の診察から24時間を超えていても構いません)。この点は厚生労働省の通知(平成24年8月31日 医政医発0831第1号)で明確にされています。

つまり、訪問診療でかかりつけになっている医師がいれば、夜中に息を引き取っても、あわてて救急車を呼ぶ必要はありません。まず訪問看護ステーションかクリニックに電話してください。朝までゆっくりお別れの時間を過ごしてから、医師が伺うという形でも問題ありません。

介護するご家族が倒れないために — レスパイト入院

在宅療養が続かなくなる最大の理由は、病状ではなく介護するご家族の疲れです。数日〜2週間ほど入院していただき、その間にご家族が休む「レスパイト入院」という仕組みがあります。

大事なのは、限界が来てから探すのではなく、在宅を始める段階で「疲れたときの逃げ場」を決めておくことです。当クリニックでも、あらかじめ連携病院と相談したうえで在宅療養を開始します。「弱音を吐いたら見捨てられる」ということは決してありません。

これからのことを話し合っておく(ACP)

アドバンス・ケア・プランニング(人生会議)とは、これからどう過ごしたいかを、ご本人・ご家族・医療者で繰り返し話し合っておくことです。直腸がんの場合、具体的には次のようなテーマがあります。

  • 便が出なくなったとき、ストーマを作る手術を受けるか
  • 尿管が詰まったとき、ステントや腎瘻を入れるか
  • 大量に出血したとき、救急車を呼ぶか、家で対応するか
  • 食べられなくなったとき、点滴や栄養の管をどうするか
  • 最期をどこで迎えたいか(家・病院・緩和ケア病棟)

一度決めたら変えられない、というものではありません。気持ちは変わって当然です。変わったら、そのつど言い直していただければいい——そのために医療者が定期的に訪問しています。

家で過ごすことを支えるチーム ご本人と ご家族 訪問診療医 定期診察・薬の調整・看取り 訪問看護師 処置・ストーマ・24時間対応 ケアマネジャー 介護サービス全体の設計 薬剤師 麻薬の配達・管理・説明 ヘルパー・入浴 身の回りの世話・清潔 病院・緩和ケア科 放射線治療・レスパイト入院 ひとりで抱えなくて大丈夫です。役割を分けるのが在宅医療の基本です

図7 在宅チームの構成。ご家族は「介護の担当者」ではなく、チームの一員です。

SECTION 09ご家族ができること

専門的な処置は医療者が担います。ご家族にしかできないこと、そしてご家族が気づいてくださると助かることを整理しました。

場面見てほしいこと気づいたときの連絡
痛み顔をしかめる、体を動かさなくなる、夜眠れない、座り方が変わった「言葉で訴えない痛み」があります。様子が変わったら遠慮なく連絡を
お通じ何日出ていないか、便の太さ、しぶり腹の回数3日以上出ない、細い便になった、おなかが張って吐き気がある
出血下着やパッドの汚れの量と色急に量が増えた、めまい・ふらつきが出た
尿1日に出た量、色、においの変化丸1日ほとんど出ていない、濁って熱が出た
ストーマ装具の下の皮膚の赤み、便のもれ、出てくる便の量もれが続く、皮膚がただれてきた、便もガスも丸1日出ていない
食事・水分食べられた量。無理に食べさせなくて大丈夫です飲み込みでむせるようになった、薬が飲めなくなった
気持ち「そばにいる」だけで十分です。励ましより、話を聞くこと眠れない、不安が強い、混乱している様子がある
ご家族へ

「もっとしてあげられることがあったのでは」と、後になってご自身を責める方がとても多くいらっしゃいます。しかし、そばにいて、様子を見て、連絡をくださること自体が、専門的な処置と同じくらい大きな役割です。介護するご自身の睡眠と食事も、治療の一部だと考えてください。

SECTION 10受診・相談の目安

緊急度こんなとき行動
すぐ連絡大量の出血、意識がもうろうとしている、丸1日以上尿が出ない、強い腹痛と嘔吐が続く、痛みが薬でまったく抑えられない訪問看護ステーションまたはクリニックの24時間連絡先へ
その日のうちに発熱が続く、便が3日以上出ない、しぶり腹で眠れない、ストーマから丸1日便もガスも出ない日中に電話で相談。往診で対応できることが多くあります
次の訪問時にむくみが増えてきた、食欲が落ちてきた、装具が合わなくなってきた、気持ちが落ち込むメモにして渡していただけると助かります

ふくろう訪問クリニックにご相談ください

当クリニックは福岡市早良区を拠点に、緩和ケア・難病・精神科・認知症を専門とする在宅医療を行っています。院長は放射線治療専門医でもあり、国立がん研究センター中央病院・東京大学病院放射線科で、がんの症状をやわらげる治療に携わってきました。

直腸がんの骨盤の症状については、「薬だけでなく、その場所を狙った治療で楽になる余地がないか」という視点から一緒に考えることができます。病院での治療がひと区切りついた方、退院の話が出ている方、ご家族だけの相談でも構いません。併設の訪問看護リハビリステーションと連携し、24時間の体制でお支えします。まずはお電話ください。

参考文献・出典
  1. 国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」直腸/大腸(全国がん登録罹患データ2023年、人口動態統計死亡データ2024年、全国がん登録生存率データ2018年診断例)。2026年7月22日更新。
  2. 大腸癌研究会 編『大腸癌治療ガイドライン 医師用 2026年版(第9版)』金原出版、2026年7月8日発行。ISBN 978-4-307-20515-3
  3. 大腸癌研究会・全国登録2014年症例における初発再発部位別再発割合(結腸癌 局所0.7%・吻合部0.7%/直腸癌 局所3.0%・吻合部1.5%、直腸癌術後局所再発割合の推移 1991–1996年9.6%→2007年5.4%→2014年4.5%)
  4. Cameron MG, Kersten C, Guren MG, et al. Palliative pelvic radiotherapy of symptomatic incurable rectal cancer — a systematic review. Acta Oncologica. 2014;53(2):164–173. DOI: 10.3109/0284186X.2013.837582
  5. Bisson E, Piton L, Durand B, Sarrade T, Huguet F. Palliative pelvic radiotherapy for symptomatic frail or metastatic patients with rectal adenocarcinoma: A systematic review. Digestive and Liver Disease. 2024. DOI: 10.1016/j.dld.2024.07.026(PMID: 39127573)
  6. Cameron MG, Kersten C, Vistad I, et al. Palliative pelvic radiotherapy for symptomatic rectal cancer — a prospective multicenter study. Acta Oncologica. 2016;55(12):1400–1407. DOI: 10.1080/0284186X.2016.1191666
  7. 日本緩和医療学会 ガイドライン統括委員会 編『がん患者の消化器症状の緩和に関するガイドライン 2017年版』金原出版、2017年12月25日発行
  8. 厚生労働省医政局医事課長通知「医師法第20条ただし書の適切な運用について」平成24年8月31日 医政医発0831第1号
  9. 厚生労働大臣が定める疾病等(診療報酬の算定方法 別表第七)、介護保険法における特定疾病16疾病

※ このコラムは一般的な医学情報の提供を目的としたものであり、個々の患者さんの診断・治療方針を示すものではありません。実際の治療については必ず主治医とご相談ください。統計値は執筆時点(2026年7月)で公表されている最新のものを用いています。