「精度」の数字を、家族が自分で読めるようになる
尿を送るだけで、線虫という小さな生き物が「がんのにおい」をかぎ分ける。その検査の「感度9割以上」という数字は、本当に論文にあります。 ただ、この数字は「陽性と言われたあなたが、がんである確率」ではありません。 この回では、その違いを1,000人の図で読めるようにします。
この回の結論
- 「感度9割以上」は、がんの人を陽性にできる割合です。「陽性の人ががんである割合」ではありません。
- がんの人が少ない集団で使うと、陽性と言われた人の大半は、がんではない人になります。
- この検査は、国が勧めるがん検診には入っていません。「死亡を減らす」と確かめられた検診は、5つだけです。
SECTION 01 何を測っている検査か
線虫という1ミリほどの生き物は、においに敏感です。がんの人の尿に近づき、そうでない人の尿から離れる性質を使って、 尿を垂らした皿の上で線虫がどちらへ動いたかを数え、「陽性」「陰性」を判定します。 開発した研究者の2015年の論文では、242検体で感度95.8%、特異度95.0%と報告されました(Hirotsu ら、PLoS One 2015)。
SECTION 02 1,000人で考える
仮に、1,000人が検査を受け、そのうち5人にがんがあるとします(1,000人に5人は、中高年の集団でおおよそ現実的な割合です)。 論文の数字をそのまま当てはめると、次のようになります。
図1 感度・特異度がともに95%でも、がんの人が少ない集団では、陽性の大半はがんではない人になる。これはこの検査に限らず、すべての検査に共通の算数。
「陽性」の紙を受け取った人にとって大事なのは、感度ではなく、「自分ががんである確率」です。 この仮定では約9%。10人に1人です。残りの9人は、がんではないのに、次の節の「精密検査」に進むことになります。
SECTION 03 陽性のあとに、何が待っているか
この検査は「全身のがんのリスク」を判定するもので、どの臓器のがんかは分かりません。 陽性のあとは、自分で病院を探し、全身を調べることになります。
- 全身を調べる負担CT、胃と大腸の内視鏡、腫瘍マーカー、場合によっては PET。費用と時間と、被ばくや検査の合併症が伴います。
- 見つかっても、治療しないがん高齢の方の前立腺や甲状腺には、一生悪さをしないがんが珍しくありません。見つけたことで、不要な治療や不安が生まれます(過剰診断)。
- 何も見つからない不安全身を調べても見つからないことが、陽性の人の大半です。それでも「どこかにあるのでは」という不安が残り、半年後にまた検査を受ける人がいます。
感度・特異度の元になった2015年の論文は、開発した研究者によるもので、242検体でした。その後も研究は続いていますが、 2026年9月時点で私たちが確認できた範囲では、開発元と共同研究者による報告が中心で、 症状のない一般の集団に大人数で使い、「陽性の人のうち実際にがんだった割合」や「がんによる死亡が減ったか」を第三者が確かめた研究は見当たりません。
国立がん研究センターは、がん検診には利益(早期発見、死亡の減少)と不利益(偽陰性、偽陽性、過剰診断、検査の合併症)の両方があり、 国が勧める検診は「死亡を減らす効果が確実で、利益が不利益を上回る」ものに限られる、と説明しています。 感度が高いことと、死亡を減らすことは、別の問いです。
SECTION 04 国が勧める検診は、5つ
「死亡を減らす」ことが比較試験で確かめられ、国が市区町村の検診として勧めているがん検診は、次の5つです。
| がんの種類 | 検査 | 対象 | 間隔 |
|---|---|---|---|
| 胃がん | 胃X線検査 または 胃内視鏡検査 | 50歳以上 | 2年に1回 |
| 大腸がん | 便潜血検査 | 40歳以上 | 1年に1回 |
| 肺がん | 胸部X線検査(喫煙者などは喀痰細胞診も) | 40歳以上 | 1年に1回 |
| 乳がん | マンモグラフィ | 40歳以上 | 2年に1回 |
| 子宮頸がん | 細胞診 または HPV検査 | 20歳以上 | 2〜5年に1回(検査による) |
表1 国が勧める5つのがん検診(厚生労働省「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針」、令和7年12月24日改正)。対象年齢と間隔の細目は指針を参照。福岡市の検診は市のページで確認できる。
がん検診には、市区町村が公費で行う「対策型検診」と、人間ドックなどで自分で選んで受ける「任意型検診」があります。 線虫の検査は任意型で、全額自費です。任意型には、効果が確かめられていない検査も含まれます。 「受けられる」ことと「受けたほうがよい」ことは別だ、というのが国立がん研究センターの説明です。
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こう言われたら「感度9割以上で、早期がんも見つかります」こう聞き返す「受けた人のうち、陽性で本当にがんだった人は何割ですか」
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こう言われたら「尿だけで、全身のがんが一度に分かります」こう聞き返す「陽性のあと、どの臓器を、何の検査で調べるのですか」
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こう言われたら「早く見つけて、命を守りましょう」こう聞き返す「この検査で、がんの死亡が減ったという試験はありますか」
80代の方が、お子さんに勧められて受けた検査の「陽性」の紙を握りしめて、眠れなくなっていることがあります。 私たちがまず話すのは、図1の算数です。そして次に、「もし小さながんが見つかったら、手術や抗がん剤を受けますか」と聞きます。 体力や持病から考えて「受けない」という答えなら、全身を調べる意味は小さく、不安だけが残ります。 検査は、「陽性だったらどうするか」を先に決めてから受けるものです。
検査の数字を読めることは、一生ものの防御です。
この回で説明した「1,000人の算数」は、線虫の検査だけの話ではありません。血液1滴の検査も、遺伝子の検査も、これから出てくる新しい検査も、 すべて同じ算数で読めます。感度と特異度と、その集団にがんの人がどれだけいるか。この3つで、「陽性の自分ががんである確率」が決まります。
新しい検査を否定したいのではありません。研究は続いていて、いつか「死亡を減らす」ことが示されるかもしれません。 ただ、それが示される前に受けるなら、「陽性の紙を受け取ったあと、自分はどう動くか」を先に決めておいてください。 決めずに受けた検査の陽性は、不安しか生みません。
この回のチェックリスト(第5回ぶん)
- 「感度」と「陽性の人ががんである確率」が別のものだと、人に説明できる。
- 「陽性だったら、どの臓器を何で調べるか」「見つかったら治療を受けるか」を、受ける前に決めた。
- 国が勧める5つの検診(胃・大腸・肺・乳・子宮頸)を、年齢に応じて受けている。
- 「この検査で死亡が減った試験はあるか」を聞いた。
- 陽性の紙を受け取ったら、ひとりで抱えず、かかりつけ医かがん相談支援センターに持って行くことにした。
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- がん相談支援センターがんの治療で迷ったとき。県内すべてのがん拠点病院にあり、その病院にかかっていなくても無料で相談できます/福岡県「福岡県内のがん拠点病院がん相談支援センター」
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REFERENCE 参考資料
- Hirotsu T, Sonoda H, Uozumi T, et al. A highly accurate inclusive cancer screening test using Caenorhabditis elegans scent detection. PLoS One. 2015;10(3):e0118699(https://doi.org/10.1371/journal.pone.0118699)
- 厚生労働省「がん検診」(がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針、令和7年12月24日改正)(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000059490.html)
- 国立がん研究センター がん情報サービス「がん検診について」(https://ganjoho.jp/public/pre_scr/screening/about_scr01.html)
- 国立がん研究センター がん対策研究所 検診研究部「科学的根拠に基づくがん検診推進のページ」(https://canscreen.ncc.go.jp/)
- 厚生労働省「統合医療」情報発信サイト eJIM「情報の見極め方」(https://www.ejim.ncgg.go.jp/public/hint/index.html)

