ふくろう訪問クリニック コラム / 2026年8月

反ワクチン・陰謀論に「ハマりやすい人」の特徴
― 最新研究が示した、意外な事実

「あの人はどうして、あんな情報を信じてしまうんだろう」。ご家族や友人について、そう感じたことのある方は少なくないと思います。反ワクチンや陰謀論の話題は、しばしば「信じる人 vs 信じない人」という対立の図式で語られます。

けれども、2026年7月31日に東京大学から発表された日本人約3万人の解析は、その図式そのものを揺さぶる結果を示しました。誤情報を信じている人の6割以上が、それでもワクチンを打っている(打つつもりでいる)というのです。

この記事では、「ハマりやすさ」に関する最新の研究を、できるだけ噛みくだいて整理します。そのうえで、私たちが日々おこなっている在宅医療の現場では何が起きているのかを、一段深く掘り下げます。誰かを分類したり批判したりするための記事ではありません。むしろ「これは自分にも起こりうる」と気づくための記事です。

SECTION 01「誤情報を信じる=ワクチンを拒否する」ではない

まず、いちばん大事な前提から。東京大学 新世代感染症センターの古瀬祐気教授と東北大学の田淵貴大准教授の研究チームが、2021年9〜10月に15〜80歳の約3万人を対象に行われた大規模調査(JACSIS)のデータを解析し、2026年7月31日に国際誌 Frontiers in Public Health に発表しました[1]。

結果は、私たちが抱きがちなイメージとかなり違いました。

FIGURE 1 「信じている人=拒否する人」ではない 誤情報を1つ以上信じている人(n=該当者全体) 接種済み・接種意向あり 63.6% 拒否 36.4% ワクチンを拒否している人 誤情報は信じていない 63.4% 信じている 36.6% 出典:古瀬・田淵, Frontiers in Public Health, 2026年7月31日(インターネット調査の偏りを補正した集計値)

図1|誤情報を信じていても6割超は接種している/接種意向がある。逆に、ワクチンを拒否している人の6割超は、誤情報を信じているわけではない。

もう少していねいに見ていきます。

  • 「ワクチンの有効性や安全性のデータは捏造されている」といった何らかの誤情報を信じている人の割合は、接種した人で 8.1%、拒否した人で 36.6% でした。たしかに拒否した人のほうが高い。しかし裏を返せば、拒否した人の63.4%は誤情報を信じていないということです[1]。
  • そして、誤情報を少なくとも1つ信じている人のなかでも、63.6%は接種済みか接種意向ありでした[1]。
  • ただし、信じている誤情報の「数」が増えるほど、接種意向のある人の割合は下がっていくという傾向もはっきり見られました[1]。
ここから読み取れること

ワクチンを打たない理由は、誤情報だけではありません。副反応がこわい、注射が苦手、忙しい、そもそも関心がない、以前いやな思いをした――理由はさまざまです。一方で、多少あやしい話を耳にしても「まあ、打っておくか」と行動する人も大勢いる。信念と行動は、思っているほど直結していないのです。

ですから「打たない人=陰謀論者」というレッテル貼りは、実態からも外れているうえに、対話の入口を最初に塞いでしまいます。

SECTION 02「ハマりやすさ」を作る3つの土台

では、陰謀論的な考え方に傾きやすい人には、どんな共通点があるのでしょうか。この分野で最も規模の大きい統合解析が、2023年に Psychological Bulletin に発表されたメタ分析です。170研究・257サンプル・52変数・1,429の効果量・のべ158,473人のデータを統合したものです[2]。

この解析が抽出した「最も強く関連する要素」は、大きく3つのかたまりでした。

FIGURE 2 ハマりやすさを支える土台(メタ分析+近年の知見) 1 危険・脅威を感じやすい 世界は危ない場所だ、誰かが自分に 害を与えようとしている——という 感覚。不安・被害的な受け取り方が 強いほど関連が大きい。 2 直感で決める・変わった信念 立ち止まって検算するより、ピンと きた感覚を信じる。超常現象など、 通常とは異なる体験・信念を持ちや すい傾向とも関連する。 3 対人的な敵意・優越感 他人を疑い、争いを辞さない構え。 「自分は真実を知っている側だ」と いう特別感(自己愛的な傾向)とも 結びつく。 4 自分の判断力への過信 2025年に追加された視点。自分の 読み取り能力を実際より高く見積も り、しかも「みんな自分と同じ考え のはずだ」と大きく誤解する。

図2|1〜3はBowesら(2023)のメタ分析、4はPennycookら(2025)による。いずれも「その人が悪い」という話ではなく、人間の心が持つ傾きの強弱を示したもの。

土台① 危険を感じ取るセンサーが敏感

最も強い関連が見られたのは、脅威や危険を感じ取りやすいことでした[2]。「世界は油断ならない」「誰かが自分に不利益を与えようとしている」という感覚です。

これは弱さではなく、本来は生存に役立つ機能です。ただ、このセンサーが敏感なとき、「偶然の出来事」より「誰かの意図」のほうが説明としてしっくりきます。大きな出来事には大きな原因があるはずだ、という感覚(比例バイアス)も働きます。ワクチン接種後に体調を崩した人がいれば、「偶然の同時発生」より「隠された害」のほうが腑に落ちてしまう。

土台② 直感を信じ、立ち止まらない

2つ目は、じっくり検算するより直感で判断する思考スタイルです[2]。これも日常生活では効率的な戦略です。しかし、直感に強く訴えるように作られた情報(不安をあおる見出し、感動的な体験談、断定的な語り口)に対しては、無防備になります。

土台③ 他者への不信と、「知っている側」という感覚

3つ目は、他人に対する敵対的な構えと、優越感です[2]。ここには「自分は目覚めている側の人間だ」という感覚が含まれます。だからこそ、正面から否定されると、情報が否定されたのではなく自分の存在価値が否定されたように感じられるのです。議論が感情的にこじれる理由の多くは、ここにあります。

SECTION 032025年の新しい発見 ―「自分は多数派だ」という強い誤解

2025年5月、Personality and Social Psychology Bulletin に発表された研究は、これまでとは違う角度から光を当てました。米国の成人4,181人を対象とした8つの研究です[3]。

この研究が見つけたのは、陰謀論を信じる人が自分の判断能力を実際より高く見積もる傾向(過信)が強いことでした。しかもその傾向は、分析的思考の得意さや「人と違っていたい」という欲求、自己愛といった要因を統計的に取り除いても残り、もっともマイナーな説を信じている人ほど過信が強いという関係でした[3]。

さらに驚くのが、次の数字です。

「みんなも同じことを考えている」という誤解

提示された陰謀論的な主張が実際に過半数から支持されたのは、全体の 12% の場面だけでした。ところが、その説を信じている人たちは 93% の場面で「自分は多数派の側にいる」と考えていました。実に 4倍以上の過大評価です[3]。

つまり多くの場合、本人は自分が少数派であることに気づいていません。「常識だと思っていることを言っているだけ」という主観で話しているのです。

これは、対話のうえで非常に重要な示唆を含んでいます。「そんなことを言っているのはあなただけですよ」という指摘は、本人にとっては予想外の攻撃として届きます。そして、予想外の攻撃を受けたとき、人は考えを改めるのではなく、防御を固めます。

SECTION 04「その人の性格」より効いているもの ― 情報の入口

ここまでは個人の心理的な傾向の話でした。しかし東京大学の研究がもっと実用的に示したのは、その人がどこから情報を得ているかという環境の力です。

研究チームは「ワクチン忌避」と「信じている誤情報の多さ」に共通する要因を探索し、若年・低収入・インターネットやSNSからの情報収集という3つを同定しました[1]。そのうえで、「誤情報を信じていない人」と「信じている人」に分けて、接種意向と関連する要因を比較しています。

FIGURE 3 どこから情報を得ているかで、傾きが変わる 忌避(打たない)に傾いた要因 接種意向に傾いた要因 インターネット・SNS 両群で関連。誤情報を信じる人でより強い 低収入 両群に共通してみられた 医師からの情報 両群に共通して接種意向と関連 テレビ・新聞 両群で関連。誤情報を信じる人でより強い 政府からの情報 誤情報を信じていない人でのみ関連 高齢であること 信じていない人でのみ。信じる人では20代が高い 出典:古瀬・田淵, Frontiers in Public Health, 2026年7月31日(東京大学プレスリリース図2の内容を再構成)

図3|「誤情報を信じている人」に届く経路と届かない経路がある。政府発信は、誤情報を信じている人には有意な関連が検出されなかった。

ここで注目したいのは3点です。

  1. 医師からの情報は、どちらのグループでも接種意向と関連していた[1]。誤情報を信じているかどうかに関係なく届いた、数少ない経路です。
  2. 政府からの情報は、誤情報を信じている人では有意な関連が検出されなかった[1]。公的機関の発信が、届いてほしい相手にいちばん届きにくい、という構図です。
  3. テレビ・新聞は、誤情報を信じている人でむしろ強く接種意向と関連していた[1]。「マスメディアは信用されていない」というイメージとは逆の結果です。

ポーランドで2024年12月に18〜75歳の2,200人に行われた調査でも、同じ方向の結果が出ています。ワクチン忌避を最も強く押し上げたのはワクチンに関する陰謀論的信念で、逆に「科学者への信頼」が忌避を下げる方向にはたらいていました[4]。健康リテラシーそのものより、信頼のありかのほうが効いていた、という報告です。

つまり

「何を知っているか」より、「誰を信頼していて、日常的に何に触れているか」のほうが行動を左右している。これは裏を返せば、信頼できる人が身近に一人いるだけで、状況は変わりうるということでもあります。

SECTION 05もう一つの入口 ― 孤独

近年、注目されているのが孤独との関係です。

ノルウェーで2,215人を28年間追跡した研究では、10代のときに孤独感が強かった人、そして人生を通じて孤独感が増していった人ほど、40代前半の時点で陰謀論的な世界観を持ちやすいという関連が示されました[5]。長期の追跡データでこの関係を見た数少ない研究です。

日本でも、2024年3月に20〜79歳の1,200人を対象に行われた調査があります。年代間で陰謀論を信じる程度そのものに差はなかった一方で、高齢者(60〜79歳)に限っては、オンライン動画の視聴時間が長い人ほど陰謀論を信じやすく、その傾向は孤独感が強い人でより顕著でした。若年・中年層では同じパターンは見られませんでした[6]。(※この報告は学会抄録であり、査読付き原著論文と同等の重みではない点にご留意ください)

FIGURE 4 孤独が「効いてしまう」経路 社会的なつながり が細くなる 退職・死別・外出困難 動画・SNSの 視聴時間が伸びる 推薦が偏りを強める 訂正してくれる 人がいなくなる 「それ違うよ」の不在 信念 の固定 孤独がさらに深まる(悪循環) 参考:Fluitら, Nature Communications, 2024/竹内ら, Innovation in Aging, 2024(学会抄録)

図4|孤独は「訂正してくれる他者」を奪う。信念が誤っているかどうかを確かめる機会そのものが減っていく。

ここが大切なところです。孤独な人が「だまされやすい」のではありません。孤独な人には、間違いを穏やかに指摘してくれる相手がいないのです。私たちの多くは、家族や同僚との何気ないやりとりのなかで、無意識に自分の考えの検算をしています。その機会がなくなれば、どんな考えも一方向に育っていきます。

ドイツで高齢者を介護する家族介護者489人を対象にした調査でも、陰謀論的な考え方の強さは、介護負担・孤独感・社会的排除感・抑うつ症状と正の関連を示していました[7]。介護をしている側もまた、孤立しやすい立場にあるということです。

SECTION 06では、どうすればいいのか ― 効くこと・効かないこと

効きにくい:正面からの論破

データを並べて「間違っている」と示すやり方は、多くの場合うまくいきません。理由は SECTION 02・03 で見たとおりです。相手にとってその信念は、不安への対処であり、自分が「わかっている側」であるという感覚と結びついているからです。しかも本人は自分が多数派だと思っている[3]。突然の否定は、対話ではなく攻撃として受け取られます。

効く①:動機づけ面接(motivational interviewing)

「説得しない」ことで効果を上げたアプローチがあります。カナダ・ケベック州で開発された PromoVac 戦略は、産科病棟で助産師や看護師が、母親の考えを否定せず、両価的な気持ち(打ちたい/こわい)をそのまま聴き、本人のなかにある動機を引き出す方式でした。この介入で、ワクチン忌避が減り、接種意向が 78%→90% に上昇。乳児の3・5・7か月時点の接種率も改善しました[8,9]。現在はケベック州の公的プログラムとして実装されています。

フランス南東部で2021〜2022年に行われた無作為化比較試験でも同様の結果が得られ、もともと最も迷いが強かった母親、そして教育年数の短い母親で、効果がいちばん大きいという結果でした[10]。「もっとも届きにくい人にこそ効いた」ということです。

効く②:あらかじめ「手口」を知っておく(プレバンキング)

誤情報の中身を一つずつ否定するのではなく、だます側が使う技法そのもの――感情をあおる、二者択一を迫る、専門家を装う、都合の良いデータだけ切り取る――を先に学んでおく方法です。ケンブリッジ大学らのグループが2分程度の短い動画で検証し、視聴した人は誤情報を見分ける力が向上しました[11]。「予防接種」になぞらえて心理的免疫と呼ばれます。

効く③:時間をかけた、一対一の丁寧な対話

2024年に Science に発表された研究では、陰謀論を信じている2,190人が生成AIと個別の対話を行い、信念の強さが平均で約2割低下、その効果が2か月後も持続したと報告されました[12]。ただしこの論文には、2026年6月にデータセットの不整合について編集部からの懸念表明(Editorial Expression of Concern)が出されている点を、公平のため申し添えます[13]。一方で、別チームによる955人の追試(2025年)でも同様の低下が確認されており[14]、効果の方向性そのものは支持されています。

研究者らが強調しているのは、AIそのものの魔法ではなく、その人が信じている「まさにその主張」に対して、個別化された根拠を、否定せずに、時間をかけて提示したという点です。人間にも十分できることです。ただし、外来診察の3分間では難しい。

SECTION 07 / HOME MEDICAL CARE 在宅診療の現場から ― 誤情報は「ワクチン」の顔をして来ない

ここからは、私たちが日々おこなっている訪問診療の現場の話です。ここまで紹介した研究の知見は、在宅医療の現場でそのまま形を変えて現れます。

7-1 現場で実際に出会う「誤情報」

在宅では、「反ワクチン」という看板を掲げた形で相談が来ることはむしろ稀です。多くは、もっと生活に密着した形で現れます。

よく聞く言葉背後にある心配放置した場合のリスク
「もう歳だから、ワクチンはかえって体に毒でしょう」体力がない自分には負担が大きすぎるのではという不安肺炎・帯状疱疹・重症化のリスクを取り続ける
「医療用麻薬を使うと、寿命が縮む・中毒になる」「最後の薬」というイメージ/依存への恐れ痛みが取れないまま療養期間を過ごす
「点滴をやめたら、飢え死にさせることになる」自分が見殺しにするのではという罪悪感終末期の過剰輸液による浮腫・胸腹水・気道分泌の増加
「抗がん剤は毒。◯◯療法に切り替えたい」副作用への恐怖と、何かできることを求める気持ち症状緩和の機会を失う/高額な出費
「血圧の薬は一度飲むと一生やめられない」薬に支配されることへの抵抗感自己中断による脳卒中・心不全
「認知症の薬は、飲ませないほうがいい」効かないのに副作用だけあるのでは、という疑い行動・心理症状への対応が遅れる

これらはいずれも、SECTION 02 で見た「危険を感じ取るセンサー」と「直感」と「不信」の上に乗っています。陰謀論と同じ土台の上に、生活の言葉で立ち上がってくるのです。だからこそ、対応の原則も同じになります。

7-2 なぜ在宅では起こりやすいのか

① 情報の入口が、構造的に細い

東京大学の研究で、医師からの情報はどちらのグループでも接種意向と関連していた[1]、という結果を思い出してください。裏返せば、医師と会う機会が少ない人ほど、その保護的な経路を失っているということです。

通院が難しくなった方の一日を想像してみてください。外出は月に数回。会話の相手は同居家族と、週に1〜2回の訪問看護師とヘルパー。起きている時間の多くはテレビか、家族が設定したタブレットの動画です。情報の入口が数本しかない状態は、それだけで偏りに対して脆くなります。

② 孤独が、訂正の機会を奪う

SECTION 05 で見たとおり、高齢者では動画視聴時間と陰謀論的信念の関連が、孤独感の強い人でより顕著でした[6]。在宅療養中の方は、退職・死別・外出困難という孤独のリスク因子をすでに複数抱えていることが多い。「それは違うんじゃない?」と気軽に言ってくれる人が、周りに何人いるか――これは臨床的に意味のある問いです。

③ 介護者もまた、追い詰められている

ドイツの家族介護者の調査では、陰謀論的な考え方の強さが介護負担・孤独感・抑うつ症状と関連していました[7]。介護をしている方は、睡眠不足で、社会から切り離され、しかも重大な決断を迫られる立場にいます。脅威を感じ取るセンサーが敏感になるのは、むしろ自然なことです。

「なんとかしてあげたい」という切実な気持ちは、「これさえやれば」と断定してくれる情報と非常に相性がいい。介護者の疲弊は、誤情報に対する最大の脆弱性の一つです。

7-3 訪問診療がもっている、構造的な強み

ここまで悲観的な話が続きましたが、実は在宅医療は、研究が示す「効く条件」を構造的に満たしている数少ない診療形態です。

動機づけ面接やAI対話研究が示した「効く条件」と、訪問診療の対応
  • チーム全体でみれば、時間がある:訪問診療そのものは1回5〜10分程度と、決して長くはありません。しかし訪問看護は1回30分以上。医師の訪問と看護師の訪問を組み合わせることで、生活の場でまとまった時間が確保できます。医師が種をまき、看護師がその後の時間で受けとめる、という分担も可能です。
  • 継続性がある:2週に1回、同じ医師と看護師が、何か月・何年と訪問する。1回で説得する必要がないのは決定的な強みです。「今日は聴くだけ」が許される。
  • 相手の土俵で話せる:白衣の権威が薄れ、こちらが「お邪魔している」立場になる。防御を固めさせにくい。
  • 情報環境が見える:どのテレビ番組がついているか、棚にどんなサプリメントが並んでいるか、誰の話を引用しているか。情報源が目で見えるのは訪問診療だけの利点です。
  • 信頼の蓄積がある:痛みを取った、夜間に駆けつけた、家族の話を聴いた。その積み重ねが、次の会話の土台になります。

フランスの試験で最も迷いが強い人・教育年数が短い人にこそ効果が大きかった[10]という結果は、在宅医療の対象となる方々と重なります。届きにくいと思われている相手にこそ、この方法は効く可能性があります。

7-4 実際の会話の組み立て方

FIGURE 5 説得しないための、4つの順番 1 否定しない 「そう心配される方 は多いですよ」 2 心配の中身を聴く 「何がいちばん 気がかりですか」 3 許可を得て伝える 「私が見ている数字を お話ししても?」 4 決定を委ねる 「今日決めなくて 大丈夫です」 次回の訪問へ ― 一度で終わらせないことが最大の武器

図5|順番が逆になると失敗する。③の情報提供を最初に置くと、ほぼ確実に防御を固められる。

避けたい言い方言い換えの例
「それはデマですよ」「その話、どこでご覧になりましたか? 一緒に見てみましょうか」
「そんなことを言う人はいませんよ」「同じ心配をされる方、実は多いんです」
「打たないと後悔しますよ」「打つ・打たないは決めていただくことです。判断の材料だけお渡ししますね」
「ネットの情報は信用できません」「その動画の人は、何を売っている方でしょうね」
(ご家族の前で)「お母さん、それは間違いです」(人前では触れず、後で個別に)「さっきのお話、もう少し伺ってもいいですか」

人前で訂正することは、SECTION 02 の「土台③(優越感・自己像)」を直撃します。訂正は一対一で。

7-5 ここだけは譲らない ― 安全に直結する線引き

ここまで「否定しない」ことを強調してきましたが、すべてを同じ態度で扱ってよいわけではありません。私たちは、次の2つを明確に分けています。

  • ①「考え方」の話(ワクチンを打つ/打たない、サプリメントを飲む/飲まない、など)→ 時間をかけて対話する。決めるのはご本人。
  • ②「いますぐの安全」の話(中断すると命に関わる薬をやめる、など)→ その場ではっきり伝える。曖昧にしない。
自己判断での中止が特に危険な薬

「薬は毒だからやめたほうがいい」という情報をきっかけに、自己判断で中止されることのある薬のうち、中断そのものが急変につながりうるものです。減量や中止を検討する場合は、必ず主治医と相談のうえ、計画的に行う必要があります。

薬の種類急に中止したときに起こりうること
副腎皮質ステロイド副腎不全(血圧低下・意識障害・ショック)
抗てんかん薬てんかん発作の再燃・重積状態
抗パーキンソン病薬高熱・筋強剛を伴う悪性症候群様の状態
インスリン・糖尿病治療薬著しい高血糖、ケトアシドーシス
抗凝固薬・抗血小板薬脳梗塞・心筋梗塞・肺塞栓などの血栓イベント
医療用麻薬(オピオイド)強い離脱症状と、疼痛コントロールの破綻
抗精神病薬・気分安定薬精神症状の再燃、離脱に伴う不穏・不眠

「薬が多すぎるのでは」というご心配は、それ自体はもっともなものです。実際、減らせる薬は少なくありません。だからこそ「やめたい」と思ったときに、黙ってやめずに言ってもらえる関係を作っておくことが、いちばんの安全策になります。

7-6 ご家族の意見が割れたとき

在宅医療で頻繁に起きるのが、同居しているキーパーソンと、遠方のご家族で意見が食い違うという状況です。特に終末期の判断(点滴を続けるか、入院するか、看取りをどこで迎えるか)で顕在化します。

遠方のご家族が強い意見を持つ背景には、多くの場合こうした事情があります。

  • 実際の状態が見えていないため、判断材料がインターネット上の情報に偏る
  • 介護を担えていないことへの罪悪感が、「もっと積極的に治療すべきだ」という主張の形をとる
  • これまでの家族関係の歴史が、医療の議論に持ち込まれる

私たちが心がけているのは、次の3点です。

  1. 一度は全員がそろう場を作る。オンラインでも構いません。同じ説明を、同じ場で、同時に聴いていただくことで「聞いていない」「言っていることが違う」という不信の芽を減らせます。
  2. 説明した内容を記録に残し、共有する。訪問看護記録や書面を通じて、チームと家族の間で情報がずれないようにします。
  3. あくまで中心はご本人の意思。話せるうちに、繰り返し確認しておく(アドバンス・ケア・プランニング/人生会議)。これは意見が割れたときの最も強い拠りどころになります。

7-7 訪問看護師の役割 ― 「同じことを、違う言葉で、繰り返す」

患者さんに毎週会っているのは、多くの場合、医師ではなく訪問看護師です。信頼という点では、看護師が最も強い経路を持っていることも珍しくありません。

チームで意識しているのは次のことです。

  • メッセージを揃える。医師・看護師・リハビリ職・ケアマネジャー・薬剤師で言うことが食い違うと、不信は一気に増幅します。逆に、複数の職種が同じ内容を、それぞれの言葉で繰り返すことには大きな力があります。
  • 情報源を把握し、共有する。「誰の動画を見ているか」「どのサプリメントの箱があるか」は、立派な臨床情報です。記録に残し、カンファレンスで共有します。
  • 孤独そのものに介入する。デイサービス、地域のサロン、シルバー人材、電話の頻度。SECTION 05 の知見からすれば、つながりを増やすこと自体が、誤情報への対策になります

7-8 認知症の方の場合 ― 「陰謀論」と「症状」を混同しない

ここは特に注意が必要です。「保健所が薬に毒を入れている」「息子が財産を狙って病院と結託している」といった発言は、陰謀論的信念ではなく被害妄想・被毒妄想という症状であることがあります。認知症、せん妄、あるいはパーキンソン病治療薬の影響など、原因はさまざまです。

まず身体的な原因を疑う

急に始まった、日内変動がある、注意が保てない――こうした特徴があれば、まずせん妄を疑います。脱水、便秘、尿路感染、発熱、痛み、薬剤(特に抗コリン作用のある薬)といった身体的な引き金を探すことが最優先です。「説得」の対象ではありません。

一方、以前から一貫して主張している内容で、生活は保たれていて、注意も保たれている場合は、信念の問題として扱います。この見極めが、対応をまったく別のものにします。

7-9 寝たきりでも、ワクチンは受けられます

最後に、実務的なことを一つ。意外に知られていないのですが、通院できない方でも、訪問診療のなかで予防接種を受けることができます。インフルエンザ、新型コロナ、肺炎球菌、帯状疱疹などが対象になります。

「もう外に出られないから、諦めていた」というご家族の声を、私たちは繰り返し聞いてきました。接種の可否は、持病や現在の状態、終末期であるかどうかを含めて個別に判断します。助成の内容は自治体や年度によって異なりますので、まずは主治医または訪問看護師にご相談ください

SECTION 08自分自身をチェックする5つの問い

ここまで読んで、「自分は大丈夫」と思われた方こそ、少しだけ立ち止まってみてください。SECTION 03 の研究が示したのは、過信こそが最大の危険因子だということでした[3]。ハマりやすさは、特殊な人の属性ではありません。

  • いま自分は、怖がっていないか。強い不安を感じている瞬間ほど、断定的な説明が魅力的に見えます(土台①)。
  • この主張に反対する、いちばん強い根拠を自分は言えるか。言えないなら、まだ判断する段階にありません。
  • 「みんなも同じ考えのはずだ」と思っていないか。その感覚は、平均して4倍以上ずれています[3]。
  • この情報源は、私に何を売っているか。サプリメント、書籍、会員登録、あるいは再生数。金銭的な動機の有無は、有力な手がかりです。
  • 最近、誰かに反論されたことがあるか。ないとすれば、それは自分が正しいからではなく、訂正してくれる人がいないからかもしれません(SECTION 05)。

SECTION 09まとめ

  • 日本人約3万人の解析では、誤情報を信じている人の63.6%が接種済み/接種意向ありで、ワクチンを拒否する人の63.4%は誤情報を信じていませんでした[1]。「信じる=拒否する」ではありません。
  • 陰謀論的な考え方と最も強く関連するのは、脅威を感じ取りやすいこと・直感で判断すること・他者への敵意と優越感の3つです[2]。ここに自分の判断力への過信が加わります[3]。
  • 個人の性格以上に効いているのが情報の入口です。ネット・SNSは忌避と、医師・テレビ・新聞は接種意向と関連していました。政府発信は、届いてほしい相手に届いていませんでした[1]。
  • 孤独は「訂正してくれる人」を奪います。日本の高齢者では、動画視聴時間と陰謀論的信念の関連が、孤独感の強い人でより顕著でした[5,6]。
  • 効くのは論破ではなく、否定せずに聴き、許可を得て情報を渡し、決定を委ね、次回また話すという進め方です[8,9,10]。在宅医療は、この条件を構造的に満たしています。
  • ただし中断が命に関わる薬については、はっきりと伝えます。ここは対話ではなく、安全の問題です。

誰かの考えを変えることは、本当に難しいことです。けれども、信頼できる人が身近に一人いることの効果は、複数の研究が一貫して示しています。医師でも、看護師でも、家族でも、友人でもいい。その一人でいることのほうが、正しい情報を大量に届けることより、おそらく効果があります。

ご相談ください

ふくろう訪問クリニック(福岡市早良区)では、緩和ケア・難病・精神科・認知症を中心に、通院が難しい方のご自宅へ訪問診療をおこなっています。

「家族が治療を拒んでいて困っている」「どの情報を信じればいいかわからない」「薬を減らしたいが自己判断が不安」――こうしたご相談も、日々お受けしています。ご本人が納得されないまま治療が進むことのないよう、時間をかけてお話を伺います。まずはお気軽にお問い合わせください。

※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の診断・治療方針を示すものではありません。お薬の中止・変更は、必ず主治医にご相談ください。

参考文献

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  13. Thorp HH. Editorial Expression of Concern. Science. 2026;392(6803):1131. doi:10.1126/science.aej2383(上記12に対するデータセットの不整合についての懸念表明)
  14. Boissin E, Costello TH, Spinoza-Martín D, Rand DG, Pennycook G. Dialogues with large language models reduce conspiracy beliefs even when the AI is perceived as human. PNAS Nexus. 2025;4(11):pgaf325. doi:10.1093/pnasnexus/pgaf325(N=955の事前登録試験)