ふくろう訪問クリニック コラム
肝臓がんは、ほかのがんと少し違う顔をしています。「がんそのものの進行」と「肝臓という臓器の体力の低下」が、同時に進むからです。そのため「がんは大きくなっていないのに、体調が急に悪くなる」「腫瘍は落ち着いているのに、お腹に水がたまって動けない」といったことが起こります。
この記事では、肝臓がんが進行した段階で体に何が起きるのか、どんな治療の選択肢があるのか、そして自宅で最期まで過ごすとしたら実際にどこまでできるのかを、できるだけ専門用語をかみくだいて説明します。とくに在宅診療の部分は、ご本人・ご家族が具体的にイメージできるよう一段深く掘り下げました。
SECTION 01数字で見る肝臓がん
まず、日本全体でどのくらいの方が肝臓がんと向き合っているのかを見ておきます。国立がん研究センターのがん統計では、肝臓(肝細胞がんが約9割を占めます)について次のような数字が公表されています。
| 項目 | 数字 | 内訳 |
|---|---|---|
| 診断される数(2023年) | 32,673例 | 男性 22,325例/女性 10,348例 |
| 死亡数(2024年) | 22,465人 | 男性 15,133人/女性 7,332人 |
| 5年相対生存率(2009〜2011年診断例) | 35.8% | 男性 36.2%/女性 35.1% |
※横にスクロールできます。出典:国立がん研究センター がん情報サービス「がん統計」肝臓
診断数に対して死亡数が多いこと、5年相対生存率が3割台にとどまっていることから、見つかった時点ですでに進行していることが少なくないがんであることが読み取れます。
背景も変わってきました。かつてはB型・C型肝炎ウイルスによる肝臓がんが大半でしたが、抗ウイルス薬の進歩でウイルス性は減少し、いまはお酒や、脂肪肝(代謝機能障害関連脂肪性肝疾患=MASLD)を背景とするものの割合が増えています。「肝炎ウイルスがないから大丈夫」とは言えない時代になった、ということです。
SECTION 02肝臓がんが「二本立て」である理由
ここが、肝臓がんを理解するうえでいちばん大事なところです。
多くのがんでは「がんがどこまで広がっているか(進行度・ステージ)」で治療も見通しも決まります。ところが肝臓がんでは、それに加えて「肝臓そのものがあとどれだけ働けるか」という、もう一本の軸があります。これを肝予備能(かんよびのう)と呼び、Child-Pugh(チャイルド・ピュー)分類のA・B・Cで表すのが一般的です。
図1|肝臓がんの治療方針は、がんの広がりだけでなく「肝臓があとどれだけ働けるか」との掛け算で決まります。
この二本立てが、肝臓がんの療養を分かりにくくしています。がんが小さくても、肝臓の体力(肝予備能)が落ちていれば、手術も抗がん剤も選べません。逆に、がんが進んでいても肝機能が保たれていれば、薬物療法という選択肢が残ります。
また、多くの方は肝臓がんの土台に肝硬変を抱えています。腹水、黄疸、意識のもうろう、静脈瘤からの出血といった、末期に起こる困りごとの多くは、実は「がん」より「肝硬変」に由来します。ここを知っておくと、この先の説明がぐっと理解しやすくなります。
SECTION 03「末期」とはどんな状態か
「末期」という言葉には、実は決まった医学的定義がありません。日常の診療では、おおむね次のような状態を指しています。
- がんを小さくする治療(手術・焼灼・カテーテル治療・薬物療法)が、効果よりも負担のほうが大きくなった状態
- 肝臓の体力が落ち、治療そのものに耐えられなくなった状態(Child-Pugh CやBの一部)
- 腹水・黄疸・肝性脳症などが繰り返し起こり、生活の質が保てなくなってきた状態
大切なのは、「末期=何もできない」ではないということです。がんを縮める治療をやめても、症状をやわらげる治療は最後まで続きます。むしろこの時期こそ、腹水や痛み、だるさへの手当てが生活の質を大きく左右します。
「ステージⅣ」と「末期」は同じではありません
ステージⅣは、がんの広がりを表す分類です。ステージⅣでも肝機能が保たれていれば薬物療法を続けている方は大勢いらっしゃいます。一方、ステージがそこまで進んでいなくても、肝硬変が非代償期(腹水や黄疸が出た状態)に入れば、療養の中心は症状緩和に移ります。肝臓がんでは、ステージよりも「肝臓の体力」のほうが見通しを決める場面が多いのです。
経過の落ち方が、ほかのがんと少し違う
多くの固形がんでは、亡くなる1〜2か月前から比較的なだらかに体力が落ちていきます。肝臓がんの場合は、そこに肝不全という「段差」が加わります。黄疸が出た、腹水が急に増えた、意識がもうろうとした——こうした出来事をきっかけに、数日から数週間で一段ずつ状態が下がることがあります。
ご家族が「昨日まで話せていたのに」と驚かれるのは、この段差があるためです。体調が安定しているうちに、話し合いと準備を済ませておくことが、肝臓がんではとくに大切になります。
SECTION 04末期に起こりやすい症状
進行した肝臓がんで多い症状を、まとめて見ておきましょう。すべてが起こるわけではありませんし、起こる順番も人によって違います。
図2|末期の困りごとの多くは、がんそのものより「肝臓が働かなくなること」から生じます。
腹水 ― もっとも多く、もっとも生活を妨げる
肝臓でアルブミンという蛋白がつくれなくなり、さらに門脈(腸から肝臓に血を運ぶ血管)の圧が上がることで、お腹の中に水がたまります。がん性腹膜炎が加わることもあります。お腹が張って食べられない、横になると息苦しい、足がむくむ——生活の質をいちばん下げるのが、この腹水です。対処法はセクション07で詳しく扱います。
肝性脳症 ― 「ぼけた」のではありません
肝臓が処理しきれなくなったアンモニアなどが脳に影響し、意識や行動が変わります。初期のサインは「昼夜が逆転する」「同じことを繰り返す」「計算やお金の管理ができなくなる」といった、認知症とまぎらわしいものです。手を前に出すとパタパタとふるえる「羽ばたき振戦」が出ることもあります。
大事なのは、肝性脳症には必ず引き金があり、その引き金を取り除けば元に戻ることが多いという点です。ご家族が「急にぼけてしまった」と諦めてしまわないよう、ここは強調しておきます。
痛み ― 「肝臓は痛くない」わけではない
肝臓そのものには痛みを感じる神経がありませんが、腫瘍が大きくなって肝臓を包む膜が引き伸ばされると、右の肋骨の下あたりに重苦しい痛みが出ます。横隔膜が刺激されて右肩に痛みが響くこともあります。骨に転移すれば、そこも痛みの原因になります。
出血しやすさ ― 血を固める材料が足りない
血を固める成分の多くは肝臓でつくられます。加えて脾臓が大きくなると血小板が減ります。その結果、あざができやすい、歯ぐきから血が出る、採血の跡が止まりにくいといったことが起こります。もっとも注意が必要なのが、食道や胃の静脈瘤が破れることによる吐血・下血です。
SECTION 05この段階での治療の考え方
2025年10月、日本肝臓学会から『肝細胞癌診療ガイドライン 2025年版』(第6版)が刊行されました。名称が『肝癌診療ガイドライン』から変わったのは、肝内胆管がんに独立したガイドラインができたためです。
切除できない場合の薬物療法
手術や焼灼、カテーテル治療が難しくなった場合、肝機能が保たれていれば薬物療法が検討されます。近年はここが大きく変わりました。
図3|『肝細胞癌診療ガイドライン 2025年版』では、切除不能例の一次治療として3つの併用療法が優劣をつけずに並べて記載されました。
ガイドライン2025年版の特徴は、3つの併用療法を「並列」に記載したことです。実臨床ではアテゾリズマブ+ベバシズマブが使われる頻度が高い傾向にありますが、3つを直接比べた試験がない以上、推奨度に差をつけるべきではないという判断です。「この薬がいちばん」と言い切れないのが現在地だと理解しておくとよいでしょう。
数字を読むときに知っておきたいこと
ニボルマブ+イピリムマブを検証したCheckMate 9DW試験では、全生存期間の中央値が23.7か月(比較群は20.6か月)と報告されました。ただしこの試験では、最初の6か月間はむしろ免疫療法群のほうが亡くなる方が多く、その後に逆転するという経過をたどっています。
免疫療法は「効く人にはとてもよく効くが、合わない人には最初の数か月が厳しい」という性質をもっています。中央値だけを見て「2年もつ」と受け取ってしまうと、実際の経過とのずれに苦しむことになります。担当医から示された数字は、必ず「自分の肝機能・体力の場合はどうか」と重ねて聞いてください。
治療をやめる、という判断も治療のうち
薬物療法を続けるかどうかの分かれ目は、多くの場合「がんが大きくなったか」ではなく「肝臓が耐えられるか」です。黄疸が出てきた、腹水が薬で引かなくなった、ベッドで過ごす時間が半分を超えた——こうした変化は、薬をやめる時期を考えるサインです。
やめることは「見放されること」ではありません。むしろ、副作用に費やしていた体力を、食べること・話すこと・家で過ごすことに回すという積極的な選択です。がんの治療と並行して早い段階から緩和ケアを受けた方が、生活の質だけでなく生存期間の面でも良好だったという研究もあります。
HOME CARE ─ 在宅診療パート
自宅で、どこまでできるのか
ここからは在宅医療の話です。「腹水が抜けるのか」「痛みは取れるのか」「急に吐血したらどうするのか」——ご家族から実際にいただく質問に沿って、制度と具体的な処置の両面から一段深く説明します。
SECTION 06在宅医療の入口 ― 訪問診療と往診、2つの保険
訪問診療と往診は別のものです
混同されがちですが、この2つは制度上まったく違います。
| 訪問診療 | 往診 | |
|---|---|---|
| タイミング | あらかじめ決めた日に、計画的に | 具合が悪くなったとき、要請を受けて |
| 頻度 | 通常は月2回。状態により週1回以上も | 必要が生じたつど(回数は決まっていない) |
| 役割 | 体調の変化を先回りして拾い、薬を調整する | 発熱・痛み・出血など、その場の困りごとに対応する |
※横にスクロールできます。
在宅医療の本体は訪問診療です。定期的に伺って「腹水が増えていないか」「便が出ているか」「薬が飲めているか」を確認し、悪くなる前に手を打ちます。そのうえで往診(24時間の緊急対応)が控えている、という二段構えです。「何かあったら救急車」しか手段がない状態と比べて、この差はとても大きいものです。
末期がんでは、訪問看護の枠が大きく広がります
ここは制度上とても重要な点です。「末期の悪性腫瘍」は、厚生労働大臣が定める疾病等(いわゆる別表第七)に含まれます。これに該当すると、訪問看護は介護保険ではなく医療保険で行われ、回数の制限が大きくゆるみます。
図4|末期がんでは訪問看護が医療保険扱いになり、毎日の訪問や1日複数回の訪問も可能になります。
この違いは実務上とても大きく、たとえば「朝は清拭と点滴、夕方は痛み止めの確認」といった1日2回の訪問や、看取りが近い時期に毎日入ってもらうといった体制が組めます。介護保険の限度額を使い切ってヘルパーが呼べない、という事態も避けられます。
40〜64歳の方も、介護保険が使えます
介護保険は原則65歳以上のしくみですが、40〜64歳の方でも16の「特定疾病」に該当すれば申請できます。この16疾病には「がん(医師が一般に認められている医学的知見に基づき回復の見込みがない状態に至ったと判断したものに限る)」が含まれています。
つまり40代・50代で末期の肝臓がんと診断された方も、介護ベッド、車いす、手すり、訪問入浴、ヘルパーといった介護サービスを利用できます。訪問看護は医療保険、生活を支える介護サービスは介護保険——この二本立てで支える形になります。申請から認定までは時間がかかるため、暫定ケアプランで先に使い始める方法もあります。ケアマネジャーにご相談ください。
SECTION 07自宅でできる症状の手当て
腹水 ― 段階を踏んで対応します
肝硬変にともなう腹水への対応は、『肝硬変診療ガイドライン2020(改訂第3版)』でおおむね次のように整理されています。在宅でも、この階段をそのまま登っていきます。
図5|腹水は一気に抜くのではなく、段階を踏んで対応します。フロセミドを増やしすぎないのは腎臓を守るためです。
在宅でも腹水穿刺は可能です。超音波で安全な場所を確認し、局所麻酔をしてから細い管を入れて排液します。処置そのものは30分〜1時間程度、ご自宅のベッドの上で行えます。「お腹から重いものが抜けていく」と表現される方が多く、その日のうちに食事が入るようになることもよくあります。
抜いた腹水からアルブミンなどの有用な成分を回収して点滴で戻すCART(腹水濾過濃縮再静注法)は、難治性腹水に保険適用がある治療です。肝硬変診療ガイドライン2020では、穿刺排液+アルブミン静注と同程度に有用な可能性があるとして提案されています。ただし専用の機器が必要なため、クリニックが機器を持っているか、近隣病院と連携しているかで実施できるかが変わります。感染した腹水・血性腹水・黄疸が強い場合は適応にならないことにも注意が必要です。
腹水を「抜きすぎない」ことも大切です
一度に大量に抜くと、血圧が下がったり腎臓の働きが落ちたりすることがあります。また繰り返すと蛋白が失われて栄養状態が悪くなります。「楽になるところまで抜いて、また溜まったら抜く」という付き合い方が現実的です。「抜くとかえって早く溜まる」と心配される方がいますが、原因は腹水を抜いたことではなく病気の進行です。苦しいまま我慢する理由はありません。
肝性脳症 ― 引き金を探して取り除く
意識がもうろうとしてきたとき、在宅医が最初にすることは「原因探し」です。肝性脳症には、ほぼ必ず引き金があります。
図6|引き金を取り除けば、意識状態が元に戻ることは珍しくありません。とくに便秘は見落とされがちです。
在宅での対応は、まず便通を整えることから始まります。ラクツロースなどの下剤で1日2〜3回の軟らかい便が出るように調整します。これに加えて、腸内でアンモニアをつくる細菌を減らすリファキシミン、筋肉の維持を助ける分岐鎖アミノ酸(BCAA)製剤などが使われます。
ご家族に見ていていただきたいサイン
- 昼間に眠り、夜に起きて動き回る(昼夜逆転)
- 日付や場所を間違える、話のつじつまが合わない
- 手を前に出させると、パタパタと大きくふるえる
- 字が急に汚くなる、財布の管理ができなくなる
- 便が3日以上出ていない/黒い便が出た
これらに気づいたら、次の訪問を待たずにご連絡ください。眠っているように見えても、実は脳症で意識が落ちていることがあります。「よく寝ているから起こさないでおこう」と様子を見ているあいだに進んでしまうケースがあるため、呼びかけへの反応を目安にしてください。
痛み ― 肝機能が落ちているときの薬の使い方
痛みの治療は、自宅でも病院と同じことができます。飲み薬、貼り薬、そして飲めなくなったあとの持続皮下注射まで、一通りそろっています。
ただし肝臓がんでは注意点があります。痛み止めの多くは肝臓で処理されるため、肝機能が落ちていると効きすぎたり、体に残りやすくなったりします。そのため在宅では、少量から始めて、眠気や意識の変化を見ながらゆっくり増やしていきます。「同じ量なのに急に眠気が強くなった」ときは、痛み止めが増えたのではなく肝臓の処理能力が落ちたサインであることがあります。遠慮なくお知らせください。
アセトアミノフェンや一部の解熱鎮痛薬も、肝機能や腎機能によっては量を調整します。市販の痛み止めや風邪薬を自己判断で足さないようにしてください。
飲めなくなったあとの「持続皮下注射」
お腹や胸のあたりの皮膚に細い針を留置し、小型ポンプで痛み止めを少しずつ注入する方法です。点滴のように血管を確保する必要がなく、針の交換も数日に一度で済みます。ポンプにボタンがついていて、痛みが強いときにご本人やご家族が押して追加投与できる(PCA)ものもあります。
「注射」と聞くと大がかりに感じますが、装着してしまえば入浴以外はふだんどおりに過ごせます。口から飲めなくなったから入院、という時代ではありません。
黄疸とかゆみ
黄疸が進むと、全身のかゆみが出ることがあります。掻き壊しは感染のもとになるので、保湿剤をこまめに塗る、爪を短く切る、部屋を暖めすぎない、冷たいタオルで冷やす、といった対応が基本になります。かゆみ止めの内服や、胆汁うっ滞にともなうかゆみに用いる薬もありますので、我慢せずご相談ください。
出血への備え
肝臓がん・肝硬変の在宅療養で、ご家族がもっとも不安に感じるのが吐血・下血です。これは、あらかじめ話し合っておくことで不安をかなり減らせます。
- 方針を先に決めておく:内視鏡で止血を試みるために救急搬送するのか、それとも自宅で苦痛をとることを優先するのか。状態と本人の希望によって答えは変わります。「そのとき考える」ではなく、落ち着いているうちに決めておきます。
- 色の濃いタオルを用意しておく:出血の量が視覚的に和らぎ、ご家族の動揺が小さくなります。
- 連絡先を紙で貼っておく:クリニックの24時間連絡先を、電話のそばに大きく書いて貼ります。
- 苦痛を抑える薬を手元に置いておく:予測される事態に備えて、あらかじめ処方しておくことができます。
終末期の点滴 ― 「減らす」という選択
ご家族から「食べられないのだから、せめて点滴を」と言われることがよくあります。お気持ちはよく分かります。ただ、腹水やむくみがある終末期には、点滴を増やすとかえって苦しくなることが知られています。
体が水分を処理できなくなっているため、入れた水分は血管の外へしみ出し、腹水を増やし、手足をむくませ、肺に水をためて痰と息苦しさを招きます。日本緩和医療学会の輸液療法に関するガイドラインでも、腹水や浮腫がある終末期には輸液量を控えることが提案されています。
在宅では、点滴を「ゼロか全部か」ではなく、日ごとに量を調整できます。500mLを250mLに、それも負担になれば皮下からのわずかな補液に、というように、その日の体の様子に合わせて細かく変えていきます。点滴を減らすことは、手を引くことではなく、体に合わせることです。
在宅でできる医療処置(まとめ)
| 処置 | 自宅での可否 | 補足 |
|---|---|---|
| 腹水穿刺(排液) | できます | 超音波で確認しながら実施。頻度は状態に応じて調整 |
| CART(腹水の再静注) | 体制により可能 | 専用機器が必要。院内処理・翌日返血という形をとることも |
| 点滴(補液・抗菌薬など) | できます | 訪問看護師が実施。医師の点滴指示書が必要 |
| 持続皮下注射(痛み止め) | できます | 小型ポンプを使用。PCAボタン付きの機種もあり |
| 酸素療法 | できます | 酸素濃縮器を自宅に設置。息苦しさの緩和にも用います |
| 採血・尿検査 | できます | 肝機能・腎機能・電解質の確認 |
| 超音波検査 | できます | 腹水量や胆管の確認。持ち運べる機器を使用 |
| 輸血 | 条件つきで可能 | 安全確保のため要件が多く、体制の整った施設に限られます |
| 内視鏡での止血 | できません | 実施する方針であれば病院へ搬送します |
※横にスクロールできます。実施できる内容は医療機関の体制によって異なります。
SECTION 08急変・看取り・レスパイト・話し合い
自宅で亡くなっても、警察沙汰にはなりません
これは非常に多い誤解なので、はっきり書きます。在宅で診てもらっている方が自宅で亡くなった場合、警察を呼ぶ必要はありません。
医師法第20条には「診察しないで死亡診断書を交付してはならない」とありますが、そのただし書きにより、診療していた患者が、その診療にかかる傷病で亡くなった場合は、最終の診察から24時間を超えていても、あらためて診察したうえで死亡診断書を交付できます。この運用は厚生労働省の通知(平成24年8月31日 医政医発0831第1号)でも明確にされています。
つまり、夜中に息を引き取られても、あわてて救急車を呼ぶ必要はありません。まずクリニックにご連絡ください。看取りに立ち会えなかったとしても、担当医が伺って死亡確認と死亡診断書の交付を行います。
息を引き取られたときに、まずしていただきたいこと
- あわてて救急車を呼ばない
- クリニックの24時間連絡先に電話する
- それまでのあいだ、そばにいて声をかけてあげてください
ご遺体を動かしたり、着替えを急いだりする必要もありません。到着までの時間は、ご家族だけの時間としてお使いいただけます。
在宅チームは、こういう顔ぶれです
図7|在宅療養は医師ひとりで支えるものではありません。チームで24時間を分担します。
介護する側が倒れないために ― レスパイト入院
在宅療養が続かなくなる理由の多くは、病状ではなく介護するご家族の疲れです。腹水で夜中に何度もトイレ介助が必要になる、脳症で夜間に起きて動き回る——こうした状況は、数日で介護者を消耗させます。
そのためにレスパイト入院という制度があります。数日から2週間ほど病院や施設で預かってもらい、そのあいだご家族は休みます。「自宅で看取ると決めたのに、途中で入院させるのは裏切りではないか」と考える方がいらっしゃいますが、逆です。途中で休むから、最後まで自宅で過ごせる。限界まで我慢して倒れてしまうことのほうが、ご本人の希望から遠ざかります。
「話し合っておく」ことが、いちばんの備えです
肝臓がんは、意識が保たれているうちに話し合える時間が限られることがあります。肝性脳症が進むと、ご本人の意思を確かめることが難しくなるからです。
ACP(アドバンス・ケア・プランニング/人生会議)と呼ばれる話し合いでは、次のようなことを扱います。一度で決める必要はなく、気持ちが変わったら変えていいのがこの話し合いの原則です。
- 吐血したとき、救急搬送するか/自宅で苦痛をとることを優先するか
- 食べられなくなったとき、点滴や栄養をどこまで行うか
- 意識が下がったとき、誰に判断を託すか
- 最期をどこで迎えたいか(自宅/病院/施設)
- 会っておきたい人、しておきたいこと
SECTION 09ご家族ができること、そして受診の目安
日々のなかでできること
| 場面 | できること |
|---|---|
| 食事 | 「食べさせなければ」と気負わない。少量を何回かに分けて。塩分は控えめに。就寝前に軽い補食をとると、筋肉の減少を抑えるのに役立つことがあります |
| 体重・お腹まわり | 週に2〜3回、同じ条件で測って記録すると、腹水の増減が客観的に分かります |
| 便通 | 毎日確認を。3日出ていなければ連絡を。黒い便は出血のサインです |
| 皮膚 | むくんだ皮膚は傷つきやすくなります。保湿と、こすらないケアを |
| 会話 | つじつまが合わないときも、否定せずに合わせて。責めても改善しません |
| ご自身のこと | 眠れているか、食べられているか。介護者が倒れると在宅は続きません |
※横にスクロールできます。
こんなときは、次の訪問を待たずにご連絡ください
- 吐血した、黒い便が出た
- 呼びかけへの反応が急に鈍くなった、眠り続けている
- お腹の張りが急に強くなった、息が苦しくて横になれない
- 発熱があり、お腹を押すと痛がる(腹膜炎の可能性があります)
- 尿がほとんど出ていない
- 痛み止めを使っても痛みがおさまらない
- ご家族が「もう限界」と感じている
ふくろう訪問クリニックにご相談ください
当院は福岡市早良区を拠点に、緩和ケア・難病・精神科・認知症の在宅診療を行っています。肝臓がんの療養では、腹水への対応、肝性脳症の管理、痛みのコントロール、そして急変時と看取りまでを、訪問看護ステーションと一体で支えます。
「まだ在宅に切り替える段階ではないかもしれない」という時期のご相談も歓迎です。早めに顔つなぎをしておくほど、いざというときに動きやすくなります。病院の主治医やソーシャルワーカー、ケアマネジャーからの連絡も承ります。
参考文献
- 国立がん研究センター がん情報サービス「がん統計」肝臓(罹患:全国がん登録2023年、死亡:人口動態統計2024年、5年相対生存率:地域がん登録2009〜2011年診断例)
- 日本肝臓学会 編『肝細胞癌診療ガイドライン 2025年版(第6版)』金原出版、2025年10月
- 日本消化器病学会・日本肝臓学会 編『肝硬変診療ガイドライン2020(改訂第3版)』南江堂、2020年11月(腹水の治療戦略、難治性腹水に対するCARTの位置づけ)
- 日本緩和医療学会 ガイドライン統括委員会 編『がん患者の消化器症状の緩和に関するガイドライン 2017年版』金原出版、2017年(悪性腹水・食欲不振の項)
- 日本緩和医療学会 編『がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン 2020年版』金原出版、2020年
- 日本緩和医療学会 編『終末期がん患者の輸液療法に関するガイドライン』(終末期における輸液量の考え方)
- Yau T, Galle PR, Decaens T, et al. Nivolumab plus ipilimumab versus lenvatinib or sorafenib as first-line treatment for unresectable hepatocellular carcinoma (CheckMate 9DW): an open-label, randomised, phase 3 trial. Lancet. 2025;405(10492):1851-1864. doi:10.1016/S0140-6736(25)00403-9(PMID: 40349714)
- Finn RS, Qin S, Ikeda M, et al. Atezolizumab plus Bevacizumab in Unresectable Hepatocellular Carcinoma (IMbrave150). N Engl J Med. 2020;382(20):1894-1905. doi:10.1056/NEJMoa1915745
- Abou-Alfa GK, Lau G, Kudo M, et al. Tremelimumab plus Durvalumab in Unresectable Hepatocellular Carcinoma (HIMALAYA). NEJM Evid. 2022;1(8):EVIDoa2100070. doi:10.1056/EVIDoa2100070
- 厚生労働省医政局医事課長通知「医師法第20条ただし書の適切な運用について」平成24年8月31日 医政医発0831第1号
- 厚生労働省「訪問看護療養費に係る指定訪問看護の費用の額の算定方法」別表第七(厚生労働大臣が定める疾病等)、介護保険法施行令第2条(特定疾病)
本記事は一般の方向けの情報提供を目的としたもので、個別の診断・治療方針を示すものではありません。実際の治療やケアについては、必ず主治医・担当の医療者にご相談ください。また、ガイドラインや診療報酬制度は改訂されることがあります。掲載内容は2026年7月時点の情報にもとづいています。
