「ステージ4です」と言われて、頭が真っ白になった——悪性リンパ腫では、この瞬間がとてもよく起こります。けれども、リンパ腫のステージ4は、胃がんや肺がんのステージ4とは意味がかなり違います。全身に広がっていても、治ることを目指す治療が普通に行われるがんだからです。

いっぽうで、リンパ腫には「治療しないで様子を見る」ことが正解になるタイプもあります。速く進むタイプほど治りやすく、ゆっくり進むタイプほど長く付き合う——直感とは逆の関係が成り立つ病気です。

このコラムでは、悪性リンパ腫の全体像と治療の流れを整理したうえで、ご自宅で療養するときに知っておくと違う部分を一段深く解説します。福岡市早良区で訪問診療を行う、ふくろう訪問クリニックからお届けします。

SECTION 01

悪性リンパ腫という病気

悪性リンパ腫は、免疫を担当するリンパ球ががん化する病気です。血液のがんに分類されますが、白血病と違って、多くの場合はリンパ節などでしこり(腫瘤)をつくって大きくなるのが特徴です。血液のがんでありながら、固形がんのようにふるまう面を併せ持っています。

リンパ球は全身をめぐる細胞なので、リンパ腫は首・わきの下・足の付け根といったリンパ節だけでなく、胃、腸、皮膚、眼のまわり、脳、肺、骨、精巣など、体のどこからでも発生します。最初に受診する科が耳鼻科だったり、皮膚科だったり、脳外科だったりするのはこのためです。

数字で見る悪性リンパ腫

項目数値
診断される数(2023年)37,601例(男性20,073例/女性17,528例)
死亡数(2024年)13,920人(男性7,685人/女性6,235人)
5年相対生存率(2018年診断例)67.5%(男性66.7%/女性68.4%)

国立がん研究センター「がん統計」悪性リンパ腫(2026年7月22日更新・確認)より。

この67.5%という数字の読み方

統計上「悪性リンパ腫」はひとつの枠にまとめられていますが、実際には50種類以上の病型の集まりです。ホジキンリンパ腫のように8〜9割が治るタイプもあれば、標準治療が確立しきっていないタイプもあります。67.5%はそれらすべてを平均した数字であり、ご本人の病型の見通しとは別物だと考えてください。「自分の病名は正確には何というのか」を主治医に確認することが、情報を集める最初の一歩になります。

リンパ腫ができる場所の地図 リンパ球は全身をめぐるため、リンパ節以外の臓器からも発生します 首のリンパ節 わきの下 脾臓 骨髄(背骨・骨盤・胸骨・太ももの骨) 足の付け根 リンパ節以外にできることも(節外病変) ● 胃・腸    → 痛み・出血・詰まり ● 皮膚     → 赤い斑・盛り上がり ● 眼のまわり  → まぶたの腫れ・複視 ● 脳・脊髄   → 頭痛・しびれ・麻痺 ● 肺・胸のなか → 咳・息切れ・むくみ ● 骨      → 骨の痛み・骨折 主なリンパ節の集まり 脾臓 骨(この中に骨髄があります) ※骨髄は、背骨・骨盤・胸骨・肋骨・太ももの骨など、体の中心に近い骨の内側にあります。

図1 悪性リンパ腫は「リンパ節の病気」だけではありません。最初の症状が消化器や皮膚、眼から出ることも珍しくないため、診断までに時間がかかることがあります。

大きく分けて2つ、細かく分けて50種類以上

悪性リンパ腫はまず、ホジキンリンパ腫(全体の5〜10%程度)と非ホジキンリンパ腫(90〜95%程度)に分かれます。日本で最も多いのは非ホジキンリンパ腫のひとつ、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)で、60歳代後半以降に多くみられます。

実際の診療では、病型名よりも先に「進む速さ」で3つに整理して考えます。この分類が、治療を今日始めるのか、来月でよいのか、そもそも始めなくてよいのかを決めます。

「進む速さ」で3つに分ける 低悪性度(年単位) 濾胞性リンパ腫、MALTリンパ腫 など ゆっくり進む 完全に消えにくい 長く付き合う まず様子を見ることも 中悪性度(月単位) DLBCL、マントル細胞、 末梢性T細胞リンパ腫 など 数か月で大きくなる 薬がよく効く 治癒を目指せる 数週間以内に治療開始 高悪性度(週単位) バーキットリンパ腫、 成人T細胞白血病リンパ腫 など 日ごとに変わる 急いで診断が必要 治療も緊急に近い すぐ治療開始 ※「ゆっくり進む=軽い」ではありません。ゆっくりなタイプほど完全には消えにくく、長い経過をたどります。

図2 速いタイプほど薬がよく効き、治ることを目指せます。遅いタイプは急ぎませんが、そのぶん長い付き合いになります。この「逆転」がリンパ腫を分かりにくくしています。

SECTION 02

「ステージ4」と「末期」は違う

リンパ腫の病期(ステージ)は、病変がどこまで広がっているかだけで決まります。悪さの強さや、あと何か月かという見通しとは、直接には結びついていません。

病期広がり方
Ⅰ期1つのリンパ節領域だけ
Ⅱ期横隔膜の同じ側で2領域以上
Ⅲ期横隔膜をまたいで両側に
Ⅳ期骨髄・肝臓など、リンパ節以外の臓器に広がっている

ここが重要なところです。悪性リンパ腫では、Ⅲ期・Ⅳ期でも治癒を目指した治療が標準的に行われます。もともと全身をめぐる細胞の病気なので、「全身に広がっている=手遅れ」という発想が当てはまりません。実際、限局期のDLBCLでは4年生存が9割近く、60〜80歳で発症した進行期のDLBCLでも10年生存が4割を超えるという報告があります。

ステージⅣ(病期Ⅳ) ・病変の「広がり」を示す言葉 ・骨髄や臓器に及んでいる状態 ・治癒を目指す治療の対象になる ・診断時点でⅣ期のことも多い =これから治療を始める段階 末期(終末期) ・治療の効き目が得られなくなった状態 ・体力が治療に耐えられなくなった状態 ・病期の数字では決まらない ・症状をやわらげることが中心になる =過ごし方を組み直す段階

図3 病期の数字は「どこまで広がったか」、末期は「治療でどこまで戻せるか」。別々の物差しです。

見通しを分けるのは、病期よりもむしろ

アグレッシブなリンパ腫では、病期を含めた5つの要素を組み合わせたIPI(国際予後指標)という指標がよく使われます。「病期Ⅳ」はそのうちの1点にすぎません。

  • 年齢が60歳を超えている
  • 血液検査のLDHが高い
  • 日常生活の自立度が下がっている(PS 2以上)
  • 病期がⅢ・Ⅳ
  • リンパ節以外の病変が2か所以上ある

つまり、「動けているかどうか」が病期と同じ重みを持っています。これは在宅療養を考えるうえでも大事な視点です。今の生活動作を落とさないこと自体が、次の治療の選択肢を残すことにつながります。

経過のかたちが、まったく違う 体調 時間 治療 中〜高悪性度:短く強く治療 → 治癒もありうる 治療 治療 低悪性度:波を繰り返しながら年単位で進む 効かなくなると、間隔が短くなる ※模式図です。実際の経過には大きな個人差があります。

図4 「前の治療から次の治療までの間隔」が縮んでいくことは、検査値よりも正直な指標になることがあります。ご家族には「前回の治療から何か月あきましたか」と伺うことがあります。

SECTION 03

どんな症状が出るのか

リンパ腫の症状は、大きく①しこりそのもの ②全身症状 ③まわりの臓器を押すことによる症状 ④骨髄が押しのけられることによる症状の4系統に整理できます。

症状マップ 悪性 リンパ腫 ① 痛くないしこり 首・わき・足の付け根が 数週〜数か月で大きくなる ② B症状 38℃を超える熱・寝具を替える ほどの寝汗・半年で体重10%減 ③ 押される症状 顔のむくみ・息苦しさ・ 背中の痛み・尿が出にくい ④ 骨髄が押される 貧血でだるい・あざ/鼻血・ くり返す感染 ⑤ 節外病変の症状 腹痛・下血・皮膚の腫れ・ しびれ・視力の変化 ⑥ だるさ・食欲低下 じわじわ体力が落ちる。 高齢の方ほど目立ちにくい ⑦ しつこいかゆみ 湿疹がないのにかゆい

図5 ②のB症状は、リンパ腫にとって診断上も治療方針上も意味を持つ「公式な症状」です。「熱っぽさ」「寝汗」「体重の減り」は、遠慮せずそのまま伝えてください。

「痛くない」ことが、受診を遅らせる

リンパ腫のしこりは、たいてい痛みません。押しても痛くない、熱も持っていない、皮膚も赤くない。だから「悪いものではないだろう」と様子を見てしまいます。ひとつの目安として、1cmを超えるしこりが2〜3週間たっても小さくならないときは、一度受診をおすすめします。かぜのリンパ節の腫れなら、通常はそのあいだに縮み始めます。

SECTION 04

治療の流れ

治療方針は、日本血液学会編『造血器腫瘍診療ガイドライン』にまとめられています。現行版は第3.1版(2024年版、2024年12月24日発行・金原出版)で、第4版(2026年版)が2026年8月に刊行予定とされています。病型ごとに標準治療が細かく決まっているのがリンパ腫の特徴です。

病型によって、進み方がまるで違う DLBCLなど アグレッシブ R-CHOPなど6〜8コース 効いた→ 経過観察・治癒も 再発・難治なら移植/CAR-T/二重特異性抗体 濾胞性など インドレント 症状がなければ経過観察という選択 症状が出たら抗体薬±化学療法 効いたら休薬再燃したらまた治療 ホジキンリンパ腫 ABVDなど±放射線治療 治癒率が高い若い方に多い病型 再発時も抗体薬・免疫療法・移植

図6 同じ「悪性リンパ腫」でも、たどる道はこれだけ違います。ご自身がどのレーンにいるのかを知ることが、情報を整理する助けになります。

「治療しない」という標準治療がある

症状のない、腫瘍量の少ない濾胞性リンパ腫では、すぐ治療せずに経過を見る(watch and wait)ことが長らく標準とされてきました。「何もしないなんて」と不安になる方が多いのですが、これはきちんと臨床試験で確かめられた方針です。

英国を中心とした無作為化試験の15年追跡では、経過観察群と早期にリツキシマブを使った群とで、15年生存率に差はありませんでした(経過観察68%、リツキシマブ導入66%、維持療法まで行った群73%)。早期治療は「次の治療が必要になるまでの期間」を延ばしますが(経過観察群では中央値5.6年)、寿命そのものを延ばすわけではないことが示されています。

高齢の方に対する治療の考え方

80歳を超えて発症したDLBCLに対しては、抗がん剤の量を減らしたR-miniCHOPという方法が確立しています。フランスの臨床試験(年齢中央値83歳、149例)では全生存期間の中央値29か月、2年生存率59%という結果でした。「高齢だから何もできない」ではなく、「量を調整して行う」という中間の選択肢があるということです。

ただし、この試験でも亡くなった方の約2割は治療の副作用(主に感染症)が原因でした。治療の強さは、年齢の数字ではなく、今の生活動作・持病・支えてくれる人の状況で決まります。

治療の切り替え・中止を考える目安

こういうとき考えること
治療しても縮まない/すぐ再燃する薬の系統を変える。効かない薬を続けても、副作用だけが残る
次の治療までの間隔が短くなってきた体の側の余力を見直す時期。同時に、症状をとる治療の比重を上げる
日中の半分以上を横になって過ごす強い治療の利益より不利益が上回りやすい
感染をくり返す/血球が回復しない治療の間隔をあける、量を減らす、あるいは中止も検討
本人が「もう点滴に通いたくない」と言うそれは重要な医学的情報です。率直に伝えてください
SECTION 05

放射線が「よく効く」がん

リンパ腫は、あらゆるがんのなかでも放射線への感受性がとりわけ高いグループです。このことは、在宅療養に入ってからの選択肢に直接ひびきます。

「4グレイを2回」で終わる照射

低悪性度リンパ腫では、合計4グレイをたった2回に分けて当てるという照射法があります。海外では「boom-boom(ブンブン)」という愛称で呼ばれるほど短く、通院は2日で終わります。ドイツからの報告では、この4グレイ照射で90%の病変が縮小したとされています。

英国のFoRT試験は、この4グレイ2回と標準の24グレイ12回を直接比べた無作為化試験です。結果は正直に紹介する必要があります。

FoRT試験:照射した場所が抑えられていた割合 濾胞性・辺縁帯リンパ腫 548人・614病変/追跡期間の中央値73.8か月 2年後 94.1% 79.8% 5年後 89.9% 70.4% 24グレイ/12回(12日間の通院) 4グレイ/2回(2日間の通院) 治すことが目的なら24グレイ。楽になることが目的なら、4グレイが立派な選択肢。 副作用も少なく、脱毛は24グレイ群7%に対し4グレイ群2%。治療に関連した死亡はゼロでした。

図7 長期成績では24グレイのほうが優れており、根治を狙う場面での標準はあくまで24グレイです。ただし、体力が落ち、通院そのものが負担になっている方にとって、「2日で済み、繰り返せる」ことの価値は数字以上です。

在宅療養中に照射が役立つ場面

  • しこりが痛い・大きくなって邪魔になる——数日〜2週間で縮み始めることが多い
  • 皮膚に出た病変が出血する・においが出る——局所の照射でおさまることがある
  • 骨に病変があって痛む
  • 神経を押していて、しびれや麻痺が出そう——予防的に当てる意味がある
  • 胸のなかの塊が気道や血管を押している——後述の緊急事態

「もう治療は終わりにしましょう」と言われた後でも、「症状をとるための照射」は別枠の話です。当院の院長は放射線治療専門医であり、国立がん研究センター中央病院・東京大学病院放射線科で診療にあたってきました。訪問診療を受けながら数日だけ照射に通う、という組み立てが妥当かどうか、実際の病状に照らして一緒に検討できます。

SECTION 06

熱が出たとき、どう考えるか

リンパ腫の療養で、ご家族がいちばん判断に迷うのが発熱です。同じ38℃でも、意味が三つに分かれます。

その熱は、どこから来ているか ① 腫瘍熱 リンパ腫そのものが出す熱 ・悪寒やふるえを伴わない ・重症感が乏しい ・解熱薬なしでも下がる ・2週間以上つづく ② 感染症 肺炎・尿路感染・皮膚など ・悪寒とふるえで始まる ・つらそうに見える ・咳/排尿痛など場所の症状 ・治療できる熱 ③ 好中球が少ない熱 抗がん剤のあと1〜2週 ・症状が乏しくても重症 ・膿が出ない、影も出にくい ・数時間で悪化しうる ・最優先で連絡を 在宅での見分け方——「いつもの数値」があるかどうかで精度が変わる 緩和ケア病棟での検討では、腫瘍熱と感染症を分ける手がかりとして 「平熱のときのCRP・白血球数」と「発熱時の値」との差 が有力でした。つまり、熱のない日の採血が残っていること自体が診断材料になります。 ご家族にお願いしたい記録:体温の時刻/悪寒やふるえの有無/ 解熱薬を使わずに下がったか/食べられた量/尿の回数

図8 「ふるえたかどうか」は、ご家族にしか観察できない、きわめて価値の高い情報です。

腫瘍熱と判断できた場合、ナプロキセンという解熱鎮痛薬を定期的に飲むと、半日〜1日でしっかり平熱に戻ることがよく知られています(ナプロキセンテスト)。効けば診断の裏づけにもなり、そのまま症状緩和としても使えます。訪問診療では、この判断と処方を自宅で完結させられます。

ただし、この見分けを自己判断で行わないでください

抗がん剤治療中・治療終了直後の発熱は、時間単位で悪化する発熱性好中球減少症のことがあります。悪寒とふるえを伴う熱、ぐったりしている、血圧が下がっている、意識がぼんやりしている——このいずれかがあれば、様子を見ずに連絡してください。

SECTION 07

治療のあとに残る「免疫の穴」

「治療は終わったのに、なぜこんなに体調が戻らないのか」——リンパ腫の療養でとてもよく聞くお困りごとです。理由の多くは、治療によってあいた免疫の穴が、月単位・年単位で残ることにあります。

3つの穴と、それぞれの守り方 1 抗体がつくれない リツキシマブなどの抗体薬は B細胞を減らすため、治療後も 半年〜数年、抗体(免疫グロブ リン)が低いままのことが。 → かぜをこじらせやすい → 重い場合は補充も検討 2 好中球が少ない 抗がん剤の1〜2週後が谷。 CAR-T治療のあとは、月単位で 回復が遅れることもあります。 → 熱=緊急として扱う → 生ものより手洗い・口腔ケア → 訪問時の血球チェック 3 眠っていたものが起きる 帯状疱疹、ニューモシスチス 肺炎、B型肝炎ウイルスの 再活性化など。 → 予防薬を勝手にやめない → 帯状の痛み・水ぶくれは即連絡 → 定期の肝機能チェック ※どの穴がどれくらい残っているかは、受けた治療によって異なります。訪問診療の初回に必ず確認します。

図9 「治療が終わった」ことと「免疫が戻った」ことは同じではありません。ここを説明しないまま在宅に移ると、ご家族が原因不明の体調不良に振り回されることになります。

訪問診療の初回に必ず伺うこと

  • いつ、どの治療を、いつまで受けたか(お薬手帳・治療サマリーがあれば理想です)
  • リツキシマブなどの抗体薬を使っていたか、最後はいつか
  • CAR-T治療や造血幹細胞移植を受けたか
  • ST合剤・抗ウイルス薬などの予防薬が処方されているか
  • B型肝炎の既往やキャリアの指摘があったか
  • 直近の血球数(白血球・好中球・ヘモグロビン・血小板)
ここから、在宅診療の話を一段深く
SECTION 08

自宅で受けられる医療の枠組み

訪問診療と往診は別のもの

訪問診療は、通院が難しい方のご自宅へ、計画を立てて定期的に伺う医療です(当院では原則として月2回以上)。これに対して往診は、急な症状のときに臨時で伺うもの。訪問診療の契約をしていれば、往診は24時間体制の一部として組み込まれます。「定期の見守り」と「困ったときの駆けつけ」は、セットで初めて安心につながります。

末期のがんでは、訪問看護の枠が大きく広がる

訪問看護は原則として介護保険が優先され、回数にも上限があります。ところが、「末期の悪性腫瘍」(厚生労働大臣が定める疾病等=別表第七)に該当すると、この枠が外れます。

末期の悪性腫瘍に該当すると、こう変わる 通常のとき ・介護保険が優先 ・週3日までが原則 ・1日1回 ・ステーションは1か所 ・区分支給限度額のなかでやりくり 末期の悪性腫瘍のとき ・医療保険での訪問になる ・日数の制限がなくなる(毎日可) ・1日に2回・3回の訪問も可能 ・2〜3か所のステーションを併用可 ・介護保険の限度額を圧迫しない ※40〜64歳の方も、16特定疾病の「がん(末期)」に該当すれば介護保険のサービスを利用できます。

図10 同じ体制でも、根拠となる制度が変わるだけで、受けられる回数と自己負担の形が変わります。

よくある誤解:「特別訪問看護指示書をもらわないと毎日来てもらえない」

末期の悪性腫瘍では、別表第七に該当した時点で、特別訪問看護指示書がなくても医療保険で毎日の訪問が可能です。指示書の交付を待つ必要はありません。実際に確認すべきなのは次の3点です。

  • 難病等複数回訪問加算(1日に2回・3回伺うとき)が算定できる体制か
  • 2〜3か所のステーションを併用する必要があるか(夜間対応・リハビリ・入浴などで分担)
  • 在宅患者訪問点滴注射指示書——週3日以上の点滴が必要なときに別途必要になります。訪問回数の話とは別枠です

39歳以下の方へ——介護保険が使えない年代の支援

ホジキンリンパ腫やバーキットリンパ腫は若い方にも起こります。39歳以下は介護保険を利用できませんが、福岡市には「小児・AYA世代がん患者在宅療養生活支援事業」があります。訪問介護・訪問入浴・福祉用具貸与が対象で、月額6万円を基準に9割(最大5万4千円)が助成されます。申請はサービス開始前、または開始翌日から30日以内で、医師の意見書が必要です。窓口は福岡市保健医療局 地域医療課 医療支援係(092-711-4892)。当院からも意見書を作成できます。

SECTION 09

自宅でできる医療処置

できること補足
採血・血球チェック貧血・血小板・好中球の推移をみる。腫瘍熱と感染の判断材料にも
点滴(末梢・皮下)脱水時の補液、抗菌薬など。皮下点滴は血管が細くても可能
持続皮下注射(PCA)医療用麻薬を持続で。痛いときにご本人がボタンを押して追加できる
医療用麻薬の調整飲み薬・貼り薬・座薬・注射を状況で使い分ける
酸素療法胸水・肺病変・貧血による息苦しさに
輸血(赤血球)要件を満たせば自宅で実施可能。後述
抗菌薬の点滴肺炎・尿路感染など、入院せずに治療できる場面がある
ステロイドの調整圧迫症状・だるさ・食欲低下に効くことがある
胸水・腹水の穿刺症状が強いときに、抜きすぎない範囲で
皮膚病変のケア皮膚リンパ腫や潰瘍の被覆・においの対策
吐き気・便秘・不眠の薬生活のリズムを保つための地味だが重要な調整
看取りまでの対応夜間・休日も含めた24時間の連絡体制

痛みの手当て——2つの系統を見分ける

リンパ腫の痛みは、大きく2つに分かれます。①塊が周囲を押し広げる痛み(鈍く重い、場所がはっきりしている)は、医療用麻薬とステロイドがよく効きます。②神経を巻き込んだ痛み(ビリビリ、電気が走る、じっとしていても痛い)は、麻薬だけでは足りず、鎮痛補助薬を組み合わせます。

そして、リンパ腫ならではの選択肢として、塊を小さくして痛みの原因ごと減らすという道があります(SECTION 05)。「痛み止めを増やす」だけが答えではありません。

自宅での輸血

骨髄に病変がある場合や、治療後に血球が回復しない場合、貧血で強いだるさが出ます。赤血球輸血は在宅でも実施可能ですが、安全のため次の条件を守ります。

  • 血液型は別の機会に2回検査して確認する
  • 交差適合試験を行い、輸血前後の検体を保管する
  • 開始時は1分あたり1mL程度でゆっくり。開始5分・15分に必ず観察する
  • 開始から1時間は医師または看護師が同席する
  • 抜針は医師または看護師が行う。輸血中はご家族などの付き添いが必要

「輸血のためだけに入院する」ことが、そのまま帰れなくなるきっかけになる場合があります。自宅で輸血ができるかどうかは、療養場所の選択そのものに影響します。ご希望があれば実施可能かを検討します。

終末期の点滴は「減らす」ことが手当てになる

食べられなくなると、点滴を増やしたくなるのが自然な気持ちです。しかし終末期には、体が水分を処理しきれず、むくみ・痰の増加・息苦しさ・胸水や腹水として本人を苦しめる方向に働きます。目安として1日500mL前後、あるいはそれ以下に抑えるほうが、楽に過ごせることが多いことが分かっています。

「食べさせたい家族」と「食べられない本人」

この時期、ご家族が最もつらいのが食事です。量ではなく味を——好きだったものをひと口、氷のかけら、口をしめらせるケア。飲み込めなくても、口のなかをきれいに保つだけで本人の苦痛はかなり減ります。「食べさせる」以外にもできるケアはたくさんあります。

SECTION 10

すぐに連絡してほしい4つのサイン

リンパ腫には、放置すると数日で取り返しがつかなくなるが、早ければ戻せる状況があります。放射線や薬がよく効くがんだからこそ、間に合うかどうかが分かれます。

見逃したくない4つのサイン ① 上大静脈症候群 顔・首・腕がむくむ/朝いちばんがひどい/横になると苦しい/声がかすれる/ 胸の表面に血管が浮き出る —— 胸のなかの塊が太い静脈を圧迫しています ② 脊髄の圧迫 背中・腰の痛み 週〜月かけて 帯状のしびれ 日〜週で 脚に力が入らない 時間〜日で 尿・便が出せない ここまで来ると戻りにくい 左のうちに手を打てば戻せます。右へ進むほど、元に戻らない部分が残りやすくなります。 ③ 悪寒・ふるえを伴う発熱 とくに抗がん剤のあと1〜2週間。見た目が軽くても、数時間で急変することがあります。 「様子を見る」をしない発熱です。 ④ 治療開始直後の、尿が出ない・むくむ・ぐったりする 大量のがん細胞が一気に壊れることで起こる腫瘍崩壊症候群。効きすぎたときにも起こります。

図11 ①②は、放射線治療やステロイド、ステント留置で改善が期待できます。「もう緩和ケアだから」と我慢する必要はありません。

「詰まったとき・麻痺しそうなとき、どうするか」を先に決めておく

これらの対応には、いったん病院に行く必要が生じることがあります。だからこそ、元気なうちに方針を決めておくことをおすすめしています。「症状をとるためなら数日入院してもよい」のか、「何があっても自宅で過ごしたい」のか。決めておけば、夜中に慌てて決断しなくて済みます。決めた内容は、後から変えて構いません。

SECTION 11

看取りまでを、自宅で

「自宅で亡くなったら警察が来る」は誤解です

訪問診療で継続して診ている患者さんが、自宅で息を引き取られた場合、医師法第20条ただし書きにより、死亡に立ち会っていなくても医師が診察のうえ死亡診断書を交付できます(平成24年8月31日 医政医発0831第1号)。慌てて救急車を呼ぶ必要はありません。

ご家族には、「呼吸が止まったら、まず当院に電話してください。夜中でも構いません」とお伝えしています。落ち着いてお別れの時間を持っていただき、それから伺います。

介護する側が倒れないために

数日〜2週間ほど入院していただくレスパイト入院という仕組みがあります。ご家族の休養、法事や仕事の都合、介護者の体調不良など、理由は何でも構いません。「限界まで頑張ってから」ではなく、予定として組み込むほうがうまくいきます。

話し合っておきたい5つのこと(ACP)

テーマ問いかけの例
過ごす場所最期まで自宅がよいか。状況によっては入院も選ぶか
症状が急に出たとき麻痺しそうなとき、息が苦しくなったとき、病院に行くか
点滴と栄養食べられなくなったら、どこまで補うか
眠って過ごすこと苦痛が取れないとき、鎮静という方法をどう考えるか
伝えておきたいこと会っておきたい人、渡したいもの、任せたいこと
ご自宅を支えるチーム ご本人 ご家族 訪問診療医診察・処方・24時間対応 訪問看護師処置・観察・相談 血液内科の主治医治療方針・再治療の判断 ケアマネジャーサービスの調整 薬剤師・リハビリ職薬の管理・動きの維持 ヘルパー・入浴日々の暮らしを支える

図12 在宅に移っても、血液内科との縁は切れません。再治療の可能性がある場合は、当院から連絡を取り、方針をすり合わせます。

SECTION 12

ご家族に見ていただきたいこと

毎日そばにいるご家族の観察は、検査より早く変化をとらえます。難しく考えず、次の項目をひと言メモにするだけで十分です。

見るところ気づいたら伝えてほしいこと
熱と、ふるえ何時に何度か。悪寒やふるえがあったか。解熱薬なしで下がったか
顔・首・腕のむくみ朝がひどい、枕を高くすると楽——上大静脈症候群のサイン
背中・腰の痛みの変化「痛みの質が変わった」「じっとしていても痛い」は要注意
足の力・しびれつまずくようになった、スリッパが脱げる、感覚が鈍い
しこりの大きさ目立って大きくなった、赤くなった、皮膚が破れそう
あざ・鼻血・歯ぐきの出血血小板が下がっているサインのことがあります
食べられた量・水分「何をどれだけ」より「昨日と比べてどうか」
尿の回数・量減っているときは、脱水か、腎臓が押されているか
SECTION 13

受診・相談の目安

すぐに連絡してください

悪寒やふるえを伴う発熱/顔・首・腕が急にむくむ、横になると息が苦しい/足に力が入らない、尿が出せない/止まらない出血/急に意識がぼんやりする

数日以内にご相談ください

痛みが増えて今の薬で足りない/しこりが目に見えて大きくなった/食事量が半分以下の日が続く/2週間以上つづく熱/寝汗で寝具を替えるほど/体重が急に減った/1cmを超えるしこりが3週間縮まない

落ち着いているときに、話しておきたいこと

これからの過ごし方(ACP)/症状が急に出たときに病院へ行くかどうか/介護保険・医療費の見直し/ご家族の休養(レスパイト入院)の計画/自宅での輸血や照射という選択肢について

ふくろう訪問クリニックにできること

福岡市早良区を拠点に、緩和ケア・難病・精神科・認知症を専門とする訪問診療を行っています。悪性リンパ腫の療養では、次のような場面でお力になれます。

  • 通院がつらくなってきた段階からの併走——血液内科への通院を続けながら、自宅での症状管理を担当します
  • 発熱の見きわめを自宅で——腫瘍熱か感染かを、採血と診察で判断し、必要なら自宅で抗菌薬の点滴まで行います
  • 放射線治療という選択肢の検討——院長は放射線治療専門医(国立がん研究センター中央病院・東京大学病院放射線科での診療経験)です。短期間の緩和照射が妥当か、専門的な視点で一緒に考えます
  • 在宅での輸血・持続皮下注(PCA)・酸素療法——「入院しなければできない」と思われていることの多くは、自宅でも可能です
  • 24時間の連絡体制と、看取りまでの対応——夜間・休日もつながります

ご本人・ご家族どちらからのご相談でも構いません。「まだ在宅は早いかもしれない」という段階のご相談こそ、いちばん役に立ちます。

参考文献

  1. 国立がん研究センター がん情報サービス「がん統計」悪性リンパ腫(罹患2023年/死亡2024年/5年相対生存率2018年診断例).2026年7月22日更新・確認.
  2. 日本血液学会 編.造血器腫瘍診療ガイドライン 第3.1版(2024年版).金原出版,2024年12月24日発行.(第4版〈2026年版〉は2026年8月刊行予定)
  3. 日本造血細胞移植学会 造血細胞移植ガイドライン「悪性リンパ腫(成人)第2版」.
  4. Peyrade F, Jardin F, Thieblemont C, et al. Attenuated immunochemotherapy regimen (R-miniCHOP) in elderly patients older than 80 years with diffuse large B-cell lymphoma: a multicentre, single-arm, phase 2 trial. Lancet Oncol. 2011;12(5):460-468. DOI: 10.1016/S1470-2045(11)70069-9
  5. Oberic L, Peyrade F, Puyade M, et al. Subcutaneous rituximab-miniCHOP compared with subcutaneous rituximab-miniCHOP plus lenalidomide in diffuse large B-cell lymphoma for patients age 80 years or older (SENIOR). J Clin Oncol. 2021;39(11):1203-1213. DOI: 10.1200/JCO.20.02666
  6. Ardeshna KM, Qian W, Smith P, et al. Rituximab versus a watch-and-wait approach in patients with advanced-stage, asymptomatic, non-bulky follicular lymphoma: an open-label randomised phase 3 trial. Lancet Oncol. 2014;15(4):424-435. DOI: 10.1016/S1470-2045(14)70027-0(PMID: 24602760)
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  10. König L, Hörner-Rieber J, Bernhardt D, et al. Response rates and recurrence patterns after low-dose radiotherapy with 4 Gy in patients with low-grade lymphomas. Strahlenther Onkol. 2018;194(5):454-461. DOI: 10.1007/s00066-018-1277-3
  11. 小田切拓也,森田達也,山内敏宏,他.後ろ向き研究による,ホスピス入院患者における腫瘍熱と感染症の鑑別に寄与する因子の同定.Palliative Care Research. 2013;8(2):273-278.
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  13. 厚生労働省.「医師法第20条ただし書の適切な運用について」医政医発0831第1号(平成24年8月31日).
  14. 福岡市.小児・AYA世代がん患者在宅療養生活支援事業(保健医療局 地域医療課 医療支援係).

※本コラムは一般の方向けの情報提供を目的としたものであり、個別の診断・治療方針に代わるものではありません。実際の治療については主治医にご相談ください。