FUKUROU COLUMN/緩和ケア・在宅医療

白血病末期の治療・療養
―― 家で過ごすという選択肢は、本当にないのか

白血病の終わりの時期は、「痛み」よりも先に貧血・出血・感染という三つの困りごとがやってきます。輸血が要るから家には帰れない――長くそう思われてきました。けれど今、在宅で輸血を受けながら最期まで家で過ごす方がいます。この記事では、末期白血病に何が起こり、何ができるのかを、在宅診療の現場から一段深くお伝えします。

赤血球・白血球・血小板
SECTION 01

まず、数字で全体像をつかむ

白血病は「血液のがん」です。骨の中にある骨髄で、血液細胞のもとになる細胞ががん化し、正常な血液がつくれなくなっていきます。

日本の白血病(国立がん研究センターがん統計)

  • 新たに診断される人:年間15,165例(男性8,992例/女性6,172例・2023年)
  • 亡くなる人:年間9,972人(男性6,077人/女性3,895人・2024年)
  • 5年相対生存率:44.0%(男性43.4%/女性44.9%・2009〜2011年診断例)

出典:国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計・白血病」(2026年3月23日更新)

ここで大切なのは、「44%」という数字をご自身に当てはめないでほしいということです。これは性質のまったく違う4つの病気を平均した数字だからです。慢性骨髄性白血病のように、飲み薬で何十年も付き合っていける型もあれば、高齢で発症した急性骨髄性白血病のように、月単位の勝負になる型もあります。同じ「白血病」という名前でも、中身は別物です。

SECTION 02

白血病は「4つの病気」の総称

白血病は、①進み方が速いか(急性)ゆっくりか(慢性)、②がん化した細胞が骨髄系かリンパ系か、という2つの軸で4つに分かれます。

図1 白血病の4つのタイプ 骨髄性 リンパ性 急性 慢性 急性骨髄性白血病(AML) 成人でもっとも多い。高齢で発症しやすく、 強い治療に耐えられるかが分かれ目になる。 近年は体力が落ちた方向けの薬の組み合わせも 使えるようになった。 急性リンパ性白血病(ALL) 子どもに多く、小児では高い治癒率。 大人になるほど成績は下がるが、分子標的薬や 免疫療法で選択肢は増えている。 慢性骨髄性白血病(CML) 分子標的薬(チロシンキナーゼ阻害薬)の登場で 「飲み薬で付き合う慢性の病気」に近づいた。 ただし急性転化すると経過は一変する。 慢性リンパ性白血病(CLL) 日本では少ないタイプ。進行が非常にゆるやかで、 症状がなければ治療せず様子を見ることもある。

図1/同じ「白血病」でも、この4つは治療も見通しもまったく異なります。ご家族が調べものをするときは、必ずご本人の型の名前で調べてください。

治療の進歩も型ごとに起きています。たとえば強い抗がん剤治療に耐えられない急性骨髄性白血病の方に対する国際共同試験(VIALE-A試験)では、アザシチジンにベネトクラクスを加えることで、生存期間の中央値が9.6か月から14.7か月に延びました(ハザード比0.66、p<0.001)。「もう強い治療は無理」と言われた方にも、打つ手が残っている時代になっています。

SECTION 03

白血病の「末期」とは、どういう状態か

胃がんや大腸がんには「ステージⅣ」という言い方がありますが、白血病にはそれがありません。血液のがんは最初から全身に広がっている病気なので、進行度を場所で数える意味がないのです。

ですから白血病でいう「末期」とは、おおむね次のような状態を指します。

  • 治療をしても寛解にならない(難治性)
  • いったん寛解したが再発し、次の治療も効かない(再発・再々発)
  • 移植後に再発した
  • 年齢や体力、臓器の状態から、治すための治療がもう選べない

ここに、白血病ならではの難しさがあります。いつが「その時期」なのかが、専門医にも読みにくいのです。固形がんのように少しずつ体力が落ちていくのではなく、直前まで比較的元気に見えていて、感染や出血をきっかけに一気に状態が変わることが少なくありません。

図2 終わりの時期の「落ち方」の違い 高い 低い からだの力 時間の経過 → 固形がん:数か月かけてゆるやかに落ちる 白血病:直前まで保たれ、短期間で急に落ちる 発熱・出血・感染をきっかけに 一気に変わることがある

図2/この「落ち方の違い」が、話し合いの遅れにつながります。実際、緩和ケア病棟で亡くなった方を調べた国内の研究では、最後の治療から亡くなるまでの期間の中央値が、造血器腫瘍で69.0日、固形腫瘍で94.5日と、血液のがんのほうが有意に短いことが示されています(p=0.031)。

だから「早め」に話しておく

血液のがんでは、体調が落ちてから相談を始めると間に合いません。治療がうまくいっている時期のうちに、「もし治療が効かなくなったらどこで過ごしたいか」を一度だけでも話しておく。これが、白血病におけるいちばん実践的な備えです。

SECTION 04

末期に、からだで何が起きているのか

白血病の終わりの時期に起こることは、ほとんどが「骨髄が働けなくなる」という一点から説明できます。がん細胞が骨髄を占領してしまい、正常な血液がつくれなくなる。すると3種類の血液細胞がそれぞれ足りなくなり、3種類の困りごとが出ます。

図3 骨髄が働けなくなると起きる3つのこと 骨髄が白血病細胞で 占領される 赤血球が減る = 貧血 ・少し動くと息切れ ・強いだるさ、ぼんやり ・立ちくらみ、ふらつき ・顔色が白い ・動悸 対応:赤血球輸血 血小板が減る = 出血しやすい ・足に点状の赤い出血 ・あざができやすい ・鼻血、歯ぐきの出血 ・黒い便、血尿 ・まれに頭の中の出血 対応:血小板輸血・圧迫止血 白血球が減る = 感染しやすい ・繰り返す発熱 ・肺炎、尿路感染 ・口内炎、口の中の痛み ・皮膚やお尻まわりの感染 ・悪寒、ふるえ 対応:抗菌薬・口腔ケア このほか、脾臓の腫れによるお腹の張り、骨の痛み、強い倦怠感なども起こります

図3/末期白血病のつらさは、この3つの組み合わせで説明できることがほとんどです。ここを押さえると、「なぜ輸血をするのか」「なぜ熱が出るのか」が家族にも見えるようになります。

血液がんに特徴的な「熱」と「だるさ」

国内の緩和ケア病棟で亡くなった560名を調べた研究では、造血器腫瘍の患者さん(56名)は固形腫瘍の患者さん(504名)と比べて、入院時に発熱が45% 対 21%倦怠感が52% 対 32%と、いずれも有意に多く見られました。一方で痛みは造血器腫瘍でも55%に認められています。

つまり、「血液のがんは痛くないから緩和ケアは要らない」というのは誤解です。痛みも半数以上にあり、そこに熱とだるさが重なる。苦痛の強さそのものは、固形がんの患者さんと同程度であることが同じ研究で示されています。

SECTION 05

この時期の治療は「やめる」ではなく「選び直す」

治すための治療が難しくなったとき、医療の目的は変わります。「数字を良くすること」から「その人が楽に、その人らしく過ごせること」へ。やることが減るのではなく、選ぶ基準が変わるのです。

治療治すための時期末期の時期の考え方
赤血球輸血検査値が基準を下回れば行う症状が楽になるなら行う。息切れ・だるさ・ふらつきが改善するかで判断する
血小板輸血出血予防のため定期的に出血しているとき、出血が命に関わりそうなときに絞る場合が多い
抗菌薬感染は必ず叩く熱や悪寒がつらいなら使う。効果がなければ、解熱そのものを目標に切り替える
抗がん剤寛解を目指す副作用と得られるものを天秤にかける。中止という選択が最善のこともある
点滴(水分)脱水を防ぐ入れすぎるとむくみ・痰・呼吸苦の原因に。減らすほうが楽になる時期がある

特に輸血については、「どこまで続けるか」に一律の正解がありません。国内外の専門家の間でも議論が続いています。私たちが現場で使っている目安はシンプルです。

輸血を続けるかどうかの、実際的な目安

  • 輸血の翌日〜数日、本人が「楽になった」と感じているか
  • 輸血の間隔が縮まり続けていないか(2週に1回が毎週、毎週が数日おきになっていく)
  • 輸血のために移動すること自体が、負担になっていないか
  • 本人が、輸血を望んでいるか

「楽になる実感がなくなり、間隔だけが縮まっていく」段階に来たとき、そこが立ち止まって話し合うタイミングです。

SECTION 06 / 在宅診療パート

「輸血が要るから家に帰れない」を、もう一度考える

ここからが本題です。末期白血病の在宅療養は、固形がんの在宅療養とは準備するものが少し違います。何ができて、何に備えるのか。制度と手順まで踏み込んでお伝えします。

なぜ血液のがんは、家やホスピスに「行きにくい」と思われてきたのか

これは印象論ではなく、データがあります。

図4 がん死亡に占める割合と、緩和ケア病棟の利用の割合 がん死亡に占める 造血器腫瘍(2017年) 6.8% 遺族調査 J-HOPE3 (緩和ケア病棟133施設) 2.3% 予後予測調査 J-ProVal(16施設) 0.6% 亡くなる方の15人に1人が血液のがんなのに、緩和ケア病棟の利用は1〜2%前後にとどまっている

図4/出典:大野栄治「緩和ケア病棟へ入院した造血器腫瘍患者の臨床的特徴」Palliat Care Res 2020;15(1):21-27 に引用されたデータより作図。

海外にも同じ傾向があります。米国のメディケア加入者21,033名(年齢中央値79歳)の白血病患者を分析した研究では、輸血が必要な状態の方はホスピスの在籍期間が中央値6日にとどまり、輸血の要らない方の11日の約半分でした。3日未満で亡くなる方も27%(対19%)と多かったのです。「輸血をやめないとホスピスに入れない」という制度の壁が、患者さんに二者択一を迫っていました。

日本の在宅医療は、ここが違います

日本では、在宅医療のなかで輸血も、点滴の抗菌薬も、医療用麻薬も行えます。「輸血をやめる」ことと「家に帰る」ことは、切り離せるのです。

データでも、条件が整えば在宅で同じ結果が出ている

造血器腫瘍の在宅医療を多く手がける施設で、造血器腫瘍20例と固形がん99例の在宅療養を比較した厚生労働科学研究の報告があります。結果はこうでした。

  • 在宅での輸血の実施は造血器腫瘍で明らかに多い(約70%対約5%)
  • 在宅での抗菌薬の使用も多い(約80%対約25%、p<0.0001)
  • しかし、在宅での看取り率・入院に至った割合・生存期間には差がなかった

つまり、手のかかり方は違うけれど、結果は変わらない。「在宅で輸血と抗菌薬をきちんと行える体制さえ整えば、血液のがんでも在宅での終末期医療は可能である」という結論です。症例数の少ない研究ではありますが、現場の実感とよく一致しています。

その1:訪問診療と往診は、別のものです

訪問診療往診
タイミングあらかじめ決めた日に定期的に具合が悪くなったとき、その都度
目的計画的な診察・薬の調整・先を見た備え発熱、出血、痛みの増強などへの臨時対応
頻度の例週1回〜月2回(状態により毎日も可)必要時(24時間対応)

末期白血病の在宅では、この両方を組み合わせるのが前提です。定期の訪問診療で採血をして輸血の必要性を判断し、発熱や出血が起きたときには往診で駆けつける。この二本立てがないと、家での療養は成り立ちません。

その2:末期がんは、保険の使い方が特別扱いになる

「末期の悪性腫瘍」は、訪問看護の制度上、いちばん手厚い枠が使えるグループ(厚生労働大臣が定める疾病等=いわゆる別表第七)に含まれます。白血病の末期も、もちろんここに入ります。

図5 末期がんで広がる訪問看護の枠 通常の訪問看護(介護保険) 週3日まで 末期の悪性腫瘍(別表第七に該当) 医療保険に切り替わり、日数の上限がなくなる(毎日の訪問が可能) 末期がんで広がるもの ・訪問看護は介護保険ではなく医療保険で提供され、週の日数制限がなくなる ・1日に2回・3回の訪問ができる(難病等複数回訪問加算) 2か所の訪問看護ステーションを併用できる 40〜64歳の方も、介護保険が使えます 介護保険は原則65歳以上ですが、40〜64歳でも「16の特定疾病」に当てはまれば申請できます。 がん(末期)はこの16疾病に含まれます。介護ベッド・車いす・手すり・訪問介護・ デイサービスなどが使えるようになるので、働き盛りの世代でも必ず申請してください。

図5/訪問看護は医療保険で、生活を支える福祉用具や訪問介護は介護保険で。2つの保険を同時に使うのが末期がんの在宅の基本形です。

その3:在宅輸血は、こうやって行います

ここが、末期白血病の在宅療養でいちばん知られていない部分だと思います。在宅輸血は思いつきで行うものではなく、日本輸血・細胞治療学会が定めた手順があります(「在宅赤血球輸血ガイド」2017年)。かなり細かく決まっており、それを守るからこそ安全に行えます。

■ 在宅輸血ができる条件

おおまかな要件(在宅赤血球輸血ガイドより整理)

  • 対象は慢性の血液疾患・悪性疾患など、通院が難しく在宅療養中の貧血や、終末期の病態。急性の出血は原則として在宅では扱いません
  • 原則として過去に輸血を受けた経験があり、重い副反応が起きなかったことが確認できていること(初回の輸血は病院で行うのが原則)
  • 輸血で生活の質が改善する見込みがあること
  • 不安定狭心症や重い心不全、腎機能の悪化など、輸血で負担がかかりすぎる状態でないこと
  • 本人に意識があり、体の変化を伝えられること
  • 医療者が帰ったあともそばにいて見守れる成人のご家族(付添人)がいること
  • 主治医・訪問看護ステーションと24時間連絡がつくこと

■ 当日までの流れ

1
説明と同意通常の輸血の同意書に加えて、「在宅で行うこと特有のリスク」についての説明と同意書を別にいただきます。医療者が帰ったあとに副反応が出る可能性と、そのときの連絡方法まで含めて説明します。
2
血液型と抗体の検査ABO血液型は「オモテ検査」「ウラ検査」の両方を、しかも別の日に採った2回の検体で確認します。RhD血液型、不規則抗体の検査も行います。取り違えを防ぐための、譲れない手順です。
3
輸血前の採血と検体保管あとから「輸血で感染したのか、もともとだったのか」を確かめられるように、輸血前1週間ほどの間に採った血清を2mLほど、-20℃以下で2年を目安に保管します。B型・C型肝炎ウイルスの検査もこのときに行います。
4
交差適合試験と製剤の手配輸血の直前1週間以内(3か月以内に輸血歴があれば3日以内が望ましい)に採った血液で適合試験を行い、必要な単位数を発注します。赤血球製剤は2〜6℃で温度管理し、記録を残しながら患者さんのお宅へ運びます。

■ 輸血当日、家で何が起きるか

図6 在宅輸血の当日タイムライン 開始前 本人・製剤を 2名で交互復唱 確認/血圧・体温 最初の10〜15分 1分間に1mLの ゆっくりした速度 最初の5分は そばを離れない 15分後 副反応がないか 確認して記録 問題なければ 速度を上げる 開始後1時間まで 医師または看護師が 同席する 以降は駆けつけられる 範囲で行動 終了〜翌日 抜針は医師・看護師 が行う 付添人が翌日まで 見守る 見逃してはいけない症状:発熱・悪寒・ふるえ/かゆみ・じんましん/息苦しさ/血圧の低下 /胸や腰の痛み/赤褐色の尿。これらが出たらすぐ中止して連絡——を、ご家族に必ずお伝えします。

図6/訪問看護師が滞在できる時間は制度上おおむね1〜1時間半です。在宅輸血はゆっくり落とすため、その時間内に終わらないことのほうが多い。だからこそ「付添人」の存在が要件になっています。

2026年、輸血のルールブックが変わりました

長く使われてきた国の「血液製剤の使用指針」と「輸血療法の実施に関する指針」は、2026年2月に日本輸血・細胞治療学会がまとめた「輸血療法実践ガイド」に統合され、2026年7月に厚生労働省から各都道府県へ、旧2指針の廃止と新ガイドの周知が通知されました。在宅輸血を行う施設は、この新しいガイドに沿って手順を見直しているところです。

その4:出血に、あらかじめ備えておく

血小板が減った状態での在宅療養では、「起きてから考える」では間に合わないことがあります。私たちは訪問開始の早い段階で、ご家族と一緒に準備をします。

家に用意しておくもの・決めておくこと

  • 圧迫用のガーゼと清潔なタオル(濃い色のものを混ぜておくと、出血量の見た目の衝撃がやわらぎます)
  • やわらかい歯ブラシまたはスポンジブラシ——歯ぐきからの出血予防に、口腔ケアは想像以上に大事です
  • 鼻血のときの正しい押さえ方(小鼻をつまんで下を向く。上を向かない、綿を詰めっぱなしにしない)
  • 止血しにくいときに使う内服・外用薬を、あらかじめ手元に置いておく
  • ぶつけない環境づくり(角のガード、段差の解消、夜間の足元灯)
  • 「どこまでの出血なら家で対応し、どうなったら連絡するか」の線引きを、事前に文書で共有する

また、大きな出血や意識の変化が起きうる可能性については、ご家族の心構えとして事前にお伝えしておきます。「何も知らされずに直面する」ことが、いちばんご家族を傷つけるからです。そのときに苦痛を和らげる薬をすぐ使えるよう、あらかじめ処方を置いておくこともあります。

その5:発熱したとき、家でできること

好中球が減った状態での発熱は、原因を突き止めきれないことがよくあります。在宅では次のように考えます。

  • 熱そのものがつらいなら、解熱を目的に対応する(クーリング、解熱薬)
  • 肺炎や尿路感染など、治療で楽になりそうな感染が疑われれば、在宅で点滴の抗菌薬を使う
  • 口の中の痛みや口内炎も、感染の入り口であり、食べられなくなる原因でもあるため、口腔ケアと局所の治療を丁寧に行う
  • 抗菌薬を使っても熱が下がらず、体力の消耗が上回るようになったら、「抗菌薬を続けるかどうか」を話し合う

この最後の判断は、ご家族にとってとても重い。だからこそ、医師が「もう意味がありません」と言い切るのではなく、何を目指しているのかを一緒に確認しながら決めていくことが大切だと考えています。

その6:痛みと息苦しさは、皮下注射で細やかに調整できる

白血病の痛みは、骨の痛み、脾臓の腫れによるお腹の張り、口の中の痛みなどさまざまです。飲み薬が飲めなくなっても、持続皮下注射(お腹などに細い針を留置して少量ずつ注入する方法)で医療用麻薬を届けられます。

  • 点滴の血管確保が難しくなっても使える(血管が細く、出血しやすい方には特に有利)
  • PCA(患者自己調節鎮痛)を組めば、痛いときに本人がボタンを押して追加できる
  • 痛みだけでなく、貧血や全身状態による息苦しさにも少量のオピオイドが効きます
  • 針は数日ごとに訪問看護師が入れ替えるだけ。入浴もできます

その7:点滴の水分は、減らしたほうが楽になる時期がある

「食べられないから、せめて点滴を」というお気持ちは自然です。ただ、終わりが近づくと体は水分を処理しきれなくなり、入れた分がむくみ・痰の増加・お腹の張り・呼吸の苦しさとして返ってきます。

私たちは、点滴を「ゼロか全開か」ではなく、むくみや痰を見ながら少しずつ量を調整するものとしてご説明します。減らすことは、見捨てることではありません。口の渇きは、点滴ではなく口腔ケアと少量の氷片のほうがずっとよく和らぎます。

その8:急に亡くなられても、警察を呼ぶ必要はありません

ご家族がもっとも不安に思われるのがここです。はっきりお伝えします。

在宅での看取りと、医師法20条ただし書き

訪問診療を受けている患者さんが、その病気の経過のなかで自宅で亡くなられた場合、診療をしていた医師が改めて診察したうえで死亡診断書を交付できます。厚生労働省も平成24年8月31日付の通知(医政医発0831第1号)で、この取扱いを明確にしています。異状死として警察に届け出る必要はありません。

夜中に息を引き取られても、あわてて救急車を呼ぶ必要はありません。まず訪問看護ステーションかクリニックにお電話ください。私たちが伺います。ご家族だけの静かな時間を過ごしていただいてから、で構いません。

その9:介護するご家族が倒れないために

末期白血病の在宅療養は、輸血・発熱・出血と、対応することが多い。ご家族の疲れが、在宅を続けられなくなるいちばんの原因です。

  • レスパイト入院——数日から1〜2週間、連携先の病院で預かってもらう仕組みです。「限界だから」ではなく、「続けるために」あらかじめ計画的に使ってください
  • 訪問看護は末期がんなら毎日、1日複数回も入れます。夜間の不安が強い時期は回数を増やせます
  • 介護保険で訪問介護・入浴・福祉用具を組み合わせ、ご家族が「介護者」だけにならない時間をつくります

その10:在宅を支えるチームの全体像

図7 末期白血病の在宅を支えるチーム ご本人 ご家族 血液内科(病院) 情報提供・再入院の受け皿 在宅医(訪問診療) 24時間対応・輸血の判断 訪問看護ステーション 輸血の実施・症状の観察 訪問薬剤師 麻薬の管理・在庫の確保 検査会社・血液センター 適合試験・製剤の供給 ケアマネジャー 介護保険サービスの調整 ヘルパー・入浴・用具 日々の生活を支える レスパイト先の病院 介護者を休ませる入院 白血病の在宅は、病院の血液内科と切れないことが成功の条件です

図7/在宅に移っても、病院の血液内科との関係は続きます。輸血歴・副反応歴・血液型の情報提供を受け、状態が変わったときの再入院先も確保しておく。「病院か家か」ではなく「病院と家で」が実際の姿です。

その11:話し合いは、早く、何度でも

アドバンス・ケア・プランニング(ACP、人生会議)は、「もしものときの希望を、前もって、繰り返し話し合っておく」取り組みです。白血病では、これを固形がんよりさらに早く始める必要があります。予後の予測が難しく、状態が変わってからでは間に合わないからです。

話し合っておきたいこと

  • どこで過ごしたいか(家/病院/緩和ケア病棟/施設)
  • 輸血を、どのくらいまで続けたいか
  • 熱が出たとき、入院してでも治療を受けたいか/家で様子を見たいか
  • 食べられなくなったとき、点滴や管をどう考えるか
  • 心臓が止まったとき、蘇生処置を望むか
  • ご本人が話せなくなったとき、誰に決めてもらいたいか

一度決めたら変えられないものではありません。気持ちは変わって当然です。「あのとき言ったこと、やっぱり違う」と言っていただけることが、いちばん良い話し合いです。

SECTION 07

ご家族が、家でできること

特別な医療技術は要りません。効果が大きい順に挙げます。

できることなぜ効くのか
口腔ケア感染の入り口を減らし、口の痛みを防ぎ、口の渇きを和らげる。末期白血病でいちばん費用対効果の高いケアです
転ばない環境貧血でふらつき、血小板が少ない状態での転倒は、打ちどころによって大きな出血につながります
体位を変える・さするだるさと痛みの軽減。何もできないと感じるときにも、手で触れることには意味があります
食べたいものを、食べたい量だけ「食べさせなければ」という気持ちは、この時期はいったん手放してください。少量でも本人が味わえることのほうが大切です
記録をつける熱の出方、出血の場所、輸血後の楽さ。訪問時にこの記録があると、判断の精度が大きく上がります
SECTION 08

こんなときは、すぐご連絡ください

その場で連絡していただきたい状態

  • 押さえても10分以上止まらない出血、吐血、大量の鼻血
  • 真っ黒な便、赤い便、血尿
  • 強い頭痛、片側の手足の力が入らない、呼びかけへの反応が鈍い
  • ふるえを伴う38℃以上の発熱、意識がぼんやりする
  • じっとしていても息が苦しい、唇が青い
  • 輸血の当日〜翌日に、発熱・じんましん・息苦しさ・胸や腰の痛みが出た

ふくろう訪問クリニックにできること

当院は福岡市早良区を拠点に、緩和ケア・難病・精神科・認知症を専門とする在宅専門の訪問診療クリニックです。24時間365日の対応体制をとり、併設の訪問看護リハビリステーションと連携して、末期の血液がんの方の在宅療養にも対応しています。

「輸血が続いているから、家では無理だと言われた」「病院から在宅を勧められたが、何ができるのかわからない」——そうした段階でのご相談を、いちばん多くいただきます。まだ元気なうちのご相談が、いちばん多くの選択肢を残せます。

ご本人・ご家族からのお問い合わせはもちろん、病院の地域連携室・ソーシャルワーカー・ケアマネジャーの方からのご相談も承っております。

この記事について

本記事は一般の方向けの解説であり、個々の患者さんの診断・治療方針を示すものではありません。治療の選択は、必ず主治医とご相談のうえで決めてください。記載した制度・診療報酬の内容は2026年7月時点のものです。

参考文献・出典

  1. 国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計・白血病」(罹患2023年/死亡2024年/5年相対生存率2009〜2011年診断例、2026年3月23日更新)
  2. DiNardo CD, Jonas BA, Pullarkat V, et al. Azacitidine and Venetoclax in Previously Untreated Acute Myeloid Leukemia. N Engl J Med. 2020;383(7):617-629. DOI: 10.1056/NEJMoa2012971(PMID: 32786187)
  3. 大野栄治. 緩和ケア病棟へ入院した造血器腫瘍患者の臨床的特徴. Palliative Care Research. 2020;15(1):21-27. DOI: 10.2512/jspm.15.21
  4. LeBlanc TW, Egan PC, Olszewski AJ. Transfusion dependence, use of hospice services, and quality of end-of-life care in leukemia. Blood. 2018;132(7):717-726. DOI: 10.1182/blood-2018-03-842575(PMID: 29929902)
  5. 北澤淳一, 玉井佳子, 藤田浩, ほか. 在宅赤血球輸血ガイド. 日本輸血細胞治療学会誌. 2017;63(5):664-673.(日本輸血・細胞治療学会 ガイドライン委員会 小規模医療機関〈在宅を含む〉輸血ガイドライン策定タスクフォース)
  6. 日本輸血・細胞治療学会 ガイドライン委員会. 輸血療法実践ガイド. 令和8年(2026年)2月.(「血液製剤の使用指針」「輸血療法の実施に関する指針」を統合。厚生労働省より令和8年7月、各都道府県知事宛に旧指針の廃止と本ガイドの周知が通知された)
  7. 厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患等政策研究事業「特発性造血障害に関する調査研究」分担研究報告書(造血器腫瘍と固形がんにおける在宅緩和医療の比較、平成30年度)
  8. 厚生労働省医政局医事課長通知「医師法第20条ただし書の適切な運用について」平成24年8月31日 医政医発0831第1号
  9. Hui D, Didwaniya N, Vidal M, et al. Quality of end-of-life care in patients with hematologic malignancies: a retrospective cohort study. Cancer. 2014;120(10):1572-1578. DOI: 10.1002/cncr.28614
  10. Moreno-Alonso D, Porta-Sales J, Monforte-Royo C, et al. Palliative care in patients with haematological neoplasms: An integrative systematic review. Palliat Med. 2018;32(1):79-105. DOI: 10.1177/0269216317735246

医療法人ふくろうの樹 ふくろう訪問クリニック
福岡市早良区/在宅医療・緩和ケア・難病・精神科・認知症
訪問診療および24時間対応体制、ふくろう訪問看護リハビリステーション併設