老健・介護医療院・療養病床の使い分け
ここまでの5回は「暮らす場所」の話でした。この回は違います。 介護老人保健施設、介護医療院、療養病床のある病院。この3つは、医療が中心にある行き先です。 そして、いずれも外部の医師による訪問診療は入れません。 かかりつけの先生とは、いったん離れることになります。 それがどういうことなのかを含めて、3つの違いをはっきりさせます。
この回の結論
- 3つとも「暮らす場所」ではありません。介護老人保健施設は家に帰るための場所、介護医療院は長く療養する場所、療養病床は入院です。
- いずれも外部の訪問診療は入れません。医師がその施設や病院にいるからです。かかりつけ医は、いったん離れます。
- 介護老人保健施設に長くいることはできません。省令が「居宅で日常生活を営めるかどうかを定期的に検討し、記録する」ことを求めているからです。
SECTION 01 3つを、一枚に並べる
第1回で、介護保険の施設は3つしかないと書きました。特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、介護医療院です。 このうち特別養護老人ホームは第5回で扱いました。残りの2つと、 介護保険ではない療養病床のある病院を、ここで並べます。
| 介護老人保健施設 | 介護医療院 | 療養病床のある病院 | |
|---|---|---|---|
| 何をするところか | 家に帰るための場所。リハビリと医学的管理 | 長く療養する場所。医療と暮らしの両方 | 入院。治療が必要な状態が前提 |
| 使う保険 | 介護保険 | 介護保険 | 医療保険 |
| 医師 | 常勤換算で入所者100人に1人以上 | Ⅰ型は入所者48人に1人、Ⅱ型は100人に1人(合計3人未満なら3人) | 病院の医師 |
| 看護職員 | 介護職員と合わせて入所者3人に1人以上(うち看護が7分の2程度) | 入所者6人に1人以上(介護職員は別に配置) | 病棟の基準による |
| リハビリ職 | 必置(入所者100人に1人以上) | 実情に応じた適当数 | 病棟の基準による |
| いられる期間 | 帰れるかどうかを定期的に検討する | 長期の療養が前提 | 医療の必要度が下がると転院や退院を求められる |
| 訪問診療 | 入れない | 入れない | 入れない |
| 看取り | 施設によって対応が分かれる | 看取りやターミナルケアも行う | 病院として対応する |
| 福岡市内の数 | 26施設 | 10施設 | 病院ごとに異なる |
表1 3つの比較。施設数は令和8年8月1日現在(第1回の表4と同じ出典)。 人員の基準は、それぞれの省令によります。訪問診療については第9回でくわしく扱います。
SECTION 02 介護老人保健施設——帰るための場所
通称は「老健(ろうけん)」です。骨折や脳梗塞で入院して、 急性期の治療は終わったけれど、そのまま家に帰るのは難しい。 そういうときに、リハビリをして家に帰る準備をする場所です。
介護老人保健施設の人員、施設及び設備並びに運営に関する基準(平成11年厚生省令第40号)第2条は、 置くべき職員をこう定めています。
医師——常勤換算で、入所者の数を100で割った数以上。 看護職員と介護職員——合わせて入所者3人につき1人以上。 このうち看護職員は総数の7分の2程度、介護職員は7分の5程度が標準とされています。 特別養護老人ホームでは看護と介護の割合まで定められていないので、ここが違いです。
そして理学療法士、作業療法士または言語聴覚士——常勤換算で入所者100人につき1人以上。 リハビリの専門職を置くことが決まっているのは、3つの介護保険施設のなかで 介護老人保健施設だけです。ほかに支援相談員、薬剤師、栄養士、介護支援専門員を置きます。
「3か月で出される」という話の正体
老健について、「3か月で出されるらしい」と聞いたことがあるかもしれません。 実は、省令のどこにも「3か月」とは書かれていません。書かれているのは、次のことです。
前項の検討に当たっては、医師、薬剤師、看護・介護職員、支援相談員、介護支援専門員等の 従業者の間で協議しなければならない。 出典:介護老人保健施設の人員、施設及び設備並びに運営に関する基準(平成11年厚生省令第40号)第8条第4項・第5項
つまり、「家に帰れるかどうか」を定期的に会議で検討することが義務づけられているのです。 実務では、おおむね3か月ごとに検討されることが多く、そこから「3か月」という言い方が生まれました。 帰れる状態になったと判断されれば、退所の話が出ます。
ここを誤解して入ると、家族がいちばん苦しみます。 老健は、特別養護老人ホームの空きを待つあいだの居場所ではありません。 実際にはそのように使われることもありますが、制度の建て付けとしては 「家に帰ること」を目指す施設です。 入所するときに、施設の支援相談員と「どういう状態になったら退所の話になるのか」を 具体的に確認しておいてください。
なお、退所のときには施設側にも義務があります。同じ省令の第8条第6項は、 本人や家族への適切な指導、居宅介護支援事業者への情報提供、 そして退所後の主治医への情報提供に努めることを求めています。 「家に帰ったあと、誰が診るのか」は、退所前に決められる話です。
| 要介護度 | 介護老人保健施設 (在宅強化型・多床室) | 介護医療院 (Ⅰ型・多床室) | 特別養護老人ホーム (ユニット型個室) |
|---|---|---|---|
| 要介護1 | 27,651円 | 26,115円 | 21,726円 |
| 要介護2 | 30,034円 | 29,563円 | 23,920円 |
| 要介護3 | 32,134円 | 37,056円 | 26,272円 |
| 要介護4 | 33,952円 | 40,222円 | 28,498円 |
| 要介護5 | 35,614円 | 43,107円 | 30,661円 |
表2 福岡市が公表している利用者負担のめやす(1か月30日、1割負担)。 いずれも食事代、居住費、日常生活費が別に必要です。 居室の型や施設の類型によって金額は変わります。特別養護老人ホームの列は第5回の表1と同じものです。 同市の案内には、この金額は令和6年度の報酬改定を反映したものと記載されています。
SECTION 03 介護医療院——長く療養する場所
介護医療院は、比較的新しい施設です。医療が継続して必要で、 しかも長く暮らすことになる方のためにつくられました。 省令はこう定めています。
福岡市は、この施設をこう説明しています。 「長期的な医療と介護のニーズを併せ持つ高齢者を対象とし、 『日常的な医学管理』や『看取りやターミナルケア』等の医療機能と 『生活施設』としての機能とを兼ね備えた施設」。 医療の場でありながら、暮らす場所でもあるという位置づけです。
Ⅰ型とⅡ型で、医師と介護職員の数が違う
介護医療院には、療養床にⅠ型とⅡ型があります。省令の定義はこうです。
- Ⅰ型療養床主として長期にわたり療養が必要である者であって、重篤な身体疾患を有する者、身体合併症を有する認知症高齢者等を入所させるためのもの。
- Ⅱ型療養床Ⅰ型以外のもの。医療の必要度が、Ⅰ型ほどは高くない方が対象になります。
同じ省令の第4条は、職員の数をこう定めています。数字がⅠ型とⅡ型で分かれるのが特徴です。
医師——常勤換算で、Ⅰ型の入所者数を48で割った数に、Ⅱ型の入所者数を100で割った数を 加えた数以上。ただし3人に満たないときは3人。つまりⅠ型は入所者48人に医師1人という 計算になり、介護老人保健施設の100人に1人より手厚くなります。
看護職員——常勤換算で、入所者の数を6で割った数以上。入所者6人に1人です。 介護職員——Ⅰ型は入所者5人に1人、Ⅱ型は6人に1人。 看護と介護が別々に定められている点が、介護老人保健施設や特別養護老人ホームと違います。
さらに薬剤師、理学療法士・作業療法士または言語聴覚士、栄養士、介護支援専門員、 そして診療放射線技師を実情に応じて置くことになっています。 レントゲンが撮れる体制がある、ということです。
介護医療院を考えるとき、福岡市には知っておくべき事情があります。 市内に10施設しかなく、しかも区によって偏りがあります。 市が公表している一覧(令和8年8月1日現在)を区ごとに数えると、次のようになります。
東区5、博多区3、西区2。そして中央区、南区、城南区、早良区にはひとつもありません。 市の南側と西側の一部にお住まいの方が介護医療院を選ぶ場合、 東区や博多区まで移ることになります。面会に通う距離を、あらかじめ考えておいてください。
介護老人保健施設は26施設あり、東区3、博多区4、中央区2、南区4、城南区3、早良区5、西区5と、 各区に分かれています。こちらは比較的、住んでいる区の近くで探せます。
SECTION 04 療養病床のある病院——これは入院です
最後は病院です。第1回で触れたとおり、療養病床は医療法が定める病床の種類のひとつで、 「主として長期にわたり療養を必要とする患者を入院させるためのもの」です。 介護保険の施設ではなく、医療保険による入院になります。
そして、入院を続けられるかどうかは、本人や家族の希望ではなく、 医療がどれだけ必要かで決まります。 その判定に使われるのが「医療区分」という仕組みです。 医療区分は1から3まであり、区分1は「医療区分2・3に該当しない者」と定められています。
医療区分2に当たる状態の例を挙げます。ここに書かれているような医療が必要かどうかが、 入院の可否を分けます。
- 処置が必要な状態1日8回以上のたんの吸引、酸素療法、頻回の血糖検査、気管切開または気管内挿管が行われている状態、人工透析、中心静脈栄養(一定の条件のもとで開始から30日を超えるもの)など。
- 末期の状態末期の心不全、末期の腎不全、末期の呼吸器疾患で、医療用麻薬などによる苦痛のコントロールが必要な状態。
- そのほか体内からの出血が反復して続いている状態、せん妄に対する治療、うつ症状に対する治療、他者に対する暴行が毎日認められる状態など。
令和8年度の診療報酬改定で、療養病棟入院基本料2において求める 医療区分2・3の患者の割合が、5割から6割に引き上げられました。 病棟全体として、医療の必要度が高い患者を一定の割合以上受け入れることが求められる、ということです。
家族の側から見ると、これは「状態が落ち着いたら、転院や退院の話が出やすくなる」 ことを意味します。療養病床を、長く暮らす場所として当てにするのは危険です。 入院した時点で、次の行き先を並行して探し始めてください。 病院の医療相談室(地域連携室)は、そのためにある部署です。
なお、介護している家族が休むための短期の入院を「レスパイト入院」と呼ぶことがあります。 受け入れている病院もありますが、医療保険の入院は病状によって決まるため、 希望すれば必ず使えるというものではありません。 同じことを介護保険でする仕組みが、第3回で扱った短期入所療養介護 (介護老人保健施設などのショートステイ)です。まずはケアマネジャーに相談してください。
SECTION 05 どう使い分けるか
3つを比べても決められない、というときは、順番を逆にしてください。 「これからどうしたいか」から選ぶと、行き先はほぼ決まります。
図1 医療が必要になったときの分かれ道。1から3を選ぶと、かかりつけ医とはいったん離れます。
SECTION 06 この3つに移ると、かかりつけ医は替わる
この回でいちばんお伝えしたいのは、ここです。 第4回で扱った有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅では、 入居者が医療機関を自由に選べました。福岡市の指導指針にそう書かれていました。 ところが、この回の3つは違います。
介護老人保健施設にも、介護医療院にも、病院にも、その施設の医師がいます。 省令や医療法が、置くべき医師の数を定めています。 だから、外部のクリニックが訪問診療で入ることは、制度として想定されていません。 これは施設の方針ではなく、仕組みの問題です。
家族にとって、これは思っているより大きな変化です。 長年診てもらってきた先生が、これまでの経過を知ったうえで判断してくれていた。 その積み重ねが、いったん途切れます。 新しい医師は、紹介状(診療情報提供書)と検査結果から始めることになります。
ですから、移るときにはかかりつけ医に紹介状を書いてもらってください。 病名と薬だけでなく、これまで何を大事にしてきたか、 本人と家族がどういう希望を持っているかも書いてもらえるよう、お願いしてみてください。 そして、退所して家に戻るときには、もう一度こちらに情報を返してもらう。 介護老人保健施設の省令が、退所後の主治医への情報提供に努めることを求めているのは、 そのためです。
薬が減ることは、悪いことではありません。
介護老人保健施設に入られた方のご家族から、 「入ったら薬をずいぶん減らされた」という相談を受けることがあります。 驚かれるのは無理もありません。ただ、これには理由があります。 介護老人保健施設では、薬の費用が施設サービス費に含まれる部分が大きく、 施設の医師が処方を整理することが多いのです。
そして、多くの場合それ自体は悪いことではありません。 高齢の方が10種類を超える薬を飲んでいると、ふらつきや転倒、 食欲の低下といった副作用が出やすくなることが知られています。 整理することで、かえって元気になる方もいます。
大事なのは、何をやめたのかを聞いておくことです。 そして家に帰るとき、あるいは別の施設に移るときに、その情報を次の医師に渡すこと。 「入所前はこの薬を飲んでいて、入所中にこれを中止した」という一行があるだけで、 次の医師の判断はずいぶん確かになります。 私たちが訪問診療を引き継ぐときにも、いちばん知りたいのはそこです。
この回のチェックリスト(第6回ぶん)
- いま検討しているのが、3つのうちどれなのかを言える
- 介護老人保健施設の場合、どういう状態になったら退所の話になるのかを支援相談員に聞いた
- 介護医療院を考える場合、通える距離にあるかを確かめた(中央区・南区・城南区・早良区にはありません)
- 療養病床の場合、次の行き先を探し始めた(病院の医療相談室に相談した)
- かかりつけ医に紹介状を書いてもらった
- 入所前に飲んでいた薬のリストを、家族が控えている
- 入所中に中止・変更になった薬を確認する予定を立てた
- 看取りまで対応してもらえるかを聞いた
この回で出てきた福岡市の窓口
電話番号と受付時間は変わることがあります。最新の内容は各ページでご確認ください。
- 福岡市 高齢者福祉施設の一覧介護老人保健施設と介護医療院の施設一覧(区・名称・所在地・電話番号)/施設一覧のページ
- いきいきセンターふくおか(福岡市地域包括支援センター)退院後の行き先の相談、介護老人保健施設からの退所後の組み立て/案内ページ
- 入院先の病院の医療相談室(地域連携室)市の窓口ではありませんが、入院中の相談はここが起点になります。ソーシャルワーカーが対応します
- お住まいの区の福祉・介護保険課負担限度額認定の申請(食費・居住費の軽減。第8回で扱います)/介護保険負担限度額認定のページ
自宅でも、施設に移ってからでも、医療は続けられます。
ふくろう訪問クリニックは、福岡市早良区の在宅医療のクリニックです。 ご自宅はもちろん、有料老人ホーム・サービス付き高齢者向け住宅・グループホームへも医師が伺います。 通院が難しくなってきた、施設に移るので主治医を探している、退院後の行き先を決めたい。 どの段階のご相談でもかまいません。ご家族だけでのお問い合わせも歓迎します。
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- 親の住まいには何種類あるのか——自宅から病院まで、選択肢を一枚の地図にする
- まず、どこに相談するか——「いきいきセンターふくおか」と要介護認定の受け方
- まだ自宅でいける——在宅サービスをどこまで積めるか、限界はどこにあるか
- 有料老人ホームとサービス付き高齢者向け住宅——福岡市にいちばん多い住まいの見分け方
- 特別養護老人ホーム——いちばん安い、いちばん待つ。待ち方には作法がある
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- 認知症のとき——グループホームという選択と、福岡市の認知症のしくみ
- 結局いくらかかるのか——月額の内訳と、公的に下げる手立てのすべて
- 施設に入っても医療は続く——訪問診療・訪問看護が入る住まい、入らない住まい
- 決めるとき、決めたあと——見学の見どころ、契約書の落とし穴、そして最期まで
REFERENCE 参考資料
- 介護老人保健施設の人員、施設及び設備並びに運営に関する基準(平成11年厚生省令第40号)第2条・第8条(https://laws.e-gov.go.jp/law/411M50000100040)
- 介護医療院の人員、施設及び設備並びに運営に関する基準(平成30年厚生労働省令第5号)第2条・第3条・第4条(https://laws.e-gov.go.jp/law/430M60000100005)
- 医療法(昭和23年法律第205号)第7条第2項第4号(療養病床)(https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000205)
- 介護保険法(平成9年法律第123号)第8条第28項・第29項(https://laws.e-gov.go.jp/law/409AC0000000123)
- 厚生労働省「令和8年度診療報酬改定 4. 包括期・慢性期入院医療」(医療区分の見直し、療養病棟入院基本料2の医療区分2・3割合)(https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001673287.pdf)
- 福岡市「介護保険のサービス」(施設サービスの利用者負担のめやす)(https://www.city.fukuoka.lg.jp/fukushi/kaigohoken/health/00/03/3-010601.html)
- 福岡市「高齢者福祉施設(特別養護老人ホーム、グループホーム等)」介護老人保健施設・介護医療院の施設一覧(令和8年8月1日現在)(https://www.city.fukuoka.lg.jp/fukushi/jigyousyasido/health/00/03/3-030301.html)

