「免疫力を上げる」という言葉:詐欺医療に騙されない

詐欺医療に騙されない第18回/全30回
「免疫力を上げる」という言葉

医学に「免疫力」という数値はない

水素水にも、酵素にも、キノコにも、温熱にも、この連載で見てきた多くのものに、同じ言葉がついていました。「免疫力を上げる」。 この言葉は、どんな商品にもつけられて、しかも反論しにくい。なぜか。 この回では、「免疫力」という言葉そのものを、一度分解します。

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この回の結論

  1. 医学に「免疫力」という一つの数値はありません。免疫は何百種類もの細胞と物質が、上げたり下げたりし合っているしくみです。
  2. 免疫が「強すぎる」状態が、アレルギーや自己免疫の病気です。免疫は「上げれば良い」ものではありません。
  3. 「免疫力を上げる」は、測れないから反論されず、どの商品にもつけられます。測れない効果は、確かめられていない効果です。

SECTION 01 なぜ、この言葉はどこにでもつくのか

「免疫力を上げる」は、この連載で見てきたほとんどの商品についていました。水素水、酵素、フコイダン、温熱、乳酸菌、にんにく注射。 理由は簡単です。「免疫力」には定義も単位もなく、測る方法がないからです。測れないものは、上がったとも上がらなかったとも証明できません。 だから、どんな商品にもつけられ、反論もされません。

免疫とは、体に入ってきた細菌やウイルス、体の中にできた異常な細胞を見分けて排除するしくみです。 白血球のなかまだけでも十数種類、それらが出す物質は何百種類もあり、互いにアクセルとブレーキをかけ合っています。 「免疫力」という一本の目盛りがあって、それが上下するわけではありません。
ここだけ覚える「免疫力」には、定義も単位も測り方もありません。だから、どの商品にもつけられます。

SECTION 02 「上げる」ことは、良いことではない

図1 免疫は「強さ」ではなく「バランス」。どちらに傾いても病気になる 働きすぎ(アクセルが強い) 花粉症・食物アレルギー・関節リウマチ・膠原病。自分の体や無害なものを攻撃する状態です ちょうどよい(アクセルとブレーキが釣り合う) 外の敵は攻撃し、自分と無害なものは攻撃しない。健康とは「強い」ではなく「釣り合っている」 働かなすぎ(ブレーキが強い) 抗がん剤治療中、移植後など。特定の細胞が減った状態で、その数は血液検査で測れます 本当に免疫を動かす医療(ワクチン・免疫抑制薬など)は、どの部品をどちらに動かすかが決まっています。

図1 免疫は「上げれば良い」ものではない。医学が免疫を動かすときは、どの細胞を、どちらに、どれだけ動かすかを決めて、その結果を数で測る。

根拠はどこまであるか

本当に免疫を動かす医療は、あります。ワクチンは、特定の病原体への抗体と記憶細胞を作ります。免疫抑制薬は、移植した臓器を攻撃する細胞を抑えます。 免疫チェックポイント阻害薬は、がん細胞が免疫にかけているブレーキを外します(第3回)。 これらはすべて、「何を」「どちらに」動かすかが決まっていて、その結果が数で測れ、人で比べた試験で効果が確かめられています

一方、「免疫力を上げる」とうたう商品で、「何の細胞が」「どれだけ増えて」「その結果、感染症や病気が減った」ことを人で比べて示したものは、私たちの知る限りありません。 2020年の新型コロナの流行時には、消費者庁が「免疫力」などをうたって予防効果を標ぼうした健康食品などに対し、 景品表示法と健康増進法にもとづく緊急の改善要請を繰り返し出しています(2020年3月、23事業者40商品から始まり、その後も継続)。

ここだけ覚える本物の免疫の医療は「何を、どちらに、どれだけ」が決まっていて、数で測れます。

SECTION 03 「免疫力を測る」検査と、聞き返し方

自由診療のクリニックには、「免疫力を測ります」という検査があります。血液中のリンパ球の数や種類、NK細胞の活性を測って、「あなたの免疫力は40点」のように示すものです。 測っている個々の数値は本物です。問題は、その点数と、病気になりやすさ・治りやすさの関係が、確かめられていないことです。

  • こう言われたら「これで免疫力が上がります」
    こう聞き返す「免疫の何の細胞が、どれだけ増えて、何の病気が減りましたか」
  • こう言われたら「あなたの免疫力は低下しています」
    こう聞き返す「その点数が低い人は、高い人より病気になったという追跡調査はありますか」
  • こう言われたら「免疫力が上がれば、がんも防げます」
    こう聞き返す「免疫が強すぎる病気(アレルギーや膠原病)の人は、がんになりませんか」
制度のしくみ

食品が「免疫力を高める」「病気を予防する」と表示することは、医薬品的な効能の表示として薬機法に触れます。だから健康食品の宣伝は、 「免疫力」という言葉を使うときも「サポート」「バランス」「健やかに」のようなぼかした形になります。消費者庁の「健康食品に関する留意事項」は、こうした表現でも、 全体として病気の予防や治療の効果があると受け取れる表示は、景品表示法・健康増進法の対象になるとしています。

気をつけること

「免疫力を上げる」ものを買うこと自体の害は、多くの場合お金だけです。ただ、二つの場面では危険になります。 一つは、関節リウマチや膠原病で免疫を抑える薬を飲んでいる方が、「免疫を上げる」ものを求めること。病気の性質と逆向きです。 もう一つは、「免疫力を上げているから」と、ワクチンや検診をやめること。免疫を本当に動かせるのはワクチンのほうです。

在宅の現場では

関節リウマチで免疫を抑える薬を飲んでいる方が、「免疫力を上げるサプリ」を何種類も飲んでいることがあります。 ご本人に悪気はなく、「免疫は上げるほど良い」と信じているだけです。私たちは、図1を描いて説明します。 「あなたの病気は、免疫が働きすぎる病気です。薬でブレーキをかけているところに、アクセルを踏むものを足しても、良いことはありません」。 それで納得される方が、ほとんどです。理屈が分かれば、人は自分で選べます。

ここだけ覚える免疫を抑える薬を飲んでいる人が、「免疫を上げる」ものを買う。これが、いちばん多い矛盾です。
在宅医の視点

測れない言葉を、私たちは使いません。

在宅の現場で、私たちは「免疫力」という言葉を使いません。使うのは、白血球の数、リンパ球の割合、栄養の数値、体重、熱があるかどうか。 どれも測れて、上がったか下がったかが分かり、それに応じてやることが変わる数字です。

「免疫力を上げる」ものを買う前に、こう考えてみてください。それを飲んだあと、何の数字を見れば「上がった」と分かるのか。 答えがないなら、その効果は、誰にも確かめられていないということです。 免疫を本当に守るのは、睡眠と、食べることと、動くことと、ワクチンです。地味ですが、どれも測れて、確かめられています。

この回のチェックリスト(第18回ぶん)

  • 「免疫力」に定義も単位も測り方もないことを、人に説明できる。
  • 免疫が「強すぎる」病気(アレルギー・自己免疫)があることを知っている。
  • 「免疫力を上げる」と言われたら、「何の細胞が、どれだけ、何の病気が減ったか」を聞いた。
  • 免疫を抑える薬を飲んでいる家族が、「免疫を上げる」ものを飲んでいないか確かめた。
  • 「免疫力を上げている」ことを理由に、ワクチンや検診をやめていない。

困ったときの相談先

電話番号と受付時間は変わることがあります。最新の内容は各ページでご確認ください。すでに契約した・お金を払ったあとでも相談できます。

  • 消費者ホットライン 188(いやや)健康食品・健康器具・美容医療などの契約や勧誘の相談。局番なしの188で、お住まいの地域の消費生活センターにつながります/消費者庁「消費者ホットライン」
  • 福岡市消費生活センター相談専用 092-781-0999(月〜金 9:00〜17:00、土 10:00〜16:00は電話のみ)。クーリングオフや返金の相談はここへ/福岡市「消費生活相談ご利用案内」
  • 福岡市 医療安全相談窓口(各区衛生課)市内の医療機関での説明や診療に疑問があるとき。早良区 092-851-6567、城南区 092-831-4208、西区 092-895-7072、中央区 092-761-7325、南区 092-559-5115、博多区 092-419-1090、東区 092-645-1081(月〜金 9:30〜11:30、13:00〜16:00)/福岡市「医療安全相談窓口のご案内」
  • がん相談支援センターがんの治療で迷ったとき。県内すべてのがん拠点病院にあり、その病院にかかっていなくても無料で相談できます/福岡県「福岡県内のがん拠点病院がん相談支援センター」
  • 「健康食品」の安全性・有効性情報サプリや健康食品の成分を、名前で調べられる公的データベース(国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所)/hfnet.nibn.go.jp
  • 医療機関ネットパトロール医療機関のホームページの「必ず治る」「副作用なし」などの表示を、厚生労働省の事業に通報できます/通報フォーム
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Q&A よくある質問

Q睡眠不足や栄養不足で風邪をひきやすくなるのは、免疫力が下がったからではないのですか。
A睡眠不足や栄養不足が感染症を増やすことは、確かめられています。ただしそれは、特定の細胞や物質の働きが落ちるという、測れる変化です。それを直す方法も「眠る」「食べる」という、確かめられた方法です。「免疫力を上げるサプリ」がその代わりになることは、確かめられていません。
Q乳酸菌の飲料に「免疫機能の維持」と書いてありました。これも同じですか。
A機能性表示食品として届け出られたものは、事業者が「特定の細胞の働きを保つ」という試験を根拠にしています(第17回)。それは「免疫力を上げる」とは別の、限定された表示です。飲んで害はありませんが、「病気を防ぐ」とまでは書いていないことを確かめてください。
Q抗がん剤で白血球が下がっています。免疫力を上げる食べ物はありますか。
A白血球が下がっているときに大事なのは、「上げる食べ物」ではなく、感染を避けること(手洗い、人混みを避ける、生ものを控える)と、体重を落とさないことです。白血球を増やす必要があれば、そのための注射(承認薬)があります。主治医に「下がっているとき、何を食べればよいか」を聞いてください。

この回に関連する記事

連載の外にある、ふくろう訪問クリニックのコラムです。この回の内容をさらに掘り下げたいときに読んでください。

連載「詐欺医療に騙されない」全30回

  1. 「標準治療」は最善の治療である——「並の治療」という誤解が、すべての入口になる
  2. 根拠には強さの順番がある——体験談・動物実験・比較試験を、一枚の表で見分ける
  3. 免疫細胞療法(ANK療法・樹状細胞療法など)——保険がきく免疫療法と、何が違うのか
  4. 高濃度ビタミンC点滴——試験管で起きたことと、患者さんで起きなかったこと
  5. 尿線虫検査(N-NOSE)——「精度」の数字を、家族が自分で読めるようになる
  6. 血液1滴の全身がん検査——マイクロRNA・CTC、「早期発見」の落とし穴
  7. 温熱療法(ハイパーサーミア)——保険がきく使い方と、「がんが消える」宣伝の境目
  8. 光免疫療法の便乗商法——承認された薬と、名前だけ似た自由診療の見分け方
  9. 幹細胞・遺伝子治療をうたうがん自由診療——「届出済み」は「効く」ではない
  10. 「がんが消える食事」——ゲルソン療法・糖質制限・重曹、効く前に栄養不良が来る
  11. 犬の駆虫薬・イベルメクチンでがんが治る?——SNSで広がる「隠された特効薬」
  12. 水素水・水素吸入——なぜ「水素は体の中で何も起こさない」と言えるのか
  13. アルカリイオン水・「奇跡の水」——血液のpHは、水では変わらない
  14. 酵素ドリンク・酵素サプリ——酵素は、胃で分解される
  15. フコイダン・アガリクス・AHCC——「学会発表」「特許取得」の本当の意味
  16. グルコサミン・コンドロイチン——飲んでも、軟骨には届かない
  17. 認知症予防サプリ——「機能性表示食品」の表示は、誰が確かめたのか
  18. 「免疫力を上げる」という言葉——医学に「免疫力」という数値はない
  19. ホメオパシー——「薄めるほど効く」を、科学はどう見ているか
  20. デトックス・キレーション・足裏デトックス——肝臓と腎臓が、すでにやっていること
  21. 幹細胞培養上清液・エクソソーム点滴——細胞を含まないから、法律の外にある
  22. 波動・量子医学(メタトロンなど)——物理学の言葉を借りた測定器
  23. 磁気・ゲルマニウム・チタン・遠赤外線——身につける健康グッズの根拠
  24. にんにく注射・プラセンタ・点滴バー——「疲れが取れる」の正体
  25. 「薬をやめれば健康になる」本——降圧薬・スタチンを自己判断でやめた結果
  26. 訪問販売・電話勧誘の健康器具——電位治療器・磁気マットレス・浄水器と、クーリングオフ
  27. 「余命宣告からの生還」体験談——なぜ成功例しか目に入らないのか
  28. ワクチン不安ビジネス——帯状疱疹・肺炎球菌・インフルエンザ、「打たないほうが安全」の売り方
  29. 怪しい医療を見抜くチェックリスト10項目——「奇跡」「医師も推薦」「副作用ゼロ」「今だけ」
  30. 家族が怪しい治療にはまったとき——否定せずに、主治医につなぐ声のかけ方

REFERENCE 参考資料

  1. 国立がん研究センター がん情報サービス「免疫療法 まず、知っておきたいこと」(https://ganjoho.jp/public/dia_tre/treatment/immunotherapy/index.html
  2. 消費者庁「新型コロナウイルスに対する予防効果を標ぼうする商品の表示に関する改善要請等及び一般消費者への注意喚起について」2020年3月10日(https://www.caa.go.jp/notice/entry/019228/
  3. 消費者庁「健康食品に関する景品表示法及び健康増進法上の留意事項について」令和4年12月5日一部改定(https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/extravagant_advertisement/assets/representation_cms213_230131_01.pdf
  4. 国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所「『健康食品』の安全性・有効性情報」被害関連情報(https://hfnet.nibn.go.jp/alert-info/detail4202/
  5. 厚生労働省「統合医療」情報発信サイト eJIM「情報の見極め方」(https://www.ejim.ncgg.go.jp/public/hint/index.html
本記事は、公開されている法令・行政資料・学術論文・公的機関の情報をもとに、特定の療法や商品について 現時点で分かっていることを整理したものです。特定の事業者や商品を名指しで評価するものではなく、 記事中の療法名・商品の種類は一般名で記しています。研究は日々更新されますので、記載の内容は 公開時点のものとしてお読みください。治療の選択やお体のことは、かかりつけ医・主治医に必ずご相談ください。 契約や返金のことは、消費生活センター(局番なし188)にご相談ください。