医学に「免疫力」という数値はない
水素水にも、酵素にも、キノコにも、温熱にも、この連載で見てきた多くのものに、同じ言葉がついていました。「免疫力を上げる」。 この言葉は、どんな商品にもつけられて、しかも反論しにくい。なぜか。 この回では、「免疫力」という言葉そのものを、一度分解します。
この回の結論
- 医学に「免疫力」という一つの数値はありません。免疫は何百種類もの細胞と物質が、上げたり下げたりし合っているしくみです。
- 免疫が「強すぎる」状態が、アレルギーや自己免疫の病気です。免疫は「上げれば良い」ものではありません。
- 「免疫力を上げる」は、測れないから反論されず、どの商品にもつけられます。測れない効果は、確かめられていない効果です。
SECTION 01 なぜ、この言葉はどこにでもつくのか
「免疫力を上げる」は、この連載で見てきたほとんどの商品についていました。水素水、酵素、フコイダン、温熱、乳酸菌、にんにく注射。 理由は簡単です。「免疫力」には定義も単位もなく、測る方法がないからです。測れないものは、上がったとも上がらなかったとも証明できません。 だから、どんな商品にもつけられ、反論もされません。
SECTION 02 「上げる」ことは、良いことではない
図1 免疫は「上げれば良い」ものではない。医学が免疫を動かすときは、どの細胞を、どちらに、どれだけ動かすかを決めて、その結果を数で測る。
本当に免疫を動かす医療は、あります。ワクチンは、特定の病原体への抗体と記憶細胞を作ります。免疫抑制薬は、移植した臓器を攻撃する細胞を抑えます。 免疫チェックポイント阻害薬は、がん細胞が免疫にかけているブレーキを外します(第3回)。 これらはすべて、「何を」「どちらに」動かすかが決まっていて、その結果が数で測れ、人で比べた試験で効果が確かめられています。
一方、「免疫力を上げる」とうたう商品で、「何の細胞が」「どれだけ増えて」「その結果、感染症や病気が減った」ことを人で比べて示したものは、私たちの知る限りありません。 2020年の新型コロナの流行時には、消費者庁が「免疫力」などをうたって予防効果を標ぼうした健康食品などに対し、 景品表示法と健康増進法にもとづく緊急の改善要請を繰り返し出しています(2020年3月、23事業者40商品から始まり、その後も継続)。
SECTION 03 「免疫力を測る」検査と、聞き返し方
自由診療のクリニックには、「免疫力を測ります」という検査があります。血液中のリンパ球の数や種類、NK細胞の活性を測って、「あなたの免疫力は40点」のように示すものです。 測っている個々の数値は本物です。問題は、その点数と、病気になりやすさ・治りやすさの関係が、確かめられていないことです。
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こう言われたら「これで免疫力が上がります」こう聞き返す「免疫の何の細胞が、どれだけ増えて、何の病気が減りましたか」
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こう言われたら「あなたの免疫力は低下しています」こう聞き返す「その点数が低い人は、高い人より病気になったという追跡調査はありますか」
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こう言われたら「免疫力が上がれば、がんも防げます」こう聞き返す「免疫が強すぎる病気(アレルギーや膠原病)の人は、がんになりませんか」
食品が「免疫力を高める」「病気を予防する」と表示することは、医薬品的な効能の表示として薬機法に触れます。だから健康食品の宣伝は、 「免疫力」という言葉を使うときも「サポート」「バランス」「健やかに」のようなぼかした形になります。消費者庁の「健康食品に関する留意事項」は、こうした表現でも、 全体として病気の予防や治療の効果があると受け取れる表示は、景品表示法・健康増進法の対象になるとしています。
「免疫力を上げる」ものを買うこと自体の害は、多くの場合お金だけです。ただ、二つの場面では危険になります。 一つは、関節リウマチや膠原病で免疫を抑える薬を飲んでいる方が、「免疫を上げる」ものを求めること。病気の性質と逆向きです。 もう一つは、「免疫力を上げているから」と、ワクチンや検診をやめること。免疫を本当に動かせるのはワクチンのほうです。
関節リウマチで免疫を抑える薬を飲んでいる方が、「免疫力を上げるサプリ」を何種類も飲んでいることがあります。 ご本人に悪気はなく、「免疫は上げるほど良い」と信じているだけです。私たちは、図1を描いて説明します。 「あなたの病気は、免疫が働きすぎる病気です。薬でブレーキをかけているところに、アクセルを踏むものを足しても、良いことはありません」。 それで納得される方が、ほとんどです。理屈が分かれば、人は自分で選べます。
測れない言葉を、私たちは使いません。
在宅の現場で、私たちは「免疫力」という言葉を使いません。使うのは、白血球の数、リンパ球の割合、栄養の数値、体重、熱があるかどうか。 どれも測れて、上がったか下がったかが分かり、それに応じてやることが変わる数字です。
「免疫力を上げる」ものを買う前に、こう考えてみてください。それを飲んだあと、何の数字を見れば「上がった」と分かるのか。 答えがないなら、その効果は、誰にも確かめられていないということです。 免疫を本当に守るのは、睡眠と、食べることと、動くことと、ワクチンです。地味ですが、どれも測れて、確かめられています。
この回のチェックリスト(第18回ぶん)
- 「免疫力」に定義も単位も測り方もないことを、人に説明できる。
- 免疫が「強すぎる」病気(アレルギー・自己免疫)があることを知っている。
- 「免疫力を上げる」と言われたら、「何の細胞が、どれだけ、何の病気が減ったか」を聞いた。
- 免疫を抑える薬を飲んでいる家族が、「免疫を上げる」ものを飲んでいないか確かめた。
- 「免疫力を上げている」ことを理由に、ワクチンや検診をやめていない。
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電話番号と受付時間は変わることがあります。最新の内容は各ページでご確認ください。すでに契約した・お金を払ったあとでも相談できます。
- 消費者ホットライン 188(いやや)健康食品・健康器具・美容医療などの契約や勧誘の相談。局番なしの188で、お住まいの地域の消費生活センターにつながります/消費者庁「消費者ホットライン」
- 福岡市消費生活センター相談専用 092-781-0999(月〜金 9:00〜17:00、土 10:00〜16:00は電話のみ)。クーリングオフや返金の相談はここへ/福岡市「消費生活相談ご利用案内」
- 福岡市 医療安全相談窓口(各区衛生課)市内の医療機関での説明や診療に疑問があるとき。早良区 092-851-6567、城南区 092-831-4208、西区 092-895-7072、中央区 092-761-7325、南区 092-559-5115、博多区 092-419-1090、東区 092-645-1081(月〜金 9:30〜11:30、13:00〜16:00)/福岡市「医療安全相談窓口のご案内」
- がん相談支援センターがんの治療で迷ったとき。県内すべてのがん拠点病院にあり、その病院にかかっていなくても無料で相談できます/福岡県「福岡県内のがん拠点病院がん相談支援センター」
- 「健康食品」の安全性・有効性情報サプリや健康食品の成分を、名前で調べられる公的データベース(国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所)/hfnet.nibn.go.jp
- 医療機関ネットパトロール医療機関のホームページの「必ず治る」「副作用なし」などの表示を、厚生労働省の事業に通報できます/通報フォーム
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REFERENCE 参考資料
- 国立がん研究センター がん情報サービス「免疫療法 まず、知っておきたいこと」(https://ganjoho.jp/public/dia_tre/treatment/immunotherapy/index.html)
- 消費者庁「新型コロナウイルスに対する予防効果を標ぼうする商品の表示に関する改善要請等及び一般消費者への注意喚起について」2020年3月10日(https://www.caa.go.jp/notice/entry/019228/)
- 消費者庁「健康食品に関する景品表示法及び健康増進法上の留意事項について」令和4年12月5日一部改定(https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/extravagant_advertisement/assets/representation_cms213_230131_01.pdf)
- 国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所「『健康食品』の安全性・有効性情報」被害関連情報(https://hfnet.nibn.go.jp/alert-info/detail4202/)
- 厚生労働省「統合医療」情報発信サイト eJIM「情報の見極め方」(https://www.ejim.ncgg.go.jp/public/hint/index.html)

