「薄めるほど効く」を、科学はどう見ているか
「副作用がまったくない、自然な治療」。ホメオパシーは、そう紹介されます。副作用がないのは本当です。 ただ、その理由を知ると、効果もないことが同時に分かります。 この回では、日本学術会議が2010年に出した異例の会長談話を軸に、この治療法が何でできているかを見ます。
この回の結論
- レメディー(ホメオパシーの薬)は、元の物質を10の60乗倍などに薄めた水を、砂糖玉に含ませたものです。元の物質は、1分子も残っていません。
- 効果はプラセボ(偽薬)と同じだと、大規模な解析と英国議会の検証で結論されています。日本学術会議は2010年、「治療効果は科学的に明確に否定されている」と会長談話を出しました。
- 害は「効かないこと」ではなく、本当の治療を受ける機会を失うことです。日本では、ビタミンKの代わりにレメディーを与えられた乳児が亡くなりました。
SECTION 01 ホメオパシーとは、何か
ホメオパシーは、1790年代にドイツの医師ハーネマンが始めました。「ある症状を起こす物質を、ごく薄めて与えると、その症状が治る」という考え方です。 植物・鉱物・動物の組織などを水で100倍に薄めて振る作業を、十数回から30回くり返し、その水を砂糖玉に含ませたものを「レメディー」と呼びます。 「薄めるほど力が強くなる」とされ、「副作用がない」「自然な治療」として、日本でも自然派の育児や動物の治療に広がりました。
SECTION 02 どれだけ薄いのか
図1 30回の希釈で10の60乗倍。元の物質は残らず、残っているのは水と砂糖だけ。副作用がないのは、そのため。
SECTION 03 人で確かめた結果
ホメオパシーには、人でくじ引きで比べた試験が、実はたくさんあります。2005年、ホメオパシーの試験110本と、通常の医療の試験110本を同じ方法で比べた解析が発表されました。 質の高い大きな試験に絞ると、ホメオパシーの効果はプラセボと区別がつかず、通常の医療の効果は残りました(Shang ら、Lancet 2005)。
英国下院の科学技術委員会は2010年、証拠を徹底的に検証したうえで「ホメオパシーはプラセボ以上の効果がない」と報告し、国の医療制度での提供をやめるよう勧告しました。 オーストラリアの国立保健医療研究評議会も2015年、「ホメオパシーが効くと信頼できる証拠のある病気は一つもない」と結論しています。 日本学術会議の会長談話は、こうした検証を踏まえたものです。
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こう言われたら「副作用がまったくない、自然な治療です」こう聞き返す「副作用がないのは、何も入っていないからではありませんか」
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こう言われたら「赤ちゃんや動物にも効くから、思い込みではありません」こう聞き返す「効いたと判定しているのは、赤ちゃんや動物ですか、大人ですか」
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こう言われたら「ヨーロッパでは保険で使われています」こう聞き返す「英国議会が2010年に、国の医療での提供をやめるよう勧告したのはなぜですか」
SECTION 04 害は、「本当の治療を逃すこと」
レメディーそのものは水と砂糖なので、飲んで害はありません。害は、別のところで起きます。 日本学術会議の談話は、こう書いています。「ホメオパシーに頼ることによって、確実で有効な治療を受ける機会を逸する可能性があることが大きな問題であり、時には命にかかわる事態も起こりかねません」。 その脚注には、ビタミンKの代わりにレメディーを与えられた生後2か月の女児が2009年に亡くなり、助産師が提訴されたことが記されています。 ビタミンKは、新生児の脳出血を防ぐために、日本のすべての赤ちゃんに与えられている薬です。
この事例のあと、日本医学会と日本小児科学会も、会員に対してホメオパシーを治療に用いないよう求める文書を出しました。 日本では、レメディーは医薬品として承認されておらず、健康食品や雑貨として流通しています。「効く」と表示すれば薬機法に触れるので、 販売は「体験談」や「相談」の形をとります。医療機関がホメオパシーを行っていれば、それは自由診療です。
高齢の親御さんの不眠や痛みに、お子さんが取り寄せたレメディーを使っていることがあります。それ自体は、水と砂糖なので止めません。 私たちが確かめるのは一つだけです。「レメディーにしたから、と、やめた薬はありませんか」。血圧の薬、抗凝固薬、抗てんかん薬。 それをレメディーに置き換えていたら、そこだけは戻してもらいます。使うことは自由、置き換えることは危険。この線を引きます。
「話を聞いてもらえた」は、本物の効果です。ただし、水の効果ではありません。
ホメオパシーの相談は、1時間かけて生活や気持ちを聞くところから始まると聞きます。 5分の外来では聞いてもらえなかった話を、じっくり聞いてもらえる。それで楽になる人がいるのは、当然です。 その効果は本物です。ただし、それは砂糖玉の効果ではなく、「聞いてもらう」ことの効果です。
私たちが訪問診療で心がけているのは、その「聞く時間」を、本物の医療の側に取り戻すことです。 話を聞くことと、根拠のある治療をすることは、両立します。どちらか一方しか選べない、というのは、売る側が作った対立です。
この回のチェックリスト(第19回ぶん)
- レメディーに元の物質が1分子も残っていないことを、人に説明できる。
- 日本学術会議が2010年に「治療効果は科学的に明確に否定されている」と談話を出したことを知っている。
- 「副作用がない」の理由が「何も入っていないから」だと理解している。
- 家族がレメディーを使っているなら、「それに置き換えてやめた薬」がないか確かめた。
- 乳児のビタミンKや、定期の予防接種を、レメディーで代用していない。
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- がん相談支援センターがんの治療で迷ったとき。県内すべてのがん拠点病院にあり、その病院にかかっていなくても無料で相談できます/福岡県「福岡県内のがん拠点病院がん相談支援センター」
- 「健康食品」の安全性・有効性情報サプリや健康食品の成分を、名前で調べられる公的データベース(国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所)/hfnet.nibn.go.jp
- 医療機関ネットパトロール医療機関のホームページの「必ず治る」「副作用なし」などの表示を、厚生労働省の事業に通報できます/通報フォーム
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REFERENCE 参考資料
- 日本学術会議「『ホメオパシー』についての会長談話」平成22年8月24日(https://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-21-d8.pdf)
- 日本医学会「『ホメオパシー』への対応について」2010年(https://jams.med.or.jp/news/013.html)
- Shang A, Huwiler-Müntener K, Nartey L, et al. Are the clinical effects of homoeopathy placebo effects? Comparative study of placebo-controlled trials of homoeopathy and allopathy. Lancet. 2005;366(9487):726-732(https://doi.org/10.1016/S0140-6736(05)67177-2)
- UK House of Commons Science and Technology Committee. Evidence Check 2: Homeopathy. 2010(https://publications.parliament.uk/pa/cm200910/cmselect/cmsctech/45/45.pdf)
- National Health and Medical Research Council (Australia). NHMRC Statement on Homeopathy and NHMRC Information Paper: Evidence on the effectiveness of homeopathy for treating health conditions. 2015(https://www.nhmrc.gov.au/about-us/publications/homeopathy)

