ホメオパシー:詐欺医療に騙されない

詐欺医療に騙されない第19回/全30回
ホメオパシー

「薄めるほど効く」を、科学はどう見ているか

「副作用がまったくない、自然な治療」。ホメオパシーは、そう紹介されます。副作用がないのは本当です。 ただ、その理由を知ると、効果もないことが同時に分かります。 この回では、日本学術会議が2010年に出した異例の会長談話を軸に、この治療法が何でできているかを見ます。

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この回の結論

  1. レメディー(ホメオパシーの薬)は、元の物質を10の60乗倍などに薄めた水を、砂糖玉に含ませたものです。元の物質は、1分子も残っていません
  2. 効果はプラセボ(偽薬)と同じだと、大規模な解析と英国議会の検証で結論されています。日本学術会議は2010年、「治療効果は科学的に明確に否定されている」と会長談話を出しました。
  3. 害は「効かないこと」ではなく、本当の治療を受ける機会を失うことです。日本では、ビタミンKの代わりにレメディーを与えられた乳児が亡くなりました。

SECTION 01 ホメオパシーとは、何か

ホメオパシーは、1790年代にドイツの医師ハーネマンが始めました。「ある症状を起こす物質を、ごく薄めて与えると、その症状が治る」という考え方です。 植物・鉱物・動物の組織などを水で100倍に薄めて振る作業を、十数回から30回くり返し、その水を砂糖玉に含ませたものを「レメディー」と呼びます。 「薄めるほど力が強くなる」とされ、「副作用がない」「自然な治療」として、日本でも自然派の育児や動物の治療に広がりました。

ここだけ覚えるホメオパシーの「薬」は、薄めれば薄めるほど「強い」とされます。ここが、すべての出発点です。

SECTION 02 どれだけ薄いのか

図1 「100倍に薄める」を、くり返すと 1 1回目:100倍に薄める(1C) コップ1杯の水に、1滴の100分の1。ここまでは、ふつうの「薄めた液」です 12 12回目:10の24乗倍(12C) 分子の数の限界(約6×10の23乗)を超えます。ここから先、元の分子は残らない計算です 30 30回目:10の60乗倍(30C)よく売られている濃度 元の物質は1分子も含まれません。日本学術会議の言葉を借りれば「ただの水」です 「水が物質を記憶している」という説明を、学術会議は「科学的な根拠がなく、荒唐無稽」としています。

図1 30回の希釈で10の60乗倍。元の物質は残らず、残っているのは水と砂糖だけ。副作用がないのは、そのため。

「ただの水」ですから「副作用がない」ことはもちろんですが、治療効果もあるはずがありません。(中略)ホメオパシーの治療効果は科学的に明確に否定されています。それを「効果がある」と称して治療に使用することは厳に慎むべき行為です。 出典:日本学術会議「『ホメオパシー』についての会長談話」平成22年8月24日
ここだけ覚える副作用がないのは、何も入っていないからです。同じ理由で、効果もありません。

SECTION 03 人で確かめた結果

根拠はどこまであるか

ホメオパシーには、人でくじ引きで比べた試験が、実はたくさんあります。2005年、ホメオパシーの試験110本と、通常の医療の試験110本を同じ方法で比べた解析が発表されました。 質の高い大きな試験に絞ると、ホメオパシーの効果はプラセボと区別がつかず、通常の医療の効果は残りました(Shang ら、Lancet 2005)。

英国下院の科学技術委員会は2010年、証拠を徹底的に検証したうえで「ホメオパシーはプラセボ以上の効果がない」と報告し、国の医療制度での提供をやめるよう勧告しました。 オーストラリアの国立保健医療研究評議会も2015年、「ホメオパシーが効くと信頼できる証拠のある病気は一つもない」と結論しています。 日本学術会議の会長談話は、こうした検証を踏まえたものです。

  • こう言われたら「副作用がまったくない、自然な治療です」
    こう聞き返す「副作用がないのは、何も入っていないからではありませんか」
  • こう言われたら「赤ちゃんや動物にも効くから、思い込みではありません」
    こう聞き返す「効いたと判定しているのは、赤ちゃんや動物ですか、大人ですか」
  • こう言われたら「ヨーロッパでは保険で使われています」
    こう聞き返す「英国議会が2010年に、国の医療での提供をやめるよう勧告したのはなぜですか」
ここだけ覚える「幼児や動物にも効く」は、判定しているのが大人だという点で、プラセボの説明になっていません。

SECTION 04 害は、「本当の治療を逃すこと」

気をつけること

レメディーそのものは水と砂糖なので、飲んで害はありません。害は、別のところで起きます。 日本学術会議の談話は、こう書いています。「ホメオパシーに頼ることによって、確実で有効な治療を受ける機会を逸する可能性があることが大きな問題であり、時には命にかかわる事態も起こりかねません」。 その脚注には、ビタミンKの代わりにレメディーを与えられた生後2か月の女児が2009年に亡くなり、助産師が提訴されたことが記されています。 ビタミンKは、新生児の脳出血を防ぐために、日本のすべての赤ちゃんに与えられている薬です。

制度のしくみ

この事例のあと、日本医学会と日本小児科学会も、会員に対してホメオパシーを治療に用いないよう求める文書を出しました。 日本では、レメディーは医薬品として承認されておらず、健康食品や雑貨として流通しています。「効く」と表示すれば薬機法に触れるので、 販売は「体験談」や「相談」の形をとります。医療機関がホメオパシーを行っていれば、それは自由診療です。

在宅の現場では

高齢の親御さんの不眠や痛みに、お子さんが取り寄せたレメディーを使っていることがあります。それ自体は、水と砂糖なので止めません。 私たちが確かめるのは一つだけです。「レメディーにしたから、と、やめた薬はありませんか」。血圧の薬、抗凝固薬、抗てんかん薬。 それをレメディーに置き換えていたら、そこだけは戻してもらいます。使うことは自由、置き換えることは危険。この線を引きます。

ここだけ覚えるレメディーを「足す」のは自由です。本当の薬と「置き換える」ことだけが、危険です。
在宅医の視点

「話を聞いてもらえた」は、本物の効果です。ただし、水の効果ではありません。

ホメオパシーの相談は、1時間かけて生活や気持ちを聞くところから始まると聞きます。 5分の外来では聞いてもらえなかった話を、じっくり聞いてもらえる。それで楽になる人がいるのは、当然です。 その効果は本物です。ただし、それは砂糖玉の効果ではなく、「聞いてもらう」ことの効果です。

私たちが訪問診療で心がけているのは、その「聞く時間」を、本物の医療の側に取り戻すことです。 話を聞くことと、根拠のある治療をすることは、両立します。どちらか一方しか選べない、というのは、売る側が作った対立です。

この回のチェックリスト(第19回ぶん)

  • レメディーに元の物質が1分子も残っていないことを、人に説明できる。
  • 日本学術会議が2010年に「治療効果は科学的に明確に否定されている」と談話を出したことを知っている。
  • 「副作用がない」の理由が「何も入っていないから」だと理解している。
  • 家族がレメディーを使っているなら、「それに置き換えてやめた薬」がないか確かめた。
  • 乳児のビタミンKや、定期の予防接種を、レメディーで代用していない。

困ったときの相談先

電話番号と受付時間は変わることがあります。最新の内容は各ページでご確認ください。すでに契約した・お金を払ったあとでも相談できます。

  • 消費者ホットライン 188(いやや)健康食品・健康器具・美容医療などの契約や勧誘の相談。局番なしの188で、お住まいの地域の消費生活センターにつながります/消費者庁「消費者ホットライン」
  • 福岡市消費生活センター相談専用 092-781-0999(月〜金 9:00〜17:00、土 10:00〜16:00は電話のみ)。クーリングオフや返金の相談はここへ/福岡市「消費生活相談ご利用案内」
  • 福岡市 医療安全相談窓口(各区衛生課)市内の医療機関での説明や診療に疑問があるとき。早良区 092-851-6567、城南区 092-831-4208、西区 092-895-7072、中央区 092-761-7325、南区 092-559-5115、博多区 092-419-1090、東区 092-645-1081(月〜金 9:30〜11:30、13:00〜16:00)/福岡市「医療安全相談窓口のご案内」
  • がん相談支援センターがんの治療で迷ったとき。県内すべてのがん拠点病院にあり、その病院にかかっていなくても無料で相談できます/福岡県「福岡県内のがん拠点病院がん相談支援センター」
  • 「健康食品」の安全性・有効性情報サプリや健康食品の成分を、名前で調べられる公的データベース(国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所)/hfnet.nibn.go.jp
  • 医療機関ネットパトロール医療機関のホームページの「必ず治る」「副作用なし」などの表示を、厚生労働省の事業に通報できます/通報フォーム
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Q&A よくある質問

Q漢方薬も「自然の治療」ですが、ホメオパシーとは違うのですか。
Aまったく違います。漢方薬には生薬の成分が実際に含まれていて、量によっては副作用もあります。日本では多くの漢方薬が医薬品として承認され、保険で処方されます。ホメオパシーのレメディーには、成分が含まれていません。「自然」という言葉でひとくくりにしないでください。
Q自分で使う分には、かまいませんか。
A日本学術会議の談話も、「十分に理解した上で、自身のために使用することは個人の自由」と書いています。水と砂糖なので害はありません。ただし、本当の薬や治療をやめてレメディーに置き換えること、判断できない乳児や高齢者に本人の代わりに選ぶことは、別の問題です。
Q「ホメオパシーで治った」という人を、実際に知っています。
Aその人が良くなったことは本当でしょう。ただ、その理由がレメディーだとは限りません。体調の波、自然に治る病気、同時に受けていたほかの治療、話を聞いてもらった安心。人でくじ引きで比べる試験は、こうした理由を取り除いたときに何が残るかを見るものです。残ったのは、プラセボと同じ大きさでした(第2回)。

この回に関連する記事

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連載「詐欺医療に騙されない」全30回

  1. 「標準治療」は最善の治療である——「並の治療」という誤解が、すべての入口になる
  2. 根拠には強さの順番がある——体験談・動物実験・比較試験を、一枚の表で見分ける
  3. 免疫細胞療法(ANK療法・樹状細胞療法など)——保険がきく免疫療法と、何が違うのか
  4. 高濃度ビタミンC点滴——試験管で起きたことと、患者さんで起きなかったこと
  5. 尿線虫検査(N-NOSE)——「精度」の数字を、家族が自分で読めるようになる
  6. 血液1滴の全身がん検査——マイクロRNA・CTC、「早期発見」の落とし穴
  7. 温熱療法(ハイパーサーミア)——保険がきく使い方と、「がんが消える」宣伝の境目
  8. 光免疫療法の便乗商法——承認された薬と、名前だけ似た自由診療の見分け方
  9. 幹細胞・遺伝子治療をうたうがん自由診療——「届出済み」は「効く」ではない
  10. 「がんが消える食事」——ゲルソン療法・糖質制限・重曹、効く前に栄養不良が来る
  11. 犬の駆虫薬・イベルメクチンでがんが治る?——SNSで広がる「隠された特効薬」
  12. 水素水・水素吸入——なぜ「水素は体の中で何も起こさない」と言えるのか
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  17. 認知症予防サプリ——「機能性表示食品」の表示は、誰が確かめたのか
  18. 「免疫力を上げる」という言葉——医学に「免疫力」という数値はない
  19. ホメオパシー——「薄めるほど効く」を、科学はどう見ているか
  20. デトックス・キレーション・足裏デトックス——肝臓と腎臓が、すでにやっていること
  21. 幹細胞培養上清液・エクソソーム点滴——細胞を含まないから、法律の外にある
  22. 波動・量子医学(メタトロンなど)——物理学の言葉を借りた測定器
  23. 磁気・ゲルマニウム・チタン・遠赤外線——身につける健康グッズの根拠
  24. にんにく注射・プラセンタ・点滴バー——「疲れが取れる」の正体
  25. 「薬をやめれば健康になる」本——降圧薬・スタチンを自己判断でやめた結果
  26. 訪問販売・電話勧誘の健康器具——電位治療器・磁気マットレス・浄水器と、クーリングオフ
  27. 「余命宣告からの生還」体験談——なぜ成功例しか目に入らないのか
  28. ワクチン不安ビジネス——帯状疱疹・肺炎球菌・インフルエンザ、「打たないほうが安全」の売り方
  29. 怪しい医療を見抜くチェックリスト10項目——「奇跡」「医師も推薦」「副作用ゼロ」「今だけ」
  30. 家族が怪しい治療にはまったとき——否定せずに、主治医につなぐ声のかけ方

REFERENCE 参考資料

  1. 日本学術会議「『ホメオパシー』についての会長談話」平成22年8月24日(https://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-21-d8.pdf
  2. 日本医学会「『ホメオパシー』への対応について」2010年(https://jams.med.or.jp/news/013.html
  3. Shang A, Huwiler-Müntener K, Nartey L, et al. Are the clinical effects of homoeopathy placebo effects? Comparative study of placebo-controlled trials of homoeopathy and allopathy. Lancet. 2005;366(9487):726-732(https://doi.org/10.1016/S0140-6736(05)67177-2
  4. UK House of Commons Science and Technology Committee. Evidence Check 2: Homeopathy. 2010(https://publications.parliament.uk/pa/cm200910/cmselect/cmsctech/45/45.pdf
  5. National Health and Medical Research Council (Australia). NHMRC Statement on Homeopathy and NHMRC Information Paper: Evidence on the effectiveness of homeopathy for treating health conditions. 2015(https://www.nhmrc.gov.au/about-us/publications/homeopathy
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