幹細胞培養上清液・エクソソーム点滴:詐欺医療に騙されない

詐欺医療に騙されない第21回/全30回
幹細胞培養上清液・エクソソーム点滴

細胞を含まないから、法律の外にある

「幹細胞を培養した液」「細胞が出す小さな袋」を点滴する治療が、美容クリニックから在宅の高齢者まで広がっています。 第9回で見た幹細胞点滴には、少なくとも「届出」という法律の手続きがありました。この回のものには、それすらありません。 なぜそうなるのか、そして国と学会が2024年に何を言ったかを書きます。

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この回の結論

  1. 培養上清液もエクソソームも細胞そのものを含まないため、再生医療の法律の「届出」すら要らないまま、自由診療で広がりました。
  2. 厚生労働省は2024年7月、「有効性・安全性が示され薬事承認された医薬品は国内外にない」と全国の医療機関に通知しました。日本再生医療学会も同年12月に注意喚起を出しています。
  3. 中身は施設ごとに違い、品質を確かめる公的なしくみがありません。「若返り」「認知症」「がんのあと」への効果を、人で比べた試験もありません。

SECTION 01 何が、どう売られているか

幹細胞培養上清液とは、幹細胞(脂肪・歯の神経・へその緒などから採った細胞)を容器の中で育てたあとの、細胞を取り除いた「上澄みの液」です。 エクソソームとは、細胞が外に出す、とても小さな袋状の粒で、上清液の中にも含まれます。どちらも「細胞そのもの」ではありません。

これを点滴・注射・点鼻・肌への塗布で使い、「細胞を若返らせる」「認知症の予防」「がん治療後の回復」「脱毛」「不妊」まで、幅広い効果がうたわれます。 1回数万円から数十万円。最近は「iPS細胞由来」を掲げるものも出てきました。

ここだけ覚える売られているのは「細胞を育てたあとの液」。何がどれだけ入っているかは、施設ごとに違います。

SECTION 02 なぜ、法律の「外」にあるのか

図1 「細胞を使う医療」の法律上の位置。上清液・エクソソームはどこにいるか 1 承認された再生医療等製品 → 薬機法で効果と安全性を審査 数百人の試験を経て国が承認。上清液・エクソソームで承認されたものは、国内外にありません 2 幹細胞そのものを使う自由診療 → 再生医療等安全性確保法の届出 効果の審査はないが、安全の手順の届出と、認定委員会の目は入る(第9回) 3 上清液・エクソソーム → 細胞を含まないので、届出の対象外 医師の裁量だけで行われる自由診療。品質・中身・安全を、誰も確かめていません 第9回の「届出は効果の審査ではない」より、さらに一段外側。届出すらない、という位置です。

図1 「幹細胞」という言葉は同じでも、細胞そのものを使えば法律の届出が要り、上清液・エクソソームは届出すら要らない。この差が、広がった理由の一つ。

制度のしくみ

厚生労働省は2024年7月31日、再生医療を行う全国の医療機関に事務連絡を出しました。 幹細胞培養上清液やエクソソームを用いる医療については「現時点で、使用されるエクソソーム等で諸外国を含め有効性・安全性が示され、薬事承認を得て製造販売されている医薬品はありません」と明記し、 行う場合は医師の責任で安全性に留意し、学会のガイダンスを参照するよう求めています。国は「認めた」のではなく、「承認された薬はない」と言っているのです。

ここだけ覚える国の通知は「承認された薬は国内外にない」。これが、2024年時点の公式の位置です。

SECTION 03 根拠と、確かめられていない中身

根拠はどこまであるか

エクソソームの研究そのものは、世界中で盛んに行われている本物の研究です。ただし、人でくじ引きで分けて効果を示した試験は、私たちの知る限りありません。 日本再生医療学会は2024年4月に「細胞外小胞等の臨床応用に関するガイダンス」を出し、同年12月27日には、自由診療クリニックで急増する「iPS細胞由来エクソソーム」の治療について、 「臨床的エビデンスは十分に確立されていない」として注意喚起しました。学会の総会でも、その臨床応用に関する具体的な試験結果の報告はなかった、と述べています。

学会は患者さんに対して、治療を検討するときは「使用される治療法のエビデンスや安全性、リスク」を医師に詳しく質問するよう勧めています。 本物の研究をしている学会自身が、そう言っているのです。

気をつけること

「細胞を含まないから安全」ではありません。上清液には、培養に使った成分、細胞が出したさまざまな物質、場合によっては細菌やウイルスが含まれる可能性があります。 誰の細胞から作ったのか、感染症の検査はされたか、無菌かどうか、有効成分がどれだけ入っているか。これらを確かめる公的な基準がありません。 点滴である以上、アレルギーや急変の危険もあります。第9回で書いた2025年8月の死亡事故は幹細胞そのものの点滴でしたが、「点滴中に急変したとき、この施設で何ができるか」という問いは、ここでも同じです。

  • こう言われたら「細胞を使わないので、安全で手軽な再生医療です」
    こう聞き返す「細胞を使わないから、法律の届出も要らないのですね。中身は誰が確かめていますか」
  • こう言われたら「iPS細胞から作った、最先端のエクソソームです」
    こう聞き返す「日本再生医療学会が2024年12月に出した注意喚起を、ご存じですか」
  • こう言われたら「認知症の予防や、がんのあとの回復に効きます」
    こう聞き返す「人で、くじ引きで比べて、そうなった試験はありますか」
お金のはなし

1回数万円から数十万円で、「月1回を継続」と勧められます。年間で百万円を超える例があります。 承認された薬ではないので、健康被害が出ても公的な救済制度の対象外です。契約前に、中止したときの返金と、健康被害の補償が書面にあるかを確かめてください。

在宅の現場では

娘さんに連れられて、美容クリニックで「認知症予防の点滴」を月1回受けている80代の方がいました。中身を聞くと、上清液でした。 私たちは、まず娘さんの気持ちを受け止めます。「お母さんのために、何かしたいんですね」。そのうえで、図1を見せます。届出すら要らない治療であること、国が「承認された薬はない」と通知していること。 そして、認知症予防で根拠があること(第17回)に、同じお金と時間を回せないかを、一緒に考えます。

ここだけ覚える「手軽」の理由が「法律の外だから」なら、それは安心の理由ではなく、注意の理由です。
在宅医の視点

「規制がない」は「安全」の証拠ではなく、「誰も見ていない」の証拠です。

法律の網の目からこぼれたものは、危険だから規制されていないのではなく、新しすぎて規制が追いついていないだけです。 その隙間で売られるものは、いちばん確かめられていないものです。「手軽に受けられる」という言葉の裏を、そう読んでください。

エクソソームの研究者たちは、いつか本当に効く薬を作るために、何年もかけて試験をしています。 その名前を先に借りて売ることは、研究への応援ではなく、研究の信用を削ることです。本物を待つことも、患者さんにできる協力の一つだと、私たちは思っています。

この回のチェックリスト(第21回ぶん)

  • 上清液・エクソソームが、再生医療法の届出すら要らない位置にあることを知っている。
  • 厚生労働省が2024年7月に「承認された薬は国内外にない」と通知したことを知っている。
  • 「中身は誰が確かめていますか」「感染症の検査はされていますか」と聞いた。
  • 点滴中に急変したときの体制と、健康被害の補償を、契約書で確かめた。
  • 認知症予防やがん後の回復が目的なら、根拠のある方法(第17回・第10回)に同じお金を回すことを考えた。

困ったときの相談先

電話番号と受付時間は変わることがあります。最新の内容は各ページでご確認ください。すでに契約した・お金を払ったあとでも相談できます。

  • 消費者ホットライン 188(いやや)健康食品・健康器具・美容医療などの契約や勧誘の相談。局番なしの188で、お住まいの地域の消費生活センターにつながります/消費者庁「消費者ホットライン」
  • 福岡市消費生活センター相談専用 092-781-0999(月〜金 9:00〜17:00、土 10:00〜16:00は電話のみ)。クーリングオフや返金の相談はここへ/福岡市「消費生活相談ご利用案内」
  • 福岡市 医療安全相談窓口(各区衛生課)市内の医療機関での説明や診療に疑問があるとき。早良区 092-851-6567、城南区 092-831-4208、西区 092-895-7072、中央区 092-761-7325、南区 092-559-5115、博多区 092-419-1090、東区 092-645-1081(月〜金 9:30〜11:30、13:00〜16:00)/福岡市「医療安全相談窓口のご案内」
  • がん相談支援センターがんの治療で迷ったとき。県内すべてのがん拠点病院にあり、その病院にかかっていなくても無料で相談できます/福岡県「福岡県内のがん拠点病院がん相談支援センター」
  • 「健康食品」の安全性・有効性情報サプリや健康食品の成分を、名前で調べられる公的データベース(国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所)/hfnet.nibn.go.jp
  • 医療機関ネットパトロール医療機関のホームページの「必ず治る」「副作用なし」などの表示を、厚生労働省の事業に通報できます/通報フォーム
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Q&A よくある質問

Q第9回の幹細胞点滴と、この回の上清液は、どちらが「まし」ですか。
Aどちらも、がんや認知症への効果は確かめられていません。法律上は、幹細胞点滴には届出と委員会の目が入り、上清液にはそれがありません。「まし」を選ぶ話ではなく、どちらも「証明されていないもの」で、上清液のほうが確かめられていない度合いがさらに大きい、と理解してください。
Q化粧品にも「エクソソーム配合」と書いてあります。これも危ないのですか。
A肌に塗る化粧品は、点滴とは危険の種類が違います。塗って急変することはまずありません。ただし、「エクソソームが肌の細胞を若返らせる」ことが人で確かめられているわけではなく、化粧品として書ける効能の範囲も決まっています。高い値段の理由が「エクソソーム」なら、その分の根拠はない、と考えてください。
Q受けてしまいました。何か確かめておくことはありますか。
A受けた施設に、使った上清液の由来(誰の細胞か)と感染症の検査の記録を書面でもらっておいてください。発熱や体調の変化があれば、受けたことを主治医に伝えてください。そして、継続を勧められているなら、この回を一度読み返してから決めてください。

この回に関連する記事

連載の外にある、ふくろう訪問クリニックのコラムです。この回の内容をさらに掘り下げたいときに読んでください。

連載「詐欺医療に騙されない」全30回

  1. 「標準治療」は最善の治療である——「並の治療」という誤解が、すべての入口になる
  2. 根拠には強さの順番がある——体験談・動物実験・比較試験を、一枚の表で見分ける
  3. 免疫細胞療法(ANK療法・樹状細胞療法など)——保険がきく免疫療法と、何が違うのか
  4. 高濃度ビタミンC点滴——試験管で起きたことと、患者さんで起きなかったこと
  5. 尿線虫検査(N-NOSE)——「精度」の数字を、家族が自分で読めるようになる
  6. 血液1滴の全身がん検査——マイクロRNA・CTC、「早期発見」の落とし穴
  7. 温熱療法(ハイパーサーミア)——保険がきく使い方と、「がんが消える」宣伝の境目
  8. 光免疫療法の便乗商法——承認された薬と、名前だけ似た自由診療の見分け方
  9. 幹細胞・遺伝子治療をうたうがん自由診療——「届出済み」は「効く」ではない
  10. 「がんが消える食事」——ゲルソン療法・糖質制限・重曹、効く前に栄養不良が来る
  11. 犬の駆虫薬・イベルメクチンでがんが治る?——SNSで広がる「隠された特効薬」
  12. 水素水・水素吸入——なぜ「水素は体の中で何も起こさない」と言えるのか
  13. アルカリイオン水・「奇跡の水」——血液のpHは、水では変わらない
  14. 酵素ドリンク・酵素サプリ——酵素は、胃で分解される
  15. フコイダン・アガリクス・AHCC——「学会発表」「特許取得」の本当の意味
  16. グルコサミン・コンドロイチン——飲んでも、軟骨には届かない
  17. 認知症予防サプリ——「機能性表示食品」の表示は、誰が確かめたのか
  18. 「免疫力を上げる」という言葉——医学に「免疫力」という数値はない
  19. ホメオパシー——「薄めるほど効く」を、科学はどう見ているか
  20. デトックス・キレーション・足裏デトックス——肝臓と腎臓が、すでにやっていること
  21. 幹細胞培養上清液・エクソソーム点滴——細胞を含まないから、法律の外にある
  22. 波動・量子医学(メタトロンなど)——物理学の言葉を借りた測定器
  23. 磁気・ゲルマニウム・チタン・遠赤外線——身につける健康グッズの根拠
  24. にんにく注射・プラセンタ・点滴バー——「疲れが取れる」の正体
  25. 「薬をやめれば健康になる」本——降圧薬・スタチンを自己判断でやめた結果
  26. 訪問販売・電話勧誘の健康器具——電位治療器・磁気マットレス・浄水器と、クーリングオフ
  27. 「余命宣告からの生還」体験談——なぜ成功例しか目に入らないのか
  28. ワクチン不安ビジネス——帯状疱疹・肺炎球菌・インフルエンザ、「打たないほうが安全」の売り方
  29. 怪しい医療を見抜くチェックリスト10項目——「奇跡」「医師も推薦」「副作用ゼロ」「今だけ」
  30. 家族が怪しい治療にはまったとき——否定せずに、主治医につなぐ声のかけ方

REFERENCE 参考資料

  1. 厚生労働省医政局研究開発政策課 事務連絡「幹細胞培養上清液及びエクソソーム等を用いる医療について(周知)」令和6年7月31日(https://www.mhlw.go.jp/content/001281987.pdf
  2. 日本再生医療学会「iPS細胞由来エクソソームの臨床応用について(注意喚起)」2024年12月27日(https://www.jsrm.jp/news/news-15720/
  3. 日本再生医療学会「細胞外小胞等の臨床応用に関するガイダンス(第1版)」2024年(https://www.jsrm.jp/cms/uploads/2024/05/news14993-2.pdf
  4. 厚生労働省「再生医療について」(再生医療等安全性確保法)(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/saisei_iryou/index.html
  5. 厚生労働省「医業若しくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関する広告等に関する指針(医療広告等ガイドライン)」令和8年3月30日最終改正(https://www.mhlw.go.jp/content/001683594.pdf
本記事は、公開されている法令・行政資料・学術論文・公的機関の情報をもとに、特定の療法や商品について 現時点で分かっていることを整理したものです。特定の事業者や商品を名指しで評価するものではなく、 記事中の療法名・商品の種類は一般名で記しています。研究は日々更新されますので、記載の内容は 公開時点のものとしてお読みください。治療の選択やお体のことは、かかりつけ医・主治医に必ずご相談ください。 契約や返金のことは、消費生活センター(局番なし188)にご相談ください。