「学会発表」「特許取得」の本当の意味
がんの方のご家庭で、いちばん多く見かける健康食品がこの3つです。海藻のぬめり、キノコ、キノコの菌糸。 箱には「学会発表」「特許取得」「大学と共同研究」と書いてあります。どれも嘘ではありません。 この回では、その言葉が何を意味して何を意味しないかと、「天然だから安全」が崩れた2006年の出来事を書きます。
この回の結論
- 「学会発表」「特許取得」「大学と共同研究」は、どれも「人で効いた」の証明ではありません(第2回の物差しで1〜3段目)。
- キノコ由来の成分で、人の大規模な比較試験で生存が延びたのは、薬として承認されたものだけです。健康食品のフコイダン・アガリクス・AHCC に、生存を延ばした比較試験はありません。
- 「天然だから安全」ではありません。2006年、アガリクス製品の一つにラットで発がんを促す作用が確認され、国が販売停止と回収を要請しました。
SECTION 01 何が、どう売られているか
- フコイダンモズクや昆布のぬめりの成分。「がん細胞を自滅させる」「免疫を高める」。低分子・高分子、産地の違いが売り文句になります。
- アガリクスブラジル原産のキノコ。1990年代から2000年代に大流行し、「がんが消えた」体験談の本が多数出版されました。
- AHCCシイタケの菌糸を培養して抽出したもの。「大学病院で研究」「学会で発表」が主な売り文句です。
3つに共通するのは、価格(月に数万円)と、箱に書かれた言葉です。「学会発表」「特許取得」「〇〇大学との共同研究」「論文多数」。
SECTION 02 根拠を、同じ物差しで測る
| 試験管・動物 | 人での試験 | 生存を延ばした比較試験 | |
|---|---|---|---|
| フコイダン | 多数 | 大腸がん54人のくじ引き試験:病気の進行を抑えた割合は上がったが、生存・進行までの期間・生活の質に差なし。直腸がん87人の試験:生活の質の一部だけ改善 | なし |
| アガリクス | 多数 | 小規模な報告のみ。生存の差を示したくじ引き試験はない | なし 2006年に1製品でラットの発がん促進作用 |
| AHCC | 多数 | 24人の前後比較(抗がん剤の副作用)、44人のくじ引きでない比較など。生存の差を示したくじ引き試験はない | なし |
| (参考)PSK | 多数 | 胃がんの手術後、くじ引き試験8本・8,009人をまとめた解析で生存が改善 | あり → 薬として承認・保険で使われた |
表1 キノコ・海藻由来の成分の根拠。PSK(カワラタケ由来)は健康食品ではなく、承認された医薬品として使われた。出典はページ末の参考資料。
フコイダンには、人でくじ引きで分けた試験があります。転移のある大腸がんの54人に、抗がん剤に加えて低分子フコイダンか偽薬を飲んでもらった試験では、 「病気が進まなかった人の割合」は92.8%と69.2%で差がありましたが、生存期間、進行までの期間、腫瘍の縮小、生活の質には差がありませんでした(Tsai ら、Mar Drugs 2017)。 直腸がんの87人の試験でも、変わったのは生活の質の一部の項目だけでした(Tsai ら、Integr Cancer Ther 2023)。
一方、同じキノコ由来でも、カワラタケの成分 PSK は、胃がんの手術後にくじ引き試験8本・8,009人をまとめた解析で生存の改善が示され、 日本で医薬品として承認されて保険で使われました(米国国立がん研究所 PDQ)。本当に効いたキノコ成分は、健康食品ではなく薬になったのです。
SECTION 03 「天然だから安全」が崩れた日
2006年2月13日、厚生労働省は、市販のアガリクス製品3つの毒性試験の途中経過を公表しました。ラットの試験で、1製品に発がんを促す作用(発がんプロモーション作用)が認められたのです。 国はその製品の販売停止と回収を販売会社に要請し、食品安全委員会に安全性の評価を依頼し、消費者に摂取を控えるよう注意喚起しました。 発表には、アガリクスで肝障害が疑われる事例が複数、学術誌に報告されていたことも書かれています。
「ラットで促進作用があった」ことは「人でがんになる」と同じではありません。国もそう書いています。 ただ、「天然のキノコだから安全」という前提は、この日に崩れました。天然の成分にも、量と使い方によっては害があります。
健康食品は、薬と違って、売る前に効果や安全性を国が審査するしくみがありません。だから「がんに効く」と書けば法律違反になり、宣伝は「免疫」「元気」「学会発表」のような言葉になります。 箱に「特許取得」とあれば、それは製法や抽出法の新しさが認められたという意味で、効果の審査ではありません(第2回)。 「〇〇大学と共同研究」は、多くの場合、販売会社が研究費を出しています。それ自体は悪いことではありませんが、結果の読み方は変わります。
-
こう言われたら「学会で発表された成分です」こう聞き返す「人で、くじ引きで比べた試験ですか。何人ですか。生存は延びましたか」
-
こう言われたら「〇〇大学と共同研究しています」こう聞き返す「その研究のお金は、誰が出していますか」
-
こう言われたら「天然のキノコだから、副作用はありません」こう聞き返す「2006年のアガリクスの販売停止のことは、ご存じですか」
この3つは、月に2〜5万円の価格帯が多く、「治療中はずっと」と勧められます。1年で数十万円です。 抗がん剤の治療中に飲むなら、肝臓に負担がかかる可能性と、薬との相互作用の可能性を、主治医か薬剤師に必ず伝えてください。 「飲んでいることを言うと止められる」と隠す方がいますが、隠されたまま肝臓の数値が上がると、抗がん剤のせいだと誤って判断され、治療が中断されることがあります。
仏壇の横に、フコイダンの箱が積み上がっている家があります。亡くなったご主人のために、奥さんが毎月取り寄せていたものです。 「これを飲ませていれば、もっと長生きできたでしょうか」と聞かれます。私たちは、「いいえ、飲んでも飲まなくても、同じでした」と、はっきり答えます。 それは残酷な答えではなく、奥さんを責めから解放する答えです。人で比べた試験で差がなかった、というのは、そういうときのためにある事実です。
「何かをしてあげたい」は、健康食品でなくても叶えられます。
がんの家族に高い健康食品を買う人の気持ちは、「効く」と信じているというより、「何もしないでいられない」に近いと感じます。 その気持ちは、私たちも同じです。だから、否定するのではなく、行き先を変えてほしいのです。
好きなものを一緒に食べる。痛みを我慢していないか聞く。散歩に付き合う。会いたい人に会わせる。 これらは、人で比べた試験で「生活の質を上げる」ことが示されている、根拠のある「何か」です。月数万円の箱より、確かに効きます。
この回のチェックリスト(第15回ぶん)
- 「学会発表」「特許取得」「大学と共同研究」が、効果の証明ではないと知っている。
- 「人で、くじ引きで比べて、生存が延びた試験はあるか」を聞いた。
- 2006年のアガリクスの販売停止の件を知っていて、「天然だから安全」を信じていない。
- 飲んでいる健康食品を、主治医か薬剤師にすべて伝えた。
- 月にいくら使っているかを計算し、その一部を「一緒に過ごすこと」に回すことを考えた。
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電話番号と受付時間は変わることがあります。最新の内容は各ページでご確認ください。すでに契約した・お金を払ったあとでも相談できます。
- 消費者ホットライン 188(いやや)健康食品・健康器具・美容医療などの契約や勧誘の相談。局番なしの188で、お住まいの地域の消費生活センターにつながります/消費者庁「消費者ホットライン」
- 福岡市消費生活センター相談専用 092-781-0999(月〜金 9:00〜17:00、土 10:00〜16:00は電話のみ)。クーリングオフや返金の相談はここへ/福岡市「消費生活相談ご利用案内」
- 福岡市 医療安全相談窓口(各区衛生課)市内の医療機関での説明や診療に疑問があるとき。早良区 092-851-6567、城南区 092-831-4208、西区 092-895-7072、中央区 092-761-7325、南区 092-559-5115、博多区 092-419-1090、東区 092-645-1081(月〜金 9:30〜11:30、13:00〜16:00)/福岡市「医療安全相談窓口のご案内」
- がん相談支援センターがんの治療で迷ったとき。県内すべてのがん拠点病院にあり、その病院にかかっていなくても無料で相談できます/福岡県「福岡県内のがん拠点病院がん相談支援センター」
- 「健康食品」の安全性・有効性情報サプリや健康食品の成分を、名前で調べられる公的データベース(国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所)/hfnet.nibn.go.jp
- 医療機関ネットパトロール医療機関のホームページの「必ず治る」「副作用なし」などの表示を、厚生労働省の事業に通報できます/通報フォーム
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REFERENCE 参考資料
- 厚生労働省「アガリクス(カワリハラタケ)を含む製品の安全性に関する食品安全委員会への食品健康影響評価の依頼について」平成18年2月13日(https://www.mhlw.go.jp/houdou/2006/02/h0213-3a.html)
- National Cancer Institute. Medicinal Mushrooms (PDQ®)–Patient Version. Updated July 11, 2024(https://www.cancer.gov/about-cancer/treatment/cam/patient/mushrooms-pdq)
- Tsai HL, Tai CJ, Huang CW, Chang FR, Wang JY. Efficacy of Low-Molecular-Weight Fucoidan as a Supplemental Therapy in Metastatic Colorectal Cancer Patients: A Double-Blind Randomized Controlled Trial. Mar Drugs. 2017;15(4):122(https://doi.org/10.3390/md15040122)
- Tsai HL, Yeh YS, Chen PJ, et al. The Auxiliary Effects of Low-Molecular-Weight Fucoidan in Locally Advanced Rectal Cancer Patients Receiving Neoadjuvant Concurrent Chemoradiotherapy Before Surgery: A Double-Blind, Randomized, Placebo-Controlled Study. Integr Cancer Ther. 2023;22:15347354231187153(https://doi.org/10.1177/15347354231187153)
- Ito T, Urushima H, Sakaue M, et al. Reduction of adverse effects by a mushroom product, active hexose correlated compound (AHCC) in patients with advanced cancer during chemotherapy. Nutr Cancer. 2014;66(3):377-382(https://doi.org/10.1080/01635581.2014.884232)
- 国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所「『健康食品』の安全性・有効性情報」素材情報データベース「フコイダン」「アガリクス」(https://hfnet.nibn.go.jp/material-infodb/list/)

