物理学の言葉を借りた測定器
ヘッドホンをつけて座ると、画面に体の絵が映り、臓器ごとに「エネルギーの乱れ」が色で表示される。 「量子」「波動」「周波数」。物理学の本物の言葉が並ぶので、反論しにくい。 この回では、その言葉が物理学で何を指し、その機器が実際に何を測っているのかを、分けて考えます。
この回の結論
- 「波動」「量子」で体を測ると称する機器は、医療機器として承認されていません。病気の診断も治療も、法律上できないものです。
- 物理学の「量子」「波動」は実在する概念です。ただ、その機器がそれを測っているという証明は、どこにもありません。
- 結果が「当たっている」と感じるのは、誰にでも当てはまる言い方と、問診で伝えた情報が結果に反映されるからです。
SECTION 01 何が、どう売られているか
センサーを手に持つか、ヘッドホンをつけて、十数分から数十分。画面に体の断面図が現れ、臓器ごとに「周波数の乱れ」「エネルギーの状態」が色や数字で表示されます。 「未病を見つける」「合う食べ物と合わない食べ物が分かる」「がんの波動が出ている」。測定は数千円から数万円で、そのあと「調整」のセッションや、「波動水」「波動転写したサプリ」の販売が続きます。 サロン、整体、そして一部の自由診療のクリニックで行われています。
SECTION 02 物理学の言葉と、その機器の中身
図1 「量子」という言葉があるから科学的、ではない。「何を測っているか」を言えるかどうかで、本物と借り物は分かれる。
SECTION 03 法律の上では、どうなっているか
薬機法は、「人の疾病の診断、治療若しくは予防に使用されること」を目的とする機械器具を「医療機器」と定め、承認や認証を受けたものだけが、その目的で使えると決めています。 承認を受けていない機器について、病気が分かる・治るとうたうことは、承認前の医療機器の広告として禁止されています。 だから、これらの機器の説明は「病気の診断ではありません」「エネルギーの状態を見るものです」という但し書きつきになります。その但し書きが、法律上の正体です。
検査に根拠があるかどうかは、第5回で書いた「感度と特異度」で確かめます。つまり、その機器の判定と、医師の診断や血液検査・画像検査を、同じ人で突き合わせて、どれだけ一致するかを調べる。 「波動測定器」について、そうした試験が査読のある医学誌に載ったものを、私たちは見つけられませんでした。 一致率の数字がない検査は、当たっているかどうかを誰も知らない検査です。
SECTION 04 なぜ、「当たっている」と感じるのか
- 誰にでも当てはまる言い方(バーナム効果)「胃腸が疲れ気味」「肝臓に負担」「自律神経の乱れ」。中高年で、これに当てはまらない人はほとんどいません。占いと同じしくみです。
- 問診で伝えた情報が、結果に戻ってくる測定の前に、悩みや持病を書きます。膝が痛いと書いた人の画面で膝が赤くなれば、「当たった」と感じます。
- 当たったものだけを覚える数十の臓器・項目のうち、当たったと感じる数か所を覚え、外れた大半を忘れます。項目が多いほど、どれかは当たります。
-
こう言われたら「量子の技術で、臓器の周波数の乱れを測ります」こう聞き返す「その機器は、何という物理量を、どの単位で測っていますか」
-
こう言われたら「肝臓に、がんの波動が出ています」こう聞き返す「この機器の判定と、病院の検査が一致した割合はいくつですか」
-
こう言われたら「医療機器ではありませんが、未病が分かります」こう聞き返す「医療機器でないものが病気を見つけられるなら、なぜ承認を取らないのですか」
害は二つの方向で起きます。一つは、「がんの波動が出ている」と言われて不安になり、高額な「調整」やサプリを買い続けること。 もう一つは逆に、「問題なし」と言われて、本当の検診や受診をやめてしまうこと。 また、「合わない食べ物」を何十品目も告げられ、食べられるものが減って痩せていく高齢の方を見たことがあります。第10回で書いたとおり、痩せることは体力の損失です。
「波動の測定で、腎臓が弱っていると言われた」と、色つきの図を見せられることがあります。私たちは、その図を否定しません。代わりに、先月の血液検査の腎臓の数値を一緒に見ます。 正常なら、「腎臓は、こちらの数字で見ていきましょう」。それで十分です。 本物の検査の数字を、本人が自分で読めるようになること。それが、色つきの図に対する、いちばん静かな答えです。
難しい言葉ほど、「それは何を測っているのですか」と聞いてください。
「量子」と言われると、分からないのは自分のほうだと感じて、聞き返せなくなります。売る側は、その沈黙を使います。 でも、本物の科学は、聞かれれば答えられます。MRIが何を測っているかは、放射線技師さんが説明してくれます。答えられないのは、測っていないからです。
在宅で私たちが使う「測定器」は、血圧計、体温計、パルスオキシメーター、体重計、そして採血です。 どれも地味ですが、何を測っているかを言えて、その数字が動いたら、やることが変わります。測定とは、そういうものです。
この回のチェックリスト(第22回ぶん)
- 「波動」「量子」の測定器が医療機器として承認されていないことを知っている。
- 「何を、どの単位で測っていますか」と聞いた。
- 「病院の検査と一致した割合」を聞いた。
- 測定の結果を理由に、検診や受診をやめていない。食べる品目を減らしていない。
- 気になった臓器があれば、血液検査や画像検査の本物の数字を、主治医と一緒に見た。
困ったときの相談先
電話番号と受付時間は変わることがあります。最新の内容は各ページでご確認ください。すでに契約した・お金を払ったあとでも相談できます。
- 消費者ホットライン 188(いやや)健康食品・健康器具・美容医療などの契約や勧誘の相談。局番なしの188で、お住まいの地域の消費生活センターにつながります/消費者庁「消費者ホットライン」
- 福岡市消費生活センター相談専用 092-781-0999(月〜金 9:00〜17:00、土 10:00〜16:00は電話のみ)。クーリングオフや返金の相談はここへ/福岡市「消費生活相談ご利用案内」
- 福岡市 医療安全相談窓口(各区衛生課)市内の医療機関での説明や診療に疑問があるとき。早良区 092-851-6567、城南区 092-831-4208、西区 092-895-7072、中央区 092-761-7325、南区 092-559-5115、博多区 092-419-1090、東区 092-645-1081(月〜金 9:30〜11:30、13:00〜16:00)/福岡市「医療安全相談窓口のご案内」
- がん相談支援センターがんの治療で迷ったとき。県内すべてのがん拠点病院にあり、その病院にかかっていなくても無料で相談できます/福岡県「福岡県内のがん拠点病院がん相談支援センター」
- 「健康食品」の安全性・有効性情報サプリや健康食品の成分を、名前で調べられる公的データベース(国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所)/hfnet.nibn.go.jp
- 医療機関ネットパトロール医療機関のホームページの「必ず治る」「副作用なし」などの表示を、厚生労働省の事業に通報できます/通報フォーム
「これ、受けても大丈夫ですか」と聞ける主治医を、持ってください。
ふくろう訪問クリニックは、福岡市早良区の在宅医療のクリニックです。 ご自宅はもちろん、有料老人ホーム・サービス付き高齢者向け住宅・グループホームへも医師が伺います。 勧められた治療やサプリのことを、否定されずに相談したい。病院で「もう治療はない」と言われて、次をどうするか迷っている。 どの段階のご相談でもかまいません。ご家族だけでのお問い合わせも歓迎します。
お電話:092-407-7337
メール:clinic@fukurou.fukuoka.jp
クリニックのご案内
お電話:092-834-8581(平日 9:00〜18:00)
メール:nurse@fukurou.fukuoka.jp
ステーションのご案内
訪問看護は、ふくろう訪問クリニック以外がかかりつけの方でもご利用いただけます。 主治医を変える必要はありません。
在宅医療の現場で、一緒に働く方を募集しています。
お電話:092-407-7337
メール:clinic@fukurou.fukuoka.jp
採用情報のページ
お電話:092-834-8581(平日 9:00〜18:00)
メール:nurse@fukurou.fukuoka.jp
求人情報のページ
入職祝い金は、クリニック・ステーションのどちらも20万円です。 人材紹介会社を通さず直接ご応募いただいた方が対象になります。 見学だけでも歓迎します。訪問の経験がない方、ブランクのある方もご相談ください。
Q&A よくある質問
この回に関連する記事
連載の外にある、ふくろう訪問クリニックのコラムです。この回の内容をさらに掘り下げたいときに読んでください。
- 臨床試験で確かめること「検査が当たっているか」を確かめる試験の設計。感度・特異度の考え方の土台です。
- がんと診断されたら最初に読む記事「がんの波動」と言われて不安になったとき、本物の検査と数字の読み方に戻るための記事です。
連載「詐欺医療に騙されない」全30回
- 「標準治療」は最善の治療である——「並の治療」という誤解が、すべての入口になる
- 根拠には強さの順番がある——体験談・動物実験・比較試験を、一枚の表で見分ける
- 免疫細胞療法(ANK療法・樹状細胞療法など)——保険がきく免疫療法と、何が違うのか
- 高濃度ビタミンC点滴——試験管で起きたことと、患者さんで起きなかったこと
- 尿線虫検査(N-NOSE)——「精度」の数字を、家族が自分で読めるようになる
- 血液1滴の全身がん検査——マイクロRNA・CTC、「早期発見」の落とし穴
- 温熱療法(ハイパーサーミア)——保険がきく使い方と、「がんが消える」宣伝の境目
- 光免疫療法の便乗商法——承認された薬と、名前だけ似た自由診療の見分け方
- 幹細胞・遺伝子治療をうたうがん自由診療——「届出済み」は「効く」ではない
- 「がんが消える食事」——ゲルソン療法・糖質制限・重曹、効く前に栄養不良が来る
- 犬の駆虫薬・イベルメクチンでがんが治る?——SNSで広がる「隠された特効薬」
- 水素水・水素吸入——なぜ「水素は体の中で何も起こさない」と言えるのか
- アルカリイオン水・「奇跡の水」——血液のpHは、水では変わらない
- 酵素ドリンク・酵素サプリ——酵素は、胃で分解される
- フコイダン・アガリクス・AHCC——「学会発表」「特許取得」の本当の意味
- グルコサミン・コンドロイチン——飲んでも、軟骨には届かない
- 認知症予防サプリ——「機能性表示食品」の表示は、誰が確かめたのか
- 「免疫力を上げる」という言葉——医学に「免疫力」という数値はない
- ホメオパシー——「薄めるほど効く」を、科学はどう見ているか
- デトックス・キレーション・足裏デトックス——肝臓と腎臓が、すでにやっていること
- 幹細胞培養上清液・エクソソーム点滴——細胞を含まないから、法律の外にある
- 波動・量子医学(メタトロンなど)——物理学の言葉を借りた測定器
- 磁気・ゲルマニウム・チタン・遠赤外線——身につける健康グッズの根拠
- にんにく注射・プラセンタ・点滴バー——「疲れが取れる」の正体
- 「薬をやめれば健康になる」本——降圧薬・スタチンを自己判断でやめた結果
- 訪問販売・電話勧誘の健康器具——電位治療器・磁気マットレス・浄水器と、クーリングオフ
- 「余命宣告からの生還」体験談——なぜ成功例しか目に入らないのか
- ワクチン不安ビジネス——帯状疱疹・肺炎球菌・インフルエンザ、「打たないほうが安全」の売り方
- 怪しい医療を見抜くチェックリスト10項目——「奇跡」「医師も推薦」「副作用ゼロ」「今だけ」
- 家族が怪しい治療にはまったとき——否定せずに、主治医につなぐ声のかけ方
REFERENCE 参考資料
- 医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)第2条第4項(医療機器の定義)、第68条(承認前の医薬品、医療機器等の広告の禁止)(https://laws.e-gov.go.jp/law/335AC0000000145)
- 厚生労働省「医業若しくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関する広告等に関する指針(医療広告等ガイドライン)」令和8年3月30日最終改正(https://www.mhlw.go.jp/content/001683594.pdf)
- 消費者庁「健康食品に関する景品表示法及び健康増進法上の留意事項について」令和4年12月5日一部改定(https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/extravagant_advertisement/assets/representation_cms213_230131_01.pdf)
- 厚生労働省「統合医療」情報発信サイト eJIM「情報の見極め方」(https://www.ejim.ncgg.go.jp/public/hint/index.html)
- 国立がん研究センター がん情報サービス「がん検診について」(https://ganjoho.jp/public/pre_scr/screening/about_scr01.html)

