「疲れが取れる」の正体
この回で扱うのは、承認された本物の薬です。ただし、承認された目的とは別の目的で、自由診療として売られています。 「疲れが取れる」「若返る」「美白」。注射した直後に体が軽くなるのは、本当です。 その「本当」の理由を知ると、お金を払う相手が変わります。
この回の結論
- にんにく注射の中身はビタミンB1です。にんにくは入っていません。B1が足りている人の疲れに効くという証拠はありません。
- プラセンタ注射は、更年期障害と慢性肝疾患に承認された薬です。美容・疲労・若返りは承認の外。使うと2026年秋まで献血ができなくなります(それ以降は投与後3か月の延期)。
- 「点滴バー」の美白・二日酔い・疲労の点滴は、承認された薬を承認の外の目的で使うものです。効果は確かめられておらず、医療広告のルールが適用されます。
SECTION 01 何が、どう売られているか
| 中身 | 承認されている目的 | 宣伝されている目的 | |
|---|---|---|---|
| にんにく注射 | ビタミンB1(チアミン)などのビタミン剤。にんにくの匂いに似た成分の匂いがするだけ | ビタミンB1欠乏症(脚気、ウェルニッケ脳症など) | 疲労回復、二日酔い、風邪予防、スタミナ |
| プラセンタ注射 | ヒトの胎盤から作った注射薬 | 更年期障害・乳汁分泌不全(1製品)、慢性肝疾患の肝機能改善(1製品) | 美肌、若返り、疲労、アンチエイジング、免疫 |
| 点滴バー・美容点滴 | ビタミンC、グルタチオン、アミノ酸、ビオチンなどの承認薬の組み合わせ | 各成分の欠乏症、薬物中毒、慢性肝疾患など | 美白、二日酔い、疲労、免疫、ダイエット |
表1 中身は承認された薬。承認された目的と、宣伝されている目的が違う。
SECTION 02 「疲れが取れた」の正体
図1 「注射のあと楽になった」は本当。ただし、その理由の大半はビタミンではなく、水分と休憩とプラセボ。
ビタミンB1が足りている人に注射をして、疲労が偽薬より改善したという比較試験は、私たちの知る限りありません。ビタミンは「足りない分を補う」栄養素で、足りている人に足しても、余った分は尿に出ます。 プラセンタ注射は、承認された2つの目的以外(美容・疲労・若返り)について、人でくじ引きで比べた質の高い試験はありません。 グルタチオンの「美白」も同じで、承認は薬物中毒や肝機能に対するもので、美白目的での効果は確かめられていません。
SECTION 03 プラセンタと献血。知らされていない代償
日本赤十字社は2006年10月10日から、過去にプラセンタの注射薬を使ったことがある人からの献血を、期限なしで断ってきました。 ヒトの胎盤から作る薬であるため、変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)という病気の理論上の危険を否定できず、輸血の前に検査する方法がないためです。関連する発症の報告はありません。
2026年1月14日の国の審議会で、この制限は見直され、2026年秋ごろから「投与後3か月の延期」に変わる予定です。それでも、注射を受けた直後は献血できないことに変わりはありません。 美容目的で受けた人の多くが、このことを知らされていません。
注射・点滴である以上、どれもアレルギー(まれにアナフィラキシー)、注射部位の感染、血管の痛みが起きえます。 腎臓の働きが落ちている方に大量のビタミンCを点滴すると、腎臓に負担がかかることがあります(第4回)。 そして最大の害は、「疲れ」という症状を注射で消して、原因を調べないことです。疲れの裏には、貧血、甲状腺、糖尿病、うつ、睡眠時無呼吸、がんが隠れていることがあります。
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こう言われたら「にんにく注射で、疲れが一発で取れます」こう聞き返す「私はビタミンB1が足りていますか。血液検査で測りましたか」
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こう言われたら「プラセンタは承認された安全な薬です」こう聞き返す「承認された目的は何ですか。受けると献血できなくなることは、説明されましたか」
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こう言われたら「美白点滴で、透明感のある肌に」こう聞き返す「その成分の承認された効能は何ですか。美白の比較試験はありますか」
にんにく注射は1回2,000〜5,000円、プラセンタ注射は1回1,000〜3,000円、美容点滴は1回1〜3万円が多く、「週1回」「定期コース」で勧められます。 1回の値段は安く見えますが、年間では十数万円になります。同じお金で、疲れの原因を調べる血液検査(保険で数千円)を受けるほうが、先です。
「疲れが取れないので、月に何度もにんにく注射に通っていた」という方を、訪問診療で引き継ぐことがあります。採血をすると、貧血だったり、甲状腺の働きが落ちていたり、血糖が高かったりします。 注射で一時的に楽になっていたぶん、原因が見つかるのが遅れていました。 私たちにとって「疲れ」は、消す症状ではなく、調べる入口です。注射で消える疲れは、調べる機会も一緒に消してしまいます。
「医師が打っているから安全」は、半分だけ本当です。
この回の注射は、たしかに医師が、承認された薬で行っています。清潔な手技であれば、危険は小さい。そこは本当です。 でも、「安全」と「意味がある」は別のことです。承認の外の目的で使われる薬に、その目的での効果は確かめられていません。
在宅で私たちがビタミンB1を注射する場面は、実際にあります。食べられなくなった方、お酒の多かった方、胃の手術後の方。検査で不足が分かった人に、不足を補う。それが、この薬の本来の使い方です。 足りている人に打つ注射は、医療ではなく、高い水分補給と昼寝です。
この回のチェックリスト(第24回ぶん)
- にんにく注射の中身がビタミンB1で、足りている人には効果の根拠がないと知っている。
- プラセンタ注射を受けると献血ができなくなる(2026年秋以降は3か月延期)ことを知っている。
- 「承認された目的は何か」を聞き、宣伝の目的と違うことを確かめた。
- 疲れが続くなら、注射の前に、かかりつけ医で血液検査を受けた。
- 「週1回」「定期コース」の年間の総額を計算した。
困ったときの相談先
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- 消費者ホットライン 188(いやや)健康食品・健康器具・美容医療などの契約や勧誘の相談。局番なしの188で、お住まいの地域の消費生活センターにつながります/消費者庁「消費者ホットライン」
- 福岡市消費生活センター相談専用 092-781-0999(月〜金 9:00〜17:00、土 10:00〜16:00は電話のみ)。クーリングオフや返金の相談はここへ/福岡市「消費生活相談ご利用案内」
- 福岡市 医療安全相談窓口(各区衛生課)市内の医療機関での説明や診療に疑問があるとき。早良区 092-851-6567、城南区 092-831-4208、西区 092-895-7072、中央区 092-761-7325、南区 092-559-5115、博多区 092-419-1090、東区 092-645-1081(月〜金 9:30〜11:30、13:00〜16:00)/福岡市「医療安全相談窓口のご案内」
- がん相談支援センターがんの治療で迷ったとき。県内すべてのがん拠点病院にあり、その病院にかかっていなくても無料で相談できます/福岡県「福岡県内のがん拠点病院がん相談支援センター」
- 「健康食品」の安全性・有効性情報サプリや健康食品の成分を、名前で調べられる公的データベース(国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所)/hfnet.nibn.go.jp
- 医療機関ネットパトロール医療機関のホームページの「必ず治る」「副作用なし」などの表示を、厚生労働省の事業に通報できます/通報フォーム
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Q&A よくある質問
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REFERENCE 参考資料
- 日本赤十字社 大阪府赤十字血液センター「ヒト胎盤(プラセンタ)由来製剤について」(https://www.bs.jrc.or.jp/kk/osaka/donation/m2_01_02_placenta.html)
- 厚生労働省「ヒト胎盤エキス(プラセンタ)注射剤使用者の献血制限について」平成18年8月24日(https://www.mhlw.go.jp/houdou/2006/08/h0824-3.html)
- 厚生労働省「欧州等滞在歴及びヒト胎盤エキス(プラセンタ)注射剤使用歴に係る献血制限の見直しについてのQ&A」令和8年2月(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_70274.html)
- 厚生労働省「医業若しくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関する広告等に関する指針(医療広告等ガイドライン)」令和8年3月30日最終改正(https://www.mhlw.go.jp/content/001683594.pdf)
- 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(PMDA)医療用医薬品 添付文書検索(各製剤の効能・効果)(https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuSearch/)

