帯状疱疹・肺炎球菌・インフルエンザ、「打たないほうが安全」の売り方
ワクチンを打つかどうかは、ご本人が決めることです。この回は、その判断に口を出すためのものではありません。 書きたいのは、「打たないほうが安全」という話の先に、何が売られているかです。 不安は、それ自体が商品の入口になります。その構造を知っておいてください。
この回の結論
- 「ワクチンは危ない」という話の多くは、その先に売るものがあります。本、サプリ、デトックス、「解毒」の点滴、自由診療。不安は商品の入口です。
- 帯状疱疹の組換えワクチンは、1万5千人の比較試験で発症を97%減らしました。2025年4月から65歳などで定期接種になっています。肺炎球菌・インフルエンザも定期接種です。
- 承認されたワクチンには、国の健康被害救済制度があります。「ワクチン解毒」のサプリや点滴には、効果の根拠も、救済もありません。
SECTION 01 不安が商品になるまで
図1 「不安を作る」と「代わりを売る」が同じ発信者であることが多い。動画の最後に商品の案内があれば、それが答え。
SECTION 02 高齢者向けのワクチンの、根拠
| ワクチン | 人で比べた試験 | 定期接種(公費の助成) |
|---|---|---|
| 帯状疱疹(組換え) | 50歳以上1万5,411人:発症を97.2%減らした。70歳以上1万3,900人でも同様。帯状疱疹後の神経痛は接種後3年で9割以上減 | 2025年4月から65歳(経過措置で70・75・80…歳も)。生ワクチンも選べる |
| 肺炎球菌 | 高齢者の肺炎球菌による重い感染症(菌血症・髄膜炎)を減らす | 65歳で定期接種 |
| インフルエンザ | 年ごとの流行株との一致で効果は変わるが、高齢者の入院・死亡を減らす | 65歳以上は毎年、定期接種 |
表1 高齢者向けの主なワクチン。いずれも国が「利益が不利益を上回る」と判断し、公費で助成している。費用は市区町村により異なる。
帯状疱疹の組換えワクチンは、18か国の50歳以上1万5,411人を、ワクチンと偽薬にくじ引きで分けた試験で、3.2年の追跡中に帯状疱疹になった人がワクチンの組で6人、偽薬の組で210人。 発症を97.2%減らしました(Lal ら、N Engl J Med 2015)。70歳以上1万3,900人の試験でも同様でした(Cunningham ら、N Engl J Med 2016)。 公平のために書くと、注射した場所の痛みや発熱などの反応は偽薬より多く、日常生活に支障が出るほどの反応が17%(偽薬3.2%)に見られました。重い有害事象や死亡の割合は、両方の組で同じでした。
厚生労働省は、帯状疱疹後の神経痛に対する効果を「接種後3年時点で、生ワクチンは6割程度、組換えワクチンは9割以上」と説明し、2025年度から65歳の方などを定期接種の対象にしました。
SECTION 03 救済制度がある側と、ない側
予防接種法にもとづく定期接種で健康被害が起きた場合、それが接種によるものだと国が認定すれば、予防接種健康被害救済制度により医療費や年金などが給付されます。 任意接種の場合も、医薬品副作用被害救済制度(PMDA)の対象です。 ワクチンの副反応は実際にあり、だからこそ国は、副反応疑いの報告を集めて公表し、被害の救済の枠組みを持っています。
一方、「ワクチンの毒を抜く」と称するサプリ、点滴、入浴剤には、効果の根拠がなく、健康被害が出ても救済する制度がありません。 2020年の新型コロナの流行時、消費者庁は「免疫力」などをうたって予防効果を標ぼうした商品に、繰り返し改善要請を出しています(第18回)。
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こう言われたら「ワクチンを打つと、免疫が壊れます」こう聞き返す「免疫の何の細胞が、どれだけ減ったという試験ですか」(第18回)
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こう言われたら「打ってしまった毒を、このサプリで解毒しましょう」こう聞き返す「何という物質を、どうやって体から出すのですか。それは測れますか」(第20回)
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こう言われたら「自然に感染して免疫をつけるほうが安全です」こう聞き返す「85歳の人が帯状疱疹や肺炎に自然にかかったとき、何が起きますか」
打たないという選択は、尊重されるべきものです。ただ、その選択のためにお金を払う必要はありません。 「打たない代わりに」と勧められるサプリ・点滴・講座は、打たない選択とは何の関係もない、別の商品です。 そして、ワクチンへの不安から、かかりつけ医との関係を切ってしまうことが、いちばんの損失です。不安は、主治医に話してください。
帯状疱疹のあとの神経痛で、何か月も眠れない80代の方を診ることがあります。痛み止めを重ねても、夜中に目が覚めます。 その方の娘さんが、「動画を見て怖くなって、ワクチンは受けさせなかった」と話されました。私たちは、娘さんを責めません。怖くなるように作られた動画だったからです。 代わりに、いま痛みを取ることに全力を使います。そして、次に打つ機会がある人には、この痛みの話をします。「打たなかった害」は、こうして初めて、見える形になります。
不安を「売る人」と、不安を「聞く人」を、分けてください。
ワクチンに不安を持つことは、自然なことです。体に入れるものですから。私たちは、その不安を否定しません。副反応は実際にあり、私たちも説明の義務があります。 ただ、不安を聞いたあとに商品を出す人と、不安を聞いたあとに数字を出す人は、別の人です。
私たちが出す数字は、1万5千人の試験の結果と、あなた自身の年齢と持病です。それを見て、打つか打たないかを、あなたが決める。 その決定に、私たちは商品を売りません。それが、医療と商売の、いちばん分かりやすい境目です。
この回のチェックリスト(第28回ぶん)
- 「ワクチンは危ない」という発信の最後に、商品や講座の案内がないかを見た。
- 帯状疱疹の組換えワクチンが1万5千人の試験で発症を97%減らしたこと、65歳などで定期接種になったことを知っている。
- 定期接種には国の健康被害救済制度があり、「解毒」商品には何もないことを知っている。
- 打つかどうかの不安を、動画ではなく、かかりつけ医に話した。
- 「打たない代わりに」と勧められる商品にはお金を払わないと決めた。
困ったときの相談先
電話番号と受付時間は変わることがあります。最新の内容は各ページでご確認ください。すでに契約した・お金を払ったあとでも相談できます。
- 消費者ホットライン 188(いやや)健康食品・健康器具・美容医療などの契約や勧誘の相談。局番なしの188で、お住まいの地域の消費生活センターにつながります/消費者庁「消費者ホットライン」
- 福岡市消費生活センター相談専用 092-781-0999(月〜金 9:00〜17:00、土 10:00〜16:00は電話のみ)。クーリングオフや返金の相談はここへ/福岡市「消費生活相談ご利用案内」
- 福岡市 医療安全相談窓口(各区衛生課)市内の医療機関での説明や診療に疑問があるとき。早良区 092-851-6567、城南区 092-831-4208、西区 092-895-7072、中央区 092-761-7325、南区 092-559-5115、博多区 092-419-1090、東区 092-645-1081(月〜金 9:30〜11:30、13:00〜16:00)/福岡市「医療安全相談窓口のご案内」
- がん相談支援センターがんの治療で迷ったとき。県内すべてのがん拠点病院にあり、その病院にかかっていなくても無料で相談できます/福岡県「福岡県内のがん拠点病院がん相談支援センター」
- 「健康食品」の安全性・有効性情報サプリや健康食品の成分を、名前で調べられる公的データベース(国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所)/hfnet.nibn.go.jp
- 医療機関ネットパトロール医療機関のホームページの「必ず治る」「副作用なし」などの表示を、厚生労働省の事業に通報できます/通報フォーム
「これ、受けても大丈夫ですか」と聞ける主治医を、持ってください。
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REFERENCE 参考資料
- 厚生労働省「帯状疱疹ワクチン」(定期接種の対象・2種類のワクチンの特徴)(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/yobou-sesshu/vaccine/shingles/index.html)
- 厚生労働省「65歳以上に実施している予防接種」(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/yobou-sesshu/vaccine/years-65.html)
- Lal H, Cunningham AL, Godeaux O, et al. Efficacy of an adjuvanted herpes zoster subunit vaccine in older adults. N Engl J Med. 2015;372(22):2087-2096(https://doi.org/10.1056/NEJMoa1501184)
- Cunningham AL, Lal H, Kovac M, et al. Efficacy of the Herpes Zoster Subunit Vaccine in Adults 70 Years of Age or Older. N Engl J Med. 2016;375(11):1019-1032(https://doi.org/10.1056/NEJMoa1603800)
- 厚生労働省「予防接種健康被害救済制度について」(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/vaccine_kenkouhigaikyuusai.html)
- 消費者庁「新型コロナウイルスに対する予防効果を標ぼうする商品の表示に関する改善要請等及び一般消費者への注意喚起について」2020年3月10日(https://www.caa.go.jp/notice/entry/019228/)

