アルカリイオン水・「奇跡の水」:詐欺医療に騙されない

詐欺医療に騙されない第13回/全30回
アルカリイオン水・「奇跡の水」

血液のpHは、水では変わらない

「体が酸性に傾くと病気になる」「アルカリ性の水で体質を変える」。 この話は、水だけでなく、食事法やサプリにも形を変えて現れます。 この回では、体のpHがどう守られているかを一度きちんと見て、水で変えられるものと変えられないものを分けます。

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この回の結論

  1. 血液のpHは 7.35〜7.45 の狭い幅に、肺と腎臓が常に保っています。飲む水や食べ物で、血液のpHは変わりません。変わるのは、尿のpHです。
  2. 「酸性体質」という診断は、医学にはありません。血液が本当に酸性に傾くのは、重い病気(腎不全、糖尿病の合併症など)のときで、救急の状態です。
  3. 家庭用の整水器は、「胃腸症状の改善」を目的に承認された医療機器です。それ以上の効果(がん・生活習慣病・老化)は、承認の範囲にも、研究の裏づけにもありません。

SECTION 01 体のpHは、こう守られている

pH(ピーエイチ)は、酸性かアルカリ性かを表す数字です。7が中性、小さいほど酸性、大きいほどアルカリ性です。 人の血液は 7.35〜7.45。この幅を外れると、体の酵素がうまく働かなくなります。だから体は、この数字を何重にも守っています。

図1 血液のpH(7.35〜7.45)を守る、3つのしくみ 1 血液そのもの(緩衝系) → 数秒で働く 重炭酸などの成分が、入ってきた酸やアルカリをその場で打ち消します 2 肺 → 数分で働く 呼吸の速さを変えて、二酸化炭素(酸のもと)を吐き出す量を調節します 3 腎臓 → 数時間〜数日で働く 余った酸やアルカリを尿に捨てます。だから、食べ物や水で変わるのは「尿の」pHです アルカリ性の水を飲むと、腎臓がその分を尿に捨てます。尿はアルカリ性になり、血液は変わりません。

図1 飲んだ水のアルカリは、胃酸で中和され、残りは腎臓が尿に捨てる。血液のpHが水で動くなら、人は水を飲むたびに命の危険にさらされることになる。

酸性体質という言葉は、医学の診断名にはありません。血液が本当に酸性に傾く状態(アシドーシス)は、腎不全、重い糖尿病、 ひどい下痢や呼吸の病気で起きる、救急の状態です。「なんとなくだるい」「太りやすい」は、酸性体質のせいではありません。
ここだけ覚える水や食事で変わるのは尿のpH。血液のpHは、肺と腎臓が守っていて動きません。

SECTION 02 整水器は「医療機器」。ただし、目的は一つ

「アルカリイオン整水器は厚生労働省が認めた医療機器です」。これは本当です。ただし、何のために認められたかを知っておく必要があります。

制度のしくみ

家庭用の電解水生成器(アルカリイオン整水器)は、「管理医療機器」として認証を受けています。認められている使用目的は、 飲用アルカリ性電解水の生成による「胃腸症状の改善」(胃もたれ、胃の不快感、お腹の張り、便通の改善など)です。 がん、糖尿病、高血圧、アトピー、老化の予防は、認証の範囲に入っていません。医療機器の広告で認証の範囲を超えた効果をうたうことは、薬機法で禁止されています。

根拠はどこまであるか

「体をアルカリ性にするとがんが防げる・治る」という考えを、世界中の論文から探した系統的レビューがあります。 8,278件の文献を調べて、基準を満たしたのは観察研究1本だけ。くじ引きで分けた試験は一つもなく、アルカリ性の水や食事でがんを治療した研究は見つかりませんでした。 その1本も、食事の酸性度と膀胱がんに関連はありませんでした(Fenton ら、BMJ Open 2016)。

「アルカリ食」を扱った総説も、食事で変わるのは尿のpHであり、血液のpHは体が厳密に保っている、と整理しています(Schwalfenberg、J Environ Public Health 2012)。

ここだけ覚える整水器が認められているのは「胃腸症状の改善」まで。がんや生活習慣病は、範囲外です。

SECTION 03 「奇跡の水」の見分け方

「〇〇の名水」「特殊な処理をした水」「クラスターが小さい水」「波動水」。水に特別な性質があるとうたう商品は、形を変えて現れます。 共通の見分け方は、3つあります。

  • 「体質」「pH」「酸化還元」を根拠にしていないか血液のpHは水で変わりません。「酸化還元電位がマイナス」も、体の中で意味を持つ数字ではありません。これらを根拠にしている時点で、生理学と合っていません。
  • 「医療機器」の認証の範囲を超えていないか整水器は「胃腸症状の改善」までです。「がんが消えた」「糖尿病が治った」体験談を載せている販売ページは、その時点で法律に触れています。
  • 水そのものではなく、機械や定期購入を売っていないか数十万円の生成器、月々のカートリッジ、定期配送。「水」は入口で、売られているのは契約です。
  • こう言われたら「体が酸性に傾いているから、病気になるんです」
    こう聞き返す「私の血液のpHは、いくつだと測ったのですか」
  • こう言われたら「厚生労働省が認めた医療機器です」
    こう聞き返す「認められた使用目的は、何と書いてありますか」
  • こう言われたら「この水で、がんが消えた人がいます」
    こう聞き返す「その体験談を載せることは、医療機器の広告で許されていますか」
気をつけること

アルカリ性の水そのものは、ほとんどの人には害がありません。ただ、腎臓の働きが落ちている方は、余ったアルカリやミネラルを捨てる力が弱く、主治医に相談してから飲んでください。 また、整水器の説明書にも「腎臓病の方、医師の治療を受けている方は医師に相談」と書かれています。 そして水素水と同じで、いちばんの害は「この水を飲んでいるから」と、薬や治療を軽く見ることです。

在宅の現場では

台所に立派な整水器が付いている家で、「これで胃の調子がいい」と言われることがあります。それは、認められた使い方そのものです。私たちは「よかったですね」と言います。 一方で、「この水を飲んでいるから、血圧の薬はいらないと思って」という方もいます。そのときだけ、図1の話をします。血液のpHは水で変わらないこと、血圧は別の問題であること。 水を否定する必要はありません。水に預けられた「役割」を、本来の大きさに戻すだけです。

ここだけ覚える胃腸の調子に使うなら本来の使い方。薬の代わりにした瞬間、危なくなります。
在宅医の視点

「体質を変える」という言葉に、医学は対応する数字を持っていません。

「酸性体質」「冷え体質」「デトックス」。こうした言葉は、測れないから反論もされず、それゆえに長く生き残ります。 医学が扱えるのは、測れるものだけです。血液のpHは測れます。測れば、水で変わっていないことが分かります。

在宅医療で私たちが毎日見ている「体質」は、腎臓の数値、心臓の音、むくみ、食べた量、眠れた時間です。 それらは水では変わりませんが、薬と食事と運動と、痛みを取ることで、確かに変わります。測れるものを、測れる方法で変える。それが、私たちの仕事です。

この回のチェックリスト(第13回ぶん)

  • 「血液のpHは水や食事では変わらない。変わるのは尿」と、人に説明できる。
  • 「酸性体質」が医学の診断名ではないと知っている。
  • 整水器の認められた使用目的が「胃腸症状の改善」までだと知っている。
  • 腎臓の病気がある家族が飲む前に、主治医に相談した。
  • 水を理由に、薬や治療を減らしたりやめたりしていない。

困ったときの相談先

電話番号と受付時間は変わることがあります。最新の内容は各ページでご確認ください。すでに契約した・お金を払ったあとでも相談できます。

  • 消費者ホットライン 188(いやや)健康食品・健康器具・美容医療などの契約や勧誘の相談。局番なしの188で、お住まいの地域の消費生活センターにつながります/消費者庁「消費者ホットライン」
  • 福岡市消費生活センター相談専用 092-781-0999(月〜金 9:00〜17:00、土 10:00〜16:00は電話のみ)。クーリングオフや返金の相談はここへ/福岡市「消費生活相談ご利用案内」
  • 福岡市 医療安全相談窓口(各区衛生課)市内の医療機関での説明や診療に疑問があるとき。早良区 092-851-6567、城南区 092-831-4208、西区 092-895-7072、中央区 092-761-7325、南区 092-559-5115、博多区 092-419-1090、東区 092-645-1081(月〜金 9:30〜11:30、13:00〜16:00)/福岡市「医療安全相談窓口のご案内」
  • がん相談支援センターがんの治療で迷ったとき。県内すべてのがん拠点病院にあり、その病院にかかっていなくても無料で相談できます/福岡県「福岡県内のがん拠点病院がん相談支援センター」
  • 「健康食品」の安全性・有効性情報サプリや健康食品の成分を、名前で調べられる公的データベース(国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所)/hfnet.nibn.go.jp
  • 医療機関ネットパトロール医療機関のホームページの「必ず治る」「副作用なし」などの表示を、厚生労働省の事業に通報できます/通報フォーム
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Q&A よくある質問

Q尿のpHが酸性だと言われました。体が酸性ということではないのですか。
A違います。尿が酸性なのは、腎臓が余った酸をきちんと捨てている印で、血液が守られている証拠です。尿のpHは、食事の内容や時間帯で日常的に大きく動きます。血液のpHとは別のものです。
Q野菜を多く食べる「アルカリ性食品」中心の食事は、意味がないのですか。
A野菜や果物を多く食べること自体は、根拠のある良い食事です。ただしその理由は「体をアルカリにするから」ではなく、食物繊維・カリウム・ビタミンが取れて、塩分と飽和脂肪が減るからです。理由が違っても、野菜を食べる行動は正しいので、続けてください。
Q整水器を使っています。がんの治療中でも飲んでよいですか。
A腎臓の働きに問題がなければ、飲むこと自体はかまいません。主治医に「整水器の水を飲んでいる」と一言伝えてください。吐き気や下痢があるときは、電解質の入った飲み物のほうが適していることがあります。飲む水の種類より、飲む量と回数のほうが大事です。

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連載「詐欺医療に騙されない」全30回

  1. 「標準治療」は最善の治療である——「並の治療」という誤解が、すべての入口になる
  2. 根拠には強さの順番がある——体験談・動物実験・比較試験を、一枚の表で見分ける
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  4. 高濃度ビタミンC点滴——試験管で起きたことと、患者さんで起きなかったこと
  5. 尿線虫検査(N-NOSE)——「精度」の数字を、家族が自分で読めるようになる
  6. 血液1滴の全身がん検査——マイクロRNA・CTC、「早期発見」の落とし穴
  7. 温熱療法(ハイパーサーミア)——保険がきく使い方と、「がんが消える」宣伝の境目
  8. 光免疫療法の便乗商法——承認された薬と、名前だけ似た自由診療の見分け方
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  26. 訪問販売・電話勧誘の健康器具——電位治療器・磁気マットレス・浄水器と、クーリングオフ
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  28. ワクチン不安ビジネス——帯状疱疹・肺炎球菌・インフルエンザ、「打たないほうが安全」の売り方
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  30. 家族が怪しい治療にはまったとき——否定せずに、主治医につなぐ声のかけ方

REFERENCE 参考資料

  1. Fenton TR, Huang T. Systematic review of the association between dietary acid load, alkaline water and cancer. BMJ Open. 2016;6(6):e010438(https://doi.org/10.1136/bmjopen-2015-010438
  2. Schwalfenberg GK. The alkaline diet: is there evidence that an alkaline pH diet benefits health? J Environ Public Health. 2012;2012:727630(https://doi.org/10.1155/2012/727630
  3. 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(PMDA)医療機器添付文書検索「家庭用電解水生成器」(使用目的:胃腸症状の改善)(https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/kikiSearch/
  4. 厚生労働省「医業若しくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関する広告等に関する指針(医療広告等ガイドライン)」令和8年3月30日最終改正(https://www.mhlw.go.jp/content/001683594.pdf
本記事は、公開されている法令・行政資料・学術論文・公的機関の情報をもとに、特定の療法や商品について 現時点で分かっていることを整理したものです。特定の事業者や商品を名指しで評価するものではなく、 記事中の療法名・商品の種類は一般名で記しています。研究は日々更新されますので、記載の内容は 公開時点のものとしてお読みください。治療の選択やお体のことは、かかりつけ医・主治医に必ずご相談ください。 契約や返金のことは、消費生活センター(局番なし188)にご相談ください。