「奇跡」「医師も推薦」「副作用ゼロ」「今だけ」
28回かけて、一つずつ療法を見てきました。この回は、その全部に共通していた「売り方の型」を、10項目にまとめます。 個々の療法の名前は、来年には変わっているかもしれません。でも、売り方の型は、何十年も変わっていません。 印刷して、冷蔵庫に貼ってください。
この回の結論
- 詐欺的な医療の売り方には型があります。10項目のうち3つ以上に当てはまれば、いったん止まって、主治医に見せてください。
- 療法の名前や理屈は毎年変わります。型は変わりません。理屈を覚えるより、型を覚えるほうが、長く役に立ちます。
- チェックリストは、相手を責めるためではなく、自分が「今すぐ決めない」ための道具です。時間をおけば、大半のものは自然に見分けがつきます。
SECTION 01 チェックリスト10項目
図1 10項目のうち、3つ以上に当てはまったら、契約せず、主治医に見せる。8番だけは、1つで止まる。
SECTION 02 なぜ、この10項目なのか
この連載で見てきた28の療法を、売り方の側から並べ直すと、同じ言葉が繰り返し出てきました。 「奇跡」は免疫細胞療法にも水素水にも。「医学界が隠している」はがんの民間療法にも「薬は毒」論にも。 「今だけ」は電位治療器にも高額な自由診療にも。 療法の中身はばらばらでも、売り方は同じ型でした。
厚生労働省の「統合医療」情報発信サイト(eJIM)は、健康情報を見極める10か条を公開しています。 「その根拠は?」とたずねよう、数字のトリックに注意しよう、出来事の「分母」を意識しよう、比較されていることを確かめよう、情報の出どころを確認しよう。 この回の10項目は、それを「売る側の言葉」に翻訳し直したものです。読む側が根拠を確かめるための10か条と、売る側の型を見抜く10項目は、表と裏の関係にあります。
この10項目は、私たちが28回分の記事から抽出したもので、それ自体が検証された「診断基準」ではありません。 ただ、それぞれの項目は、この連載で根拠を示した事実に対応しています。 体験談の広告禁止(医療広告ガイドライン)、標準治療をやめた場合の死亡2.5倍(Johnson ら、2018)、65歳以上の消費生活相談30万件と平均契約額71万円(国民生活センター、2025)、 「免疫力」表示への消費者庁の改善要請(2020)、機能性表示食品の届出内容と広告の乖離(第17回)。 型を見抜くためのチェックリストは、eJIM の10か条のほか、米国 FDA の「健康詐欺を見分ける6つのヒント」など、公的機関も同じ形式のものを公開しています。
SECTION 03 止まったあとに、すること
- その日は、決めない「家族に相談します」「主治医に聞いてみます」と言って、席を立つ。急がせる相手ほど、この一言に弱い。
- パンフレットを、主治医に見せる怒られることはありません。私たちは、見せてもらえるほうが、ずっと安心です。何を考えているかが分かるからです。
- 「同じことをした人は、何人中何人が良くなったか」を聞く答えられなければ、それが答えです。答えが「体験談」なら、第27回を思い出してください。
- お金の話は、消費生活センターへ契約してしまっていても、8日以内なら戻せます(第26回)。過ぎていても、手立てはあります。
- 相手を責めない勧めてきた家族や友人は、たいてい善意です。責めると、次から隠れて進みます。第30回で、声のかけ方を書きます。
-
こう言われたら「先生に相談しても、どうせ否定されますよ」こう返す「否定されるなら、その理由を聞いてみたいので、相談してから決めます」
-
こう言われたら「エビデンスはこれから出ます。今が先行者利益です」こう返す「では、出てから考えます。医療に先行者利益はないと聞いています」
-
こう言われたら「疑うより、まず試してみては」こう返す「試した人が全部で何人いて、何人に効いたかを、先に教えてください」
私たちは診察のとき、机の上のパンフレットや、棚の上のサプリの箱を、見ています。見て、聞きます。「これ、どなたかに勧められました?」。 責める口調では聞きません。聞くと、たいてい、話してくださいます。誰に、いくらで、何と言われたか。 その話の中に、この10項目のいくつかが、必ず出てきます。私たちの仕事は、そこで「それは3つ当てはまりますね」と言うことではなく、「一度、止まりましょうか」と言うことです。
見抜く力より、止まる習慣を。
28回分の記事を読んでも、来年出てくる新しい療法の名前は、この連載には載っていません。 でも、その売り方は、この10項目のどれかに当てはまるはずです。私たちが何十年も見てきた型は、そう簡単には変わりません。
見抜く力は、疲れているとき、怖いとき、孤独なときに、いちばん弱くなります。病気のときは、その全部が揃います。 だから、見抜こうとしなくていい。ただ、「今日は決めない」。それだけを、習慣にしてください。一晩たてば、私たちにも、ご家族にも、見せる時間ができます。
この回のチェックリスト(第29回ぶん)
- 10項目を印刷して、見えるところに貼った。
- 3つ以上当てはまったら「今日は決めない」と、家族と決めた。
- 8番「病院の治療はやめて」は、1つだけで止まることを覚えた。
- 止まったら、パンフレットを主治医に見せることにした。
- お金の相談先(188)を、電話機のそばに書いた。
困ったときの相談先
電話番号と受付時間は変わることがあります。最新の内容は各ページでご確認ください。すでに契約した・お金を払ったあとでも相談できます。
- 消費者ホットライン 188(いやや)健康食品・健康器具・美容医療などの契約や勧誘の相談。局番なしの188で、お住まいの地域の消費生活センターにつながります/消費者庁「消費者ホットライン」
- 福岡市消費生活センター相談専用 092-781-0999(月〜金 9:00〜17:00、土 10:00〜16:00は電話のみ)。クーリングオフや返金の相談はここへ/福岡市「消費生活相談ご利用案内」
- 福岡市 医療安全相談窓口(各区衛生課)市内の医療機関での説明や診療に疑問があるとき。早良区 092-851-6567、城南区 092-831-4208、西区 092-895-7072、中央区 092-761-7325、南区 092-559-5115、博多区 092-419-1090、東区 092-645-1081(月〜金 9:30〜11:30、13:00〜16:00)/福岡市「医療安全相談窓口のご案内」
- がん相談支援センターがんの治療で迷ったとき。県内すべてのがん拠点病院にあり、その病院にかかっていなくても無料で相談できます/福岡県「福岡県内のがん拠点病院がん相談支援センター」
- 「健康食品」の安全性・有効性情報サプリや健康食品の成分を、名前で調べられる公的データベース(国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所)/hfnet.nibn.go.jp
- 医療機関ネットパトロール医療機関のホームページの「必ず治る」「副作用なし」などの表示を、厚生労働省の事業に通報できます/通報フォーム
「これ、受けても大丈夫ですか」と聞ける主治医を、持ってください。
ふくろう訪問クリニックは、福岡市早良区の在宅医療のクリニックです。 ご自宅はもちろん、有料老人ホーム・サービス付き高齢者向け住宅・グループホームへも医師が伺います。 勧められた治療やサプリのことを、否定されずに相談したい。病院で「もう治療はない」と言われて、次をどうするか迷っている。 どの段階のご相談でもかまいません。ご家族だけでのお問い合わせも歓迎します。
お電話:092-407-7337
メール:clinic@fukurou.fukuoka.jp
クリニックのご案内
お電話:092-834-8581(平日 9:00〜18:00)
メール:nurse@fukurou.fukuoka.jp
ステーションのご案内
訪問看護は、ふくろう訪問クリニック以外がかかりつけの方でもご利用いただけます。 主治医を変える必要はありません。
在宅医療の現場で、一緒に働く方を募集しています。
お電話:092-407-7337
メール:clinic@fukurou.fukuoka.jp
採用情報のページ
お電話:092-834-8581(平日 9:00〜18:00)
メール:nurse@fukurou.fukuoka.jp
求人情報のページ
入職祝い金は、クリニック・ステーションのどちらも20万円です。 人材紹介会社を通さず直接ご応募いただいた方が対象になります。 見学だけでも歓迎します。訪問の経験がない方、ブランクのある方もご相談ください。
Q&A よくある質問
この回に関連する記事
連載の外にある、ふくろう訪問クリニックのコラムです。この回の内容をさらに掘り下げたいときに読んでください。
- 「完治専門ですから」という言葉を信じてもいい?チェックリストの項目1「奇跡」と項目4「医師も推薦」が、実際の言葉としてどう出てくるかの実例です。
- 臨床試験で確かめること「同じことをした人は何人中何人が良くなったか」を、なぜ聞くべきなのかの根拠です。
連載「詐欺医療に騙されない」全30回
- 「標準治療」は最善の治療である——「並の治療」という誤解が、すべての入口になる
- 根拠には強さの順番がある——体験談・動物実験・比較試験を、一枚の表で見分ける
- 免疫細胞療法(ANK療法・樹状細胞療法など)——保険がきく免疫療法と、何が違うのか
- 高濃度ビタミンC点滴——試験管で起きたことと、患者さんで起きなかったこと
- 尿線虫検査(N-NOSE)——「精度」の数字を、家族が自分で読めるようになる
- 血液1滴の全身がん検査——マイクロRNA・CTC、「早期発見」の落とし穴
- 温熱療法(ハイパーサーミア)——保険がきく使い方と、「がんが消える」宣伝の境目
- 光免疫療法の便乗商法——承認された薬と、名前だけ似た自由診療の見分け方
- 幹細胞・遺伝子治療をうたうがん自由診療——「届出済み」は「効く」ではない
- 「がんが消える食事」——ゲルソン療法・糖質制限・重曹、効く前に栄養不良が来る
- 犬の駆虫薬・イベルメクチンでがんが治る?——SNSで広がる「隠された特効薬」
- 水素水・水素吸入——なぜ「水素は体の中で何も起こさない」と言えるのか
- アルカリイオン水・「奇跡の水」——血液のpHは、水では変わらない
- 酵素ドリンク・酵素サプリ——酵素は、胃で分解される
- フコイダン・アガリクス・AHCC——「学会発表」「特許取得」の本当の意味
- グルコサミン・コンドロイチン——飲んでも、軟骨には届かない
- 認知症予防サプリ——「機能性表示食品」の表示は、誰が確かめたのか
- 「免疫力を上げる」という言葉——医学に「免疫力」という数値はない
- ホメオパシー——「薄めるほど効く」を、科学はどう見ているか
- デトックス・キレーション・足裏デトックス——肝臓と腎臓が、すでにやっていること
- 幹細胞培養上清液・エクソソーム点滴——細胞を含まないから、法律の外にある
- 波動・量子医学(メタトロンなど)——物理学の言葉を借りた測定器
- 磁気・ゲルマニウム・チタン・遠赤外線——身につける健康グッズの根拠
- にんにく注射・プラセンタ・点滴バー——「疲れが取れる」の正体
- 「薬をやめれば健康になる」本——降圧薬・スタチンを自己判断でやめた結果
- 訪問販売・電話勧誘の健康器具——電位治療器・磁気マットレス・浄水器と、クーリングオフ
- 「余命宣告からの生還」体験談——なぜ成功例しか目に入らないのか
- ワクチン不安ビジネス——帯状疱疹・肺炎球菌・インフルエンザ、「打たないほうが安全」の売り方
- 怪しい医療を見抜くチェックリスト10項目——「奇跡」「医師も推薦」「副作用ゼロ」「今だけ」
- 家族が怪しい治療にはまったとき——否定せずに、主治医につなぐ声のかけ方
REFERENCE 参考資料
- 厚生労働省「統合医療」情報発信サイト eJIM「情報の見極め方」(情報を見極めるための10か条)(https://www.ejim.mhlw.go.jp/public/hint/index.html)
- U.S. Food and Drug Administration. 6 Tip-offs to Rip-offs: Don’t Fall for Health Fraud Scams(https://www.fda.gov/consumers/consumer-updates/6-tip-offs-rip-offs-dont-fall-health-fraud-scams)
- 厚生労働省「医業若しくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関する広告等に関する指針(医療広告等ガイドライン)」令和8年3月30日最終改正(https://www.mhlw.go.jp/content/001683594.pdf)
- Johnson SB, Park HS, Gross CP, Yu JB. Use of Alternative Medicine for Cancer and Its Impact on Survival. J Natl Cancer Inst. 2018;110(1)(https://doi.org/10.1093/jnci/djx145)
- 国民生活センター「2024年度 65歳以上の消費生活相談の状況」2025年9月3日(https://www.kokusen.go.jp/pdf/n-20250903_1.pdf)

