否定せずに、主治医につなぐ声のかけ方
最終回は、いちばん難しい場面のために書きます。親が、配偶者が、あるいは子どもが、証明されていない治療に何十万円も払い、病院の治療を断ろうとしている。 この29回で書いてきたことを、全部その人に言いたくなる。でも、言えば言うほど、その人は遠くへ行きます。 正しさより先に、必要なことがあります。
この回の結論
- 正面から否定すると、本人は治療ではなく家族を切ります。目標は「やめさせる」ではなく、「主治医との線を切らせない」ことです。
- 怪しい治療にひかれる理由は、知識の不足ではなく、不安と孤独です。売る側は、それに時間をかけて応えています。家族にできるのは、その時間を取り戻すことです。
- 一人で抱えないでください。がん相談支援センター、地域包括支援センター、消費生活センター、そして主治医。相談は、本人でなく家族からでもできます。
SECTION 01 なぜ、正論が効かないのか
「そんなの効くわけない」「だまされてる」「いくら払ったの」。家族の口から出る最初の言葉は、たいていこの3つです。 どれも、事実としては正しいかもしれません。でも、言われた側に届くのは、内容ではなく「否定された」という感覚だけです。
本人にとって、その治療は「自分で選んだ、唯一の希望」です。それを否定されると、希望と一緒に自分を否定されたと感じます。 そのとき、隣で「あなたの選択は正しい」と言い続けてくれるのが、売る側です。 家族が否定するほど、売る側の言葉が温かく聞こえる。この構造を、まず知ってください。
日本のがん患者さんの全国調査で、補完代替医療を始めたきっかけの77.7%は「家族や友人の勧め」でした(兵頭ら、J Clin Oncol 2005)。 同じ調査では、使っている人の60.7%が医師に相談しないまま使っていました。 つまり、怪しい治療は家族から入ってきて、家族と主治医の間の沈黙の中で育ちます。
標準治療をやめて代替医療だけにした場合の死亡リスクが2.5倍だったこと(Johnson ら、2018)は第1回で書きました。 同じ研究グループの続報では、標準治療に代替医療を「足した」人は、それを理由に手術や化学療法を断る割合が高く、それが生存の差につながっていました(Johnson ら、JAMA Oncol 2018)。 問題は「足すこと」より、足したあとに「標準治療を断ること」です。だから、目標は主治医との線を切らせないこと、に絞れます。
SECTION 02 声のかけ方、5つの段階
図1 「やめて」は言わない。「見せて」と「病院は続けて」の2つだけを、繰り返し言う。
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言いたくなる言葉「そんなの効くわけないでしょ」代わりに言う「それ、どこで知ったの? ちょっと教えて」
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言いたくなる言葉「いくら払ったの、だまされてるよ」代わりに言う「なんとかしたいんだよね。私も同じ気持ちだよ」
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言いたくなる言葉「もうやめて。病院に行って」代わりに言う「これ、先生にも見せてみない? 一緒に行くから」
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言いたくなる言葉「好きにすれば。もう知らない」代わりに言う「サプリは止めない。でも、病院の治療だけは、続けてほしい」
SECTION 03 それでも止まらないとき
- 主治医に、家族から直接伝える本人が話さないなら、家族が診察に同席して、または電話で、伝えてください。医師は、知っていれば、飲み合わせや検査値の変化に目を配れます。知らないことが、いちばん困ります。
- お金は、別の窓口で守る治療の是非と、契約の是非は別です。クーリングオフや取消しは、本人が納得していなくても、家族から消費生活センターに相談できます(第26回)。
- 判断能力に不安があれば、制度を使う認知症などで契約の意味が分からない状態なら、成年後見制度や日常生活自立支援事業で、財産を守る人をつけられます。地域包括支援センターで相談が始められます。
- 家族自身が、休む説得し続ける家族は、疲れて、最後に「もう知らない」と言ってしまいます。それが、いちばん売る側の望む結果です。休むために、相談窓口を使ってください。
娘さんが、玄関先で泣きながら私たちに言ったことがあります。「母が、抗がん剤をやめると言い出しました。何を言っても聞きません」。 私たちは、お母さまの部屋に入って、抗がん剤の話はしませんでした。棚に並んだサプリの箱を見て、「これ、どなたに勧められました?」と聞きました。 1時間、お母さまの話を聞きました。病院の説明が早すぎて、質問できなかったこと。娘に心配をかけたくなかったこと。 帰り際に、「サプリは続けていいですよ。抗がん剤の量のことだけ、病院の先生と一緒に考えさせてください」と言いました。抗がん剤は、続きました。
30回かけて書いたのは、「疑え」ではなく「一人で決めるな」でした。
この連載を、「詐欺医療に騙されない」という題で始めました。読み返すと、どの回も同じことを言っています。 「一人で決めないでください。主治医に見せてください。お金の話は188に電話してください」。 疑う力は、病気のとき、いちばん弱くなります。だから、疑う力に頼らない仕組みを、元気なうちに作っておいてほしいのです。
私たちは在宅医です。ご自宅の棚のサプリも、玄関のパンフレットも、見えています。見えているのに黙っている医者にはなりたくない。 でも、頭ごなしに否定する医者にもなりたくない。「それ、どなたに勧められました?」から始める医者でいたいと思っています。 ご家族も、同じ一言から、始めてみてください。
この回のチェックリスト(第30回ぶん)
- 家族が怪しい治療を始めたら、最初の一言を「それ、どこで知ったの?」にすると決めた。
- 目標を「やめさせる」ではなく「主治医との線を切らせない」に置いた。
- 「サプリは止めない。病院の治療は続けてほしい」と、線を引く言い方を覚えた。
- 主治医に、家族から直接伝えてよいことを知っている。
- 家族自身の相談先(がん相談支援センター・包括・188)を控えた。
困ったときの相談先
電話番号と受付時間は変わることがあります。最新の内容は各ページでご確認ください。すでに契約した・お金を払ったあとでも相談できます。
- 消費者ホットライン 188(いやや)健康食品・健康器具・美容医療などの契約や勧誘の相談。局番なしの188で、お住まいの地域の消費生活センターにつながります/消費者庁「消費者ホットライン」
- 福岡市消費生活センター相談専用 092-781-0999(月〜金 9:00〜17:00、土 10:00〜16:00は電話のみ)。クーリングオフや返金の相談はここへ/福岡市「消費生活相談ご利用案内」
- 福岡市 医療安全相談窓口(各区衛生課)市内の医療機関での説明や診療に疑問があるとき。早良区 092-851-6567、城南区 092-831-4208、西区 092-895-7072、中央区 092-761-7325、南区 092-559-5115、博多区 092-419-1090、東区 092-645-1081(月〜金 9:30〜11:30、13:00〜16:00)/福岡市「医療安全相談窓口のご案内」
- がん相談支援センターがんの治療で迷ったとき。県内すべてのがん拠点病院にあり、その病院にかかっていなくても無料で相談できます/福岡県「福岡県内のがん拠点病院がん相談支援センター」
- 「健康食品」の安全性・有効性情報サプリや健康食品の成分を、名前で調べられる公的データベース(国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所)/hfnet.nibn.go.jp
- 医療機関ネットパトロール医療機関のホームページの「必ず治る」「副作用なし」などの表示を、厚生労働省の事業に通報できます/通報フォーム
「これ、受けても大丈夫ですか」と聞ける主治医を、持ってください。
ふくろう訪問クリニックは、福岡市早良区の在宅医療のクリニックです。 ご自宅はもちろん、有料老人ホーム・サービス付き高齢者向け住宅・グループホームへも医師が伺います。 勧められた治療やサプリのことを、否定されずに相談したい。病院で「もう治療はない」と言われて、次をどうするか迷っている。 どの段階のご相談でもかまいません。ご家族だけでのお問い合わせも歓迎します。
お電話:092-407-7337
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連載の外にある、ふくろう訪問クリニックのコラムです。この回の内容をさらに掘り下げたいときに読んでください。
- 患者さんとご家族のための訪問診療開始ガイド家族が主治医とどうつながるか、在宅医療の入口から書いた案内です。
- 認知症のとき:親の施設の選び方判断力が落ちてきた親を、家族がどう支えるか。契約や見守りの話が重なります。
連載「詐欺医療に騙されない」全30回
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REFERENCE 参考資料
- Hyodo I, Amano N, Eguchi K, et al. Nationwide survey on complementary and alternative medicine in cancer patients in Japan. J Clin Oncol. 2005;23(12):2645-2654(https://doi.org/10.1200/JCO.2005.04.126)
- Johnson SB, Park HS, Gross CP, Yu JB. Use of Alternative Medicine for Cancer and Its Impact on Survival. J Natl Cancer Inst. 2018;110(1)(https://doi.org/10.1093/jnci/djx145)
- Johnson SB, Park HS, Gross CP, Yu JB. Complementary Medicine, Refusal of Conventional Cancer Therapy, and Survival Among Patients With Curable Cancers. JAMA Oncol. 2018;4(10):1375-1381(https://doi.org/10.1001/jamaoncol.2018.2487)
- 国立がん研究センター がん情報サービス「がん相談支援センターとは」(https://ganjoho.jp/public/institution/consultation/cisc/cisc.html)
- 国民生活センター「2024年度 65歳以上の消費生活相談の状況」2025年9月3日(https://www.kokusen.go.jp/pdf/n-20250903_1.pdf)
- 厚生労働省「成年後見はやわかり」(https://guardianship.mhlw.go.jp/)

