降圧薬・スタチンを自己判断でやめた結果
「医者が飲まない薬」「薬が病気を作る」「血圧は下げるな」。書店の健康書の棚で、いちばん売れている一角です。 この本には、半分の真実があります。高齢者の薬は多すぎることがあり、減らしたほうがよい薬は確かにあります。 問題は、残りの半分です。この回では、「医師と減らす」と「本を読んでやめる」の間にある距離を測ります。
この回の結論
- 「薬をやめる」には二種類あります。主治医と数値を見ながら減らすことと、本を読んで自分でやめること。前者には根拠があり、後者には害の証拠があります。
- 75歳でスタチンを自分でやめた12万人の追跡では、心臓や脳の病気での入院が33%増えました。心臓のステント治療のあと抗血小板薬を早くやめた人は、血栓の危険が約90倍でした。
- 本当に減らすべき薬は、あります。それを決めるのは本ではなく、あなたの数値を見ている主治医です。
SECTION 01 なぜ、この本は売れるのか
「医者は自分では飲まない」「薬が新しい病気を作る」「血圧は年齢プラス90でいい」「コレステロールは高いほうが長生き」。 こうした本が売れるのには、理由があります。半分は本当だからです。 高齢の方が10種類以上の薬を飲んでいることは珍しくなく、副作用の重なりや飲み合わせで体調を崩すことは、実際にあります。国も学会も、高齢者の薬は見直すべきだと言っています。
本は、その「本当の半分」を入口にして、「だから自分でやめよう」という結論へ運びます。 ここが、確かめられていない部分です。
SECTION 02 二種類の「やめる」
図1 減薬は医療の正式な手順で、私たちも在宅で毎日やっている。自己中断は、その手順を飛ばしたもの。
厚生労働省は2018年に「高齢者の医薬品適正使用の指針」を出し、日本老年医学会は2025年に「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン」を10年ぶりに改訂しました。 どちらも、高齢者の薬を「一つひとつ、処方の目的に立ち返って見直す」ことを勧めています。つまり、薬を減らすことは、国と学会が勧める正式な医療です。 本を買わなくても、主治医に「薬を見直したい」と言えば、その手順は始まります。
SECTION 03 自分でやめた人に、何が起きたか
フランスの全国データで、心臓や脳の病気になったことのない75歳の人12万173人を追跡した研究があります。それまで2年以上きちんとスタチン(コレステロールの薬)を飲んでいた人のうち、 14.3%が薬をやめました。やめた人は、続けた人に比べて、心臓や脳の病気で入院する危険が33%高く、冠動脈の病気では46%高くなっていました(Giral ら、Eur Heart J 2019)。
心臓の血管にステント(金属の筒)を入れた2,229人の追跡では、血栓でステントが詰まった人は1.3%で、そのうち45%が亡くなりました。 詰まる危険をいちばん強く予測したのは、抗血小板薬(血液をさらさらにする薬)を早くやめたことで、危険は約90倍でした(Iakovou ら、JAMA 2005)。
一方、公平のために書きます。医師の管理のもとで高齢者の降圧薬をやめる試験(6本・1,073人)をまとめたコクランの解析では、短期間では死亡や心筋梗塞に明らかな差は見えませんでした。 ただし証拠の確実性は低く、期間は最長でも1年ほどでした(Gnjidic ら、2025)。「医師の管理下で、選ばれた人が、様子を見ながら」やめた結果です。本を読んで一人でやめた結果ではありません。
| 薬 | 自分で急にやめると | 医師と減らすときは |
|---|---|---|
| 抗血小板薬・抗凝固薬 | 最も危険。ステント血栓、脳梗塞。数日で起きることがある | 手術前など、やめる理由があるときだけ。期間を決めて |
| 降圧薬 | 種類によっては血圧が急に跳ね上がる(反跳)。脳卒中の危険 | 血圧を家で測りながら、1剤ずつ減らす |
| スタチン | すぐには何も起きない。数年で心臓・脳の病気が増える(上の研究) | 余命や目的を考えて、主治医と相談して決める余地がある |
| ステロイド・抗てんかん薬・インスリン | 最も危険。急な中断で命にかかわる | 必ず医師と。自分で減らしてはいけない |
| 睡眠薬・胃薬・痛み止め | 離脱症状や再発はあるが、上の薬ほどの緊急性はない | 減らせることが多い。主治医に「減らしたい」と言う |
表1 薬の種類ごとの、自己中断の危険と、減薬の進め方。「やめる相談」は歓迎、「やめてから報告」は危険。
SECTION 04 本を持って、主治医のところへ
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こう言われたら「医者は、自分ではこの薬を飲みません」こう聞き返す「私の主治医は、私の数値を見て、そう言いましたか」
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こう言われたら「血圧は、年齢プラス90でいいんです」こう聞き返す「その数字で脳卒中が減った試験は、いつ、何人で行われましたか」
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こう言われたら「薬をやめたら、みんな元気になっています」こう聞き返す「やめた人のうち、脳卒中や心筋梗塞になった人は、何人ですか」
いちばん危ないのは、「やめたことを主治医に言わない」ことです。飲んでいない前提を知らない主治医は、「効いていない」と判断して薬を増やすかもしれません。 そして、やめた薬の代わりに健康食品を始めるという組み合わせは、この連載で見てきた被害の典型です。
「先生、この本を読んだんですが」と、付箋だらけの本を差し出されることがあります。私たちは、その場で一緒に読みます。 「この章は本当です。この薬は、あなたにはもう要らないかもしれない。次の採血で確かめて、減らしましょう」「この章は、あなたには当てはまりません。この薬をやめると、脳梗塞の危険が上がります」。 本を否定せず、薬ごとに仕分けする。それが、本の正しい使い方です。実際、その本がきっかけで、3種類減らせた方もいます。
「減らしたい」という相談は、大歓迎です。
在宅医療で私たちが毎日やっていることの一つが、薬を減らすことです。入院中に始まったまま目的を失った薬、別々の病院で重なった薬、80代になって益より害が大きくなった薬。 減らすと、ふらつきが消え、食欲が戻り、飲み忘れが減ります。減薬は、本当に効く医療です。
だから、「薬をやめたい」という気持ちを、私たちは否定しません。ただ、その気持ちを、本ではなく、主治医に向けてください。 「全部やめたい」と言ってくれれば、そこから一緒に仕分けが始まります。黙ってやめられることだけが、私たちにとっていちばん怖いことです。
この回のチェックリスト(第25回ぶん)
- 「医師と減らす」と「自分でやめる」が別のものだと、人に説明できる。
- 抗血小板薬・抗凝固薬・ステロイド・抗てんかん薬・インスリンは、自分で止めてはいけないと知っている。
- 減らしたい薬があるなら、主治医に「減らしたい」と伝えた。
- すでに自分でやめている薬があるなら、次の受診でそのことを伝えることにした。
- 飲んでいる薬の一覧(お薬手帳)を、家族も見られる場所に置いた。
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電話番号と受付時間は変わることがあります。最新の内容は各ページでご確認ください。すでに契約した・お金を払ったあとでも相談できます。
- 消費者ホットライン 188(いやや)健康食品・健康器具・美容医療などの契約や勧誘の相談。局番なしの188で、お住まいの地域の消費生活センターにつながります/消費者庁「消費者ホットライン」
- 福岡市消費生活センター相談専用 092-781-0999(月〜金 9:00〜17:00、土 10:00〜16:00は電話のみ)。クーリングオフや返金の相談はここへ/福岡市「消費生活相談ご利用案内」
- 福岡市 医療安全相談窓口(各区衛生課)市内の医療機関での説明や診療に疑問があるとき。早良区 092-851-6567、城南区 092-831-4208、西区 092-895-7072、中央区 092-761-7325、南区 092-559-5115、博多区 092-419-1090、東区 092-645-1081(月〜金 9:30〜11:30、13:00〜16:00)/福岡市「医療安全相談窓口のご案内」
- がん相談支援センターがんの治療で迷ったとき。県内すべてのがん拠点病院にあり、その病院にかかっていなくても無料で相談できます/福岡県「福岡県内のがん拠点病院がん相談支援センター」
- 「健康食品」の安全性・有効性情報サプリや健康食品の成分を、名前で調べられる公的データベース(国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所)/hfnet.nibn.go.jp
- 医療機関ネットパトロール医療機関のホームページの「必ず治る」「副作用なし」などの表示を、厚生労働省の事業に通報できます/通報フォーム
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REFERENCE 参考資料
- Giral P, Neumann A, Weill A, Coste J. Cardiovascular effect of discontinuing statins for primary prevention at the age of 75 years: a nationwide population-based cohort study in France. Eur Heart J. 2019;40(43):3516-3525(https://doi.org/10.1093/eurheartj/ehz458)
- Iakovou I, Schmidt T, Bonizzoni E, et al. Incidence, predictors, and outcome of thrombosis after successful implantation of drug-eluting stents. JAMA. 2005;293(17):2126-2130(https://doi.org/10.1001/jama.293.17.2126)
- Gnjidic D, Langford AV, Jordan V, et al. Withdrawal of antihypertensive drugs in older people. Cochrane Database Syst Rev. 2025;3:CD012572(https://doi.org/10.1002/14651858.CD012572.pub3)
- 厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」2018年5月(https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/kourei-tekisei_web.pdf)
- 日本老年医学会「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2025」の概要(厚生労働省 検討会資料)(https://www.mhlw.go.jp/content/11125000/001622381.pdf)

