60年以上、消化器がんの土台であり続ける理由
胃がん、大腸がん、膵がん、食道がん、頭頸部がん。消化器のがんの治療の説明書を開くと、たいてい「5-FU」か、その飲み薬の名前があります。 1957年に生まれ、日本では1967年から。「がん細胞は、ある材料を人一倍取り込む」という一つの観察から作られた薬が、なぜ60年以上も土台であり続けるのかを追いかけます。
この回の結論
- フルオロウラシル(5-FU)は、「がん細胞は設計図の材料ウラシルを人一倍取り込む」という観察から、1957年に作られた薬です。日本では1967年から使われています。
- 手術のあとの大腸がんで再発を4割減らし、いまも胃・大腸・膵・食道・頭頸部がんの土台です。飲み薬(カペシタビン、S-1)に姿を変えて、家で続ける治療にもなりました。
- 副作用は下痢、口内炎、手足の皮膚、白血球の減少。点滴は約3,000円、飲み薬は1コース約2万円。46時間つないだまま家に帰る「携帯ポンプ」と付き合う薬でもあります。
この薬のプロフィール
| 一般名(商品名) | フルオロウラシル(5-FU注250mg・1000mg、協和キリン)。飲み薬の仲間にカペシタビン(ゼローダ。後発品あり)、S-1(第16回) |
|---|---|
| 薬の家族 | 殺細胞薬(ピリミジン系代謝拮抗薬) |
| 主に使うがん | 大腸がん(FOLFOX、FOLFIRI、術後補助)、胃がん、膵がん(FOLFIRINOX)、食道がん、頭頸部がん、乳がん、子宮頸がん、卵巣がん |
| 使い方 | 点滴。大腸がんでは急速注射のあと、46時間かけて持続点滴し、2週間ごとに繰り返す。持続点滴は携帯ポンプで家に帰ることが多い。飲み薬は2週間飲んで1週間休む |
| 日本での承認 | 1967年(注射)。カペシタビンは2003年発売 |
| 薬価の目安 | 5-FU注250mg 228円、1000mg 667円。ゼローダ錠300mg 107.3円、後発品46.4円(薬価基準、令和8年8月13日適用) |
SECTION 01 生まれた日:がん細胞の「好物」に毒を仕込む
1954年、米国の研究者ラトマンらは、ラットの肝臓のがんが、正常な肝臓よりも「ウラシル」という材料を盛んに使うことを見つけました。 ウラシルは、設計図の写し(RNA)を作る文字の一つです。がん細胞が人一倍取り込む材料に、毒を仕込めないか。
ウィスコンシン大学のハイデルバーガーは、ウラシルの一か所をフッ素に置き換える案を考えました。合成したのは製薬会社ロシュのドゥシンスキーで、1956年のことです。 翌1957年、この「フッ素つきウラシル」がマウスのがんを抑えると発表され、5-FUが生まれました。
- 1954年ラットのがんが、正常な組織よりウラシルを多く取り込むことが分かる。
- 1956年ウラシルにフッ素をつけた5-FUが合成される。翌年、腫瘍を抑える薬として報告された。
- 1967年日本で注射薬が承認される。以来、消化器がんの土台。
- 1990年大腸がんの手術のあとに使うと、再発と死亡が減ることが大規模試験で証明された。
- 2003年飲むと体の中で5-FUに変わるカペシタビンが日本で発売。家で続ける治療が広がった。
- 2005年〜46時間の持続点滴を組み込んだFOLFOXなどが、日本でも正式な使い方として認められた。
SECTION 02 どうやって効くのか:文字の偽物が、2か所で効く
5-FUは体の中で2つの姿に変わります。一つは、設計図(DNA)の文字チミジンを作る工場の酵素に座り込み、コピーの材料を切らします。 もう一つは、設計図の写し(RNA)の中にウラシルのふりをして紛れ込み、写しを壊します。分裂の速い細胞ほど、両方の影響を受けます。
- ゆっくり流すほど効く5-FUは血液中で数分で分解されます。だから一度に注射するより、46時間かけて流し続けるほうが、がん細胞の分裂の瞬間をとらえやすい。携帯ポンプはこのためにあります。
- 「レボホリナート」で効き目を強める葉酸の仲間を一緒に点滴すると、酵素への座り込みが強く、長くなります。FOLFOXの「FOL」はこの薬のことです。
- 飲み薬は、腫瘍の中で5-FUに変わるカペシタビンは腸から吸収されたあと、肝臓と腫瘍の中の酵素で段階的に5-FUに変わります。点滴の代わりに、家で飲めるようにした工夫です。
SECTION 03 なぜこんなに使われるのか:大腸がんの再発を4割減らした
1990年、米国のメイヨー・クリニックのモーテルらは、手術で取りきった大腸がん1,296人を、くじ引きで「経過を見る組」と「5-FUとレバミゾールを1年間使う組」に分けました。 リンパ節に転移のあった人では、再発のリスクが41%、死亡のリスクが33%減りました(Moertel ら、NEJM 1990)。
この結果で、リンパ節転移のある大腸がんに「手術のあと薬で再発を防ぐ」ことが標準になりました。 その後、レバミゾールはレボホリナートに置き換わり、オキサリプラチン(第14回)が加わってFOLFOXやCAPOXになりましたが、土台の5-FUは変わっていません。
| 使い方 | 主ながん | 家での姿 |
|---|---|---|
| FOLFOX・FOLFIRI | 大腸がん、膵がん(FOLFIRINOX)、胃がん | 急速注射のあと、46時間の持続点滴を携帯ポンプで。2週間ごと |
| 5-FU+シスプラチン | 食道がん、頭頸部がん(放射線と一緒に) | 4〜5日間の持続点滴。入院で行うことが多い |
| カペシタビン(飲み薬) | 大腸がん(CAPOX、術後)、胃がん、乳がん | 朝晩の食後に2週間飲んで1週間休む |
| S-1(飲み薬、第16回) | 胃がん、膵がんの術後など | 4週間飲んで2週間休む |
表1 5-FUとその飲み薬の主な使われ方(添付文書と学会ガイドラインによる。組み合わせと間隔は病院で調整される)。
添付文書の対象は胃・肝・大腸・乳・膵・子宮頸・子宮体・卵巣がんに、食道・肺・頭頸部がん(ほかの薬か放射線と併用)、 レボホリナートとの持続点滴療法(大腸・小腸・膵・胃がん)です。2005年の「抗がん剤併用療法に関する検討会」で、海外で標準だった持続点滴の使い方が日本でも正式に認められました。
SECTION 04 副作用と、家でできること:口、腸、手足の皮膚
5-FUが傷めるのは、分裂の速い粘膜と皮膚です。口内炎、下痢、手足の皮膚の荒れ(手足症候群)、そして白血球の減少。 持続点滴では手足の皮膚、急速注射では口と腸に出やすい、という違いがあります。
口内炎は、治療前の歯科受診、うがい、柔らかい歯ブラシ、熱い物や辛い物を避けることで軽くできます。 下痢は、水分と塩分をこまめにとり、止まらなければ早めに連絡します。1日に何度も続く下痢は脱水と腸炎の入口です。 手足症候群は、保湿剤を朝晩塗る、締めつける靴や長時間の立ち仕事を避ける、熱い風呂を避けることで、進み方を遅くできます。
ごくまれに、この薬を分解する酵素が生まれつき少ない体質(DPD欠損)の人がいて、最初の投与から重い副作用が出ます。 1回目のあとに口内炎・下痢・白血球減少が一度に強く出たときは、その旨を必ず伝えてください。
-
こんなときは1日に何回も下痢が続く、水分がとれない、便に血が混じるこうするその日のうちに病院へ連絡する。脱水と腸炎は、早いほど軽くすむ
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こんなときは携帯ポンプの薬が予定より早く減った、管がはずれた、針の周りが腫れて痛いこうする自分で触らず、病院か訪問看護へすぐ電話する。液が皮膚についたら流水で洗う
-
こんなときは歩くとふらつく、ろれつが回らない、胸が痛いこうするまれな脳と心臓の副作用の合図。その場で病院へ連絡する
飲み薬のカペシタビンは、血液を固まりにくくする薬(ワルファリン)と一緒だと出血の危険が上がるので、飲み合わせを必ず確かめます。 S-1(第16回)とカペシタビンは、同じ家族なので一緒には使いません。飲み薬は食後30分以内に、飲み忘れても2回分を一度に飲まないでください。
FOLFOXの方は、胸のポート(皮膚の下に埋めた点滴の入口)に針を刺し、46時間分の5-FUが入った携帯ポンプをつけて帰ってきます。 2日後の抜針を訪問看護が担うことがあり、そのときに皮膚の赤み、ポンプの残量、便の回数を見ます。 ポンプは風船が縮む力で流れる仕組みなので、電池切れの心配はありません。お風呂は入口を濡らさない工夫をします。
飲み薬の方では、手足の皮膚と口の中を見せてもらいます。「保湿剤を塗る」は、この薬に限っては立派な治療です。
SECTION 05 薬価と自己負担:点滴は約3,000円、飲み薬は1コース約2万円
5-FU注は250mgが228円、1000mgが667円です(薬価基準、令和8年8月13日適用)。 FOLFOXで使う量(体表面積1平方メートルあたり急速注射400mg+持続点滴2,400mg)なら、1回およそ4,500mgで約3,100円。 組み合わせるオキサリプラチンやレボホリナートを含めても、薬代の中心は5-FUではありません。
飲み薬のカペシタビン(ゼローダ錠300mg)は1錠107.3円、後発品は46.4円。大腸がんの術後で1日12錠を14日間飲むと、 1コースの薬代は先発品で約1万8千円、後発品なら約7,800円です。3割負担なら1コース約5,400円か約2,300円で、通院の診察料と検査料が加わります。
ポンプをつけて帰る2日間を、怖がらないでほしい。
「点滴をつけたまま家に帰る」と聞くと、ご家族は身構えます。でも、あの46時間は、病院のベッドより家のほうが楽に過ごせる時間です。 ポンプは静かで、電源もいらず、洗面も食事もふだんどおりにできます。
私たちが見ているのは、ポンプよりも便の回数と口の中です。5-FUは60年以上使われてきて、何日目に何が起きるかがよく分かっている薬です。 「下痢が続いたら電話」「口の中を毎日見る」。この2つを家族で共有できれば、この薬は家で付き合える薬です。
「この薬、家ではどう気をつければいいですか」と聞ける主治医を、持ってください。
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Q&A よくある質問
この回のチェックリスト(第4回ぶん)
- 治療前に歯科を受診し、口の中を整えた。
- 下痢が続いたときの連絡先と、「1日何回で電話するか」の目安を病院に聞いた。
- 携帯ポンプの異常(残量、管、針の周り)の連絡先を、ポンプのポーチに貼った。
- 保湿剤を朝晩塗る習慣をつけ、手足の皮膚を毎日見ている。
- 飲み薬なら、ほかの薬との飲み合わせを薬局で確かめた。
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- 治療を受けている病院の外来・化学療法室副作用が出たとき、まず連絡する先です。夜間や休日の連絡先は、治療の説明書や「治療日誌」に書かれていることが多いので、目につく場所に貼っておいてください。
- がん相談支援センター治療や薬のこと、お金や仕事のことを無料で相談できます。県内すべてのがん拠点病院にあり、その病院にかかっていなくても利用できます/福岡県「福岡県内のがん拠点病院がん相談支援センター」
- がん情報サービス(国立がん研究センター)がんの種類ごとの標準治療と、使われる薬の情報を、公的機関がまとめています/ganjoho.jp
- くすりのしおり(くすりの適正使用協議会)処方された薬の飲み方・注意・副作用を、薬の名前で調べられる患者向けの情報です/rad-ar.or.jp/siori
- 高額療養費制度の窓口(加入している健康保険)1か月の自己負担に上限を設ける制度です。会社の健康保険組合・協会けんぽ・市区町村の国民健康保険・後期高齢者医療広域連合など、保険証(資格確認書)に書かれた保険者に申請します。マイナ保険証を使えば、窓口での支払いが最初から上限額までになります/厚生労働省「高額療養費制度を利用される皆さまへ」
- かかりつけ薬局の薬剤師飲み薬の抗がん剤と、ほかの薬・サプリメント・食べ物との飲み合わせは、薬局で確かめられます。お薬手帳を1冊にまとめておくと早いです。
REFERENCE 参考資料
- 協和キリン「5-FU注250mg・1000mg 添付文書」2026年6月改訂(第5版)(https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuDetail/ResultDataSetPDF/230124_4223401A3022_1_17)
- 協和キリン「5-FU注 医薬品インタビューフォーム」(開発の経緯:1956年合成、1967年7月輸入承認)(https://www.info.pmda.go.jp/go/interview/1/230124_4223401A3022_1_016_1F.pdf)
- チェプラファーム「ゼローダ錠300 添付文書」2026年2月改訂(販売開始2003年6月)(https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuDetail/ResultDataSetPDF/450900_4223005F1022_2_02)
- 厚生労働省「薬価基準収載品目リスト及び後発医薬品に関する情報について(令和8年8月13日適用)」(https://www.mhlw.go.jp/topics/2026/04/tp20260401-01.html)
- Rutman RJ, Cantarow A, Paschkis KE. The catabolism of uracil in vivo and in vitro. J Biol Chem. 1954;210(1):321-329(https://doi.org/10.1016/S0021-9258(18)65456-0)
- Heidelberger C, et al. Fluorinated pyrimidines, a new class of tumour-inhibitory compounds. Nature. 1957;179(4561):663-666(https://doi.org/10.1038/179663a0)
- Moertel CG, et al. Levamisole and fluorouracil for adjuvant therapy of resected colon carcinoma. N Engl J Med. 1990;322(6):352-358(https://doi.org/10.1056/NEJM199002083220602)
- 国立がん研究センター がん情報サービス「口内炎・口内の乾燥」2025年10月21日更新(https://ganjoho.jp/public/support/condition/stomatitis/index.html)、「下痢」(https://ganjoho.jp/public/support/condition/diarrhea/index.html)、「皮膚のトラブル」(https://ganjoho.jp/public/support/condition/skin/index.html)
- 国立がん研究センター がん情報サービス「大腸がん(結腸がん・直腸がん) 治療」2025年3月24日更新(https://ganjoho.jp/public/cancer/colon/treatment.html)

