サリドマイド薬害から復活した、骨髄腫の薬
1957年に西ドイツで売り出された睡眠薬サリドマイドは、妊婦が飲むと手足の短い赤ちゃんが生まれる薬害を起こし、日本でも309人が被害を認定されました。消えたはずのその薬に、がんの血管を止め免疫を整える働きが見つかり、1999年、多発性骨髄腫で効くことが示されます。 改良型のレナリドミドが2010年に日本で承認されるまでの道のり、催奇形性への管理手順、「のり」になって効く仕組みが日本の研究で分かった話、血栓と感染の見張り、後発品で半分以下になった薬代まで書きます。
この回の結論
- 1950年代の睡眠薬サリドマイドは、妊婦が飲むと手足の短い赤ちゃんが生まれる薬害を世界中で起こしました。その薬に、がんの血管を止め、免疫を整える働きがあると分かり、1999年に多発性骨髄腫で効くことが示されます。改良して効き目を強め、催奇形性への管理をつけたのがレナリドミドで、2010年に日本で承認されました。
- 多発性骨髄腫は、骨髄の中で抗体を作る細胞ががん化する病気で、日本で年間約8,000人が診断されます。この薬が加わって、治らない病気のまま「10年近く付き合う病気」に変わりました。ステロイドと組んで、家で飲み続けます。
- 副作用は血栓(脚の静脈、肺)、白血球の減少、皮疹、感染。妊娠を避ける管理手順(RevMate)が承認の条件です。薬代は1サイクル(28日)約84万円、後発品で約38万円で、高額療養費の上限に届きます。
この薬のプロフィール
| 一般名(商品名) | レナリドミド(レブラミドカプセル。後発品「レナリドミドカプセル」あり)。元になった薬はサリドマイド(サレドカプセル) |
|---|---|
| 薬の家族 | 免疫調節薬(IMiDs)。サリドマイドの誘導体 |
| 主に使うがん | 多発性骨髄腫(最初の治療から、再発後まで。移植のあとの維持療法にも)、5番染色体の一部が欠けた骨髄異形成症候群、再発した成人T細胞白血病リンパ腫、再発したろ胞性リンパ腫(リツキシマブと) |
| 使い方 | 飲み薬。骨髄腫では1日1回25mg(5mgカプセル5個)を21日飲んで7日休む。デキサメタゾンや他の薬と組む。腎臓の働きで減量 |
| 日本での承認 | 2010年6月(再発した骨髄腫)。2010年骨髄異形成症候群、2015年最初の治療から、2017年成人T細胞白血病、2020年ろ胞性リンパ腫。2023年に後発品 |
| 薬価の目安 | レブラミドカプセル5mg 8,005.5円、2.5mg 6,762.4円。後発品は5mg 3,590.6円、2.5mg 2,869.4〜3,137.8円(薬価基準、令和8年8月13日適用) |
SECTION 01 生まれた日:薬害の薬が、40年後にがんの薬になった
1957年、西ドイツで売り出された睡眠薬サリドマイドは、「安全な薬」として妊婦のつわりにも使われました。日本でも1958年から「イソミン」の名で売られています。 ところが1961年、この薬を妊娠初期に飲んだ母親から、手足の短い赤ちゃんが生まれることが報告されます(McBride、Lancet 1961)。世界で数千人、日本で認定された被害者は309人。日本の販売停止は西ドイツより遅れて1962年9月、被害者と国・会社の和解は1974年でした(いしずえ)。
薬は消えましたが、研究は残りました。1965年、ハンセン病の皮膚の炎症に効くことが偶然分かり(Sheskin、Clin Pharmacol Ther 1965)、1994年には、フォークマン(第23回)の研究室で、がんの血管を呼ぶ働きを止めることが示されます(D’Amato ら、PNAS 1994)。 1999年、ほかの治療が効かなくなった多発性骨髄腫84人にサリドマイドを飲んでもらうと、3人に1人で効きました(Singhal ら、NEJM 1999)。米国の会社セルジーンは、この薬の骨格を少し変えて効き目を強め、副作用を減らしたレナリドミドを作ります。2005年に米国、2010年に日本で承認されました。
- 1957年サリドマイドが西ドイツで発売。1958年、日本でも発売。
- 1961年妊婦が飲むと赤ちゃんに障害が出ると報告。1962年、日本で販売停止・回収。認定被害者309人。
- 1965年ハンセン病の皮膚の炎症に効くと偶然分かる。1994年、がんの血管を呼ぶ働きを止めると判明。
- 1999年再発した多発性骨髄腫の3人に1人に効くと報告。
- 2005〜06年改良型のレナリドミドが米国で承認(骨髄異形成症候群、次いで骨髄腫)。
- 2008年サリドマイドが日本で骨髄腫に承認(妊娠回避の管理手順つき)。2010年6月、レナリドミドが日本で承認。
- 2010年東京工業大学の半田宏らが、サリドマイドが結びつく相手(セレブロン)を突き止め、催奇形性の仕組みを解明(Ito ら、Science 2010)。
- 2015年最初の治療から使えるようになる。2023年、後発品が発売。
SECTION 02 どうやって効くのか:「のり」になって、いらないたんぱくを分解させる
この薬の効き方は、長いあいだ謎でした。2010年に日本の研究者が「セレブロン」というたんぱく質に結びつくことを見つけ、2014年、その先が分かります。レナリドミドはセレブロンと骨髄腫の細胞に必要なたんぱく質(イカロス、アイオロス)の間に「のり」のように挟まり、細胞のごみ処理の仕組みにそれらを分解させます(Krönke ら、Lu ら、Science 2014)。 骨髄腫の細胞は、この2つのたんぱく質がないと生きられません。
- 免疫も整える免疫細胞(T細胞、NK細胞)の働きを高め、骨髄腫の細胞を攻撃させます。抗体薬(第21回、第35回)と組むと、この働きが効き目を後押しします。
- 同じ仕組みが、赤ちゃんの手足を傷つけた胎児の手足を作るたんぱく質も、同じ「のり」で分解されていたと考えられています。効き目と催奇形性は、同じ仕組みの表と裏です。
- 「のり」の薬という新しい家族目当てのたんぱく質を分解させる「分子のり」という考え方は、この薬の解明から広がり、いま多くの薬が開発中です。
SECTION 03 なぜこんなに使われるのか:再発でも、最初からでも、移植のあとでも
2007年、再発した多発性骨髄腫704人を、2つの試験でくじ引きで「デキサメタゾン(ステロイド)だけ」と「レナリドミドを足す」に分けました。進行までの期間は4.7か月から11.1〜11.3か月に延びました(Weber ら、Dimopoulos ら、NEJM 2007)。 2014年、移植をしない初発の骨髄腫1,623人では、それまでの標準(メルファラン+プレドニゾン+サリドマイド)に比べ、レナリドミド+デキサメタゾンを続ける治療で進行までの期間が21.2か月から25.5か月に延び、4年生存率は51%から59%に上がりました(Benboubker ら、NEJM 2014)。
自家移植のあとにこの薬を飲み続ける維持療法では、進行までの期間が27か月から46か月に延び(McCarthy ら、NEJM 2012)、3つの試験をまとめた解析で7年生存率が50%から62%に上がりました(McCarthy ら、J Clin Oncol 2017)。 「がんが見えなくなっても飲み続ける」使い方(第32回と同じ考え方)が、骨髄腫の標準になりました。
| 場面 | 組む薬 | 決め手になった試験 |
|---|---|---|
| 初発、移植をしない人(高齢者に多い) | デキサメタゾン、ダラツムマブ(第35回) | Benboubker 2014、MAIA試験(第35回) |
| 初発、移植をする人 | ボルテゾミブ+デキサメタゾン(+ダラツムマブ)で導入、移植後に維持療法 | McCarthy 2012・2017(7年生存50→62%) |
| 再発したあと | デキサメタゾンと、抗体薬や他の薬 | Weber 2007、Dimopoulos 2007(進行まで4.7→11か月) |
| 5番染色体欠失の骨髄異形成症候群 | 単独(1日10mg) | 輸血が不要になる人が増える |
| 再発したろ胞性リンパ腫 | リツキシマブ(第21回)と | 2020年承認 |
表1 レナリドミドの主な使われ方(添付文書と学会ガイドラインによる)。骨髄腫の治療は、3つの家族の薬を2〜4種類組み合わせ、効かなくなったら組み替える。
添付文書の対象は、多発性骨髄腫、5番染色体長腕部欠失をともなう骨髄異形成症候群、再発または難治性の成人T細胞白血病リンパ腫、再発または難治性のろ胞性リンパ腫・辺縁帯リンパ腫です。 催奇形性のため、承認の条件として「RevMate(レナリドミド・ポマリドミド適正管理手順)」が定められ、処方のたびに医師・薬剤師・患者の三者が手順を確かめます。妊娠の可能性のある女性は妊娠検査を、男性はコンドームを、全員が献血の禁止と残った薬の返却を守ります。
SECTION 04 副作用と、家でできること:血栓、白血球、皮疹、そして妊娠回避
添付文書の集計では、好中球減少40.1%、貧血20.4%、血小板減少19.2%、感染症22.0%、便秘21.2%、疲労21.1%、発疹14.0%、腫瘍フレア10.9%、深部静脈血栓症6.2%、肺塞栓症3.0%、脳梗塞・一過性脳虚血発作1.5%、末梢神経のしびれ7.5%。 重大なものとして、重い皮膚症状、B型肝炎の再活性化、進行性多巣性白質脳症、心筋梗塞・心不全、腎障害、甲状腺機能低下、そして催奇形性が記されています。
血栓はこの家族の薬の最も重い副作用で、多くの病院で低用量アスピリンなどを予防に使います。片脚の腫れと痛み、急な息苦しさ・胸の痛みが合図です。長時間同じ姿勢を避け、水分をとります。 白血球の減少は採血で見て、飲む日数や量を調整します。37.5度以上の熱は連絡します(がん情報サービス「感染しやすい・白血球減少」)。
皮疹は飲み始めの数週間に出やすく、かゆみ止めや塗り薬で続けられることが多いですが、広がる・粘膜に出る・熱をともなうときは重い皮膚症状の合図です。 妊娠回避は、飲み始める4週間前から飲み終えて4週間後まで。腎臓の働きが弱い人は量を減らします。高脂肪の食事の前後を避けて飲みます。
-
こんなときは片脚が腫れて痛い、急な息苦しさ、胸の痛み、片方の手足の力が抜けるこうする血栓(脚・肺・脳)の合図。すぐ病院へ。夜なら救急に電話する
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こんなときは37.5度以上の熱、寒気、咳と痰こうする感染の合図。白血球が減っている時期なら、夜間・休日でも電話する
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こんなときは皮疹が全身に広がる、口や目の粘膜がただれる、発熱をともなうこうする重い皮膚症状の合図。薬を飲まずに、その日のうちに受診する
妊婦・妊娠の可能性のある女性は使えません。飲んでいる間と飲み終えて4週間は、男性も女性も避妊し、献血をしません。薬を家族と共有しない、余った薬は薬局に返す、が管理手順の決まりです。 治療前にB型肝炎ウイルスの検査を受けます。生ワクチンは避けます。
骨髄腫の患者さんは高齢の方が多く、この薬とステロイドを家で飲みながら、月1〜2回の通院で治療を続けています。在宅で見ているのは、骨の痛み、腎臓、そして感染です。 RevMateの用紙(飲み忘れ・残薬・避妊の確認)は、訪問時に薬剤師と一緒に確かめます。
「片脚だけむくむ」を見逃さないことが、この薬での一番の仕事です。両脚のむくみは心臓や腎臓、片脚だけなら血栓。ふくらはぎの太さを両方測って比べる習慣を、ご家族に持ってもらいます。
SECTION 05 薬価と自己負担:1サイクル約84万円、後発品で約38万円
レブラミドカプセル5mgは8,005.5円。骨髄腫の量(1日25mg=5個)で1日40,028円、21日飲むと1サイクル(28日)約84万円です。後発品(5mg 3,590.6円)なら約38万円。骨髄異形成症候群の量(1日10mg)なら1サイクル約34万円(後発品約15万円)です(薬価基準、令和8年8月13日適用)。 デキサメタゾンは1か月数百円ですが、抗体薬(第35回)を組むと薬代は月100万円を超えます。
3割負担なら月25万円で、高額療養費の上限に届きます。70歳未満・年収約370〜770万円なら月85,800円+(医療費−286,000円)×1%=約9万1千円、4か月目からは44,400円。70歳以上・一般なら外来22,000円が上限です(第1回の表1)。 年単位で続ける薬なので、後発品への切り替えと多数回該当を最初に確かめます。
薬害の記憶を持ったまま、薬を使う。
サリドマイドの薬害は、日本の薬事制度を変えた出来事です。その薬が形を変えて骨髄腫の標準治療になったとき、承認の条件は「二度と胎児にさらさない」でした。 RevMateの用紙が面倒だと感じる患者さんに、私は309人という数字の話をします。面倒さは、この薬の歴史そのものです。
骨髄腫は、私が医師になったころは診断から数年の病気でした。いま、在宅で診ている骨髄腫の方の多くは、診断から5年、10年と暮らしています。効き目の仕組みが分かったのが承認の後だった、というのも、この薬らしい話です。
「この薬、家ではどう気をつければいいですか」と聞ける主治医を、持ってください。
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Q&A よくある質問
この回のチェックリスト(第34回ぶん)
- ふくらはぎの太さを両脚で比べ、片脚だけの腫れ・痛みはすぐ受診する。
- 血栓予防の薬(アスピリンなど)を飲んでいることを、歯科や他の病院にも伝える。
- RevMateの用紙(飲み忘れ・残薬・避妊)を処方のたびに確かめる。献血はしない。
- 37.5度以上の熱は、夜間・休日でも連絡する。
- 後発品への切り替えと、高額療養費の多数回該当を確かめた。
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連載「優秀な抗がん剤」全50回
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薬のこと・お金のことの相談先
電話番号や制度の内容は変わることがあります。最新の内容は各ページでご確認ください。治療中の方も、治療を終えた方も、ご家族だけでも相談できます。
- 治療を受けている病院の外来・化学療法室副作用が出たとき、まず連絡する先です。夜間や休日の連絡先は、治療の説明書や「治療日誌」に書かれていることが多いので、目につく場所に貼っておいてください。
- がん相談支援センター治療や薬のこと、お金や仕事のことを無料で相談できます。県内すべてのがん拠点病院にあり、その病院にかかっていなくても利用できます/福岡県「福岡県内のがん拠点病院がん相談支援センター」
- がん情報サービス(国立がん研究センター)がんの種類ごとの標準治療と、使われる薬の情報を、公的機関がまとめています/ganjoho.jp
- くすりのしおり(くすりの適正使用協議会)処方された薬の飲み方・注意・副作用を、薬の名前で調べられる患者向けの情報です/rad-ar.or.jp/siori
- 高額療養費制度の窓口(加入している健康保険)1か月の自己負担に上限を設ける制度です。会社の健康保険組合・協会けんぽ・市区町村の国民健康保険・後期高齢者医療広域連合など、保険証(資格確認書)に書かれた保険者に申請します。マイナ保険証を使えば、窓口での支払いが最初から上限額までになります/厚生労働省「高額療養費制度を利用される皆さまへ」
- かかりつけ薬局の薬剤師飲み薬の抗がん剤と、ほかの薬・サプリメント・食べ物との飲み合わせは、薬局で確かめられます。お薬手帳を1冊にまとめておくと早いです。
REFERENCE 参考資料
- ブリストル・マイヤーズ スクイブ「レブラミドカプセル2.5mg・5mg 添付文書」2026年6月改訂(https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuDetail/ResultDataSetPDF/670605_4291024M1024_2_06)、同 医薬品インタビューフォーム(開発の経緯:2010年6月25日承認、2010年8月骨髄異形成症候群、2015年12月未治療を含む多発性骨髄腫、2017年3月成人T細胞白血病リンパ腫、2020年2月濾胞性リンパ腫、RevMate);藤本製薬「サレドカプセル 医薬品インタビューフォーム」(2008年10月16日承認)
- 厚生労働省「薬価基準収載品目リスト及び後発医薬品に関する情報について(令和8年8月13日適用)」(https://www.mhlw.go.jp/topics/2026/04/tp20260401-01.html)
- 公益財団法人いしずえ(サリドマイド福祉センター)「サリドマイド事件の概要/被害の実態」(http://ishizue-twc.or.jp/thalidomide/damage-01/);McBride WG. Thalidomide and congenital abnormalities. Lancet. 1961;278(7216):1358(https://doi.org/10.1016/S0140-6736(61)90927-8)
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- 国立がん研究センター がん情報サービス「多発性骨髄腫」2023年12月6日更新(https://ganjoho.jp/public/cancer/MM/index.html)、「骨髄異形成症候群」2023年12月6日更新(https://ganjoho.jp/public/cancer/MDS/index.html)、「感染しやすい・白血球減少」2023年8月10日更新(https://ganjoho.jp/public/support/condition/FN/index.html)

